安心して子育てできる環境を「当たり前」にしたい
2022.03.15

“孤育て”を回避! 行政×病院で子育て支援

島根 済生会江津総合病院
Let’s SINC
市と病院が協働し、地域で暮らす母親・父親が安心して子育てできるサポート体制をつくる

市と病院がタッグ! 妊産婦をしっかりサポート

周囲に同世代の頼れる人や相談相手がいない、共働きでのワンオペ育児など、孤独を感じながら子育てをするーーそんな「子育て」ならぬ「孤育て」に陥ってしまう親が増えています。

そうした状況を回避するべく、市とタッグを組み、子育て支援に力を入れている病院が島根県にあります。島根県・江津市の中心部にある済生会江津総合病院
県内でも最も人口が少ない江津市で産まれる赤ちゃんは年間約100人。同院は、その8割の出産に関わっています。

同院は、2015年に助産師による子育て相談外来を立ち上げました。「子育て相談外来」とは妊産婦の相談窓口のこと。産後の1カ月健診のほかに電話相談や産後1週目の子育て相談を行なっています。

2019年には江津市子育て支援課の提案で地域母子連絡会議を設立。毎月開かれる会議にて、市の保健師や栄養士、病院の産婦人科医師や助産師が妊産婦に関する情報を共有しています。
妊娠中に細かな経過観察が必要だったり、前回の妊娠時にストレスによる問題行動が見られたりした妊婦、また、子どもの発育に不安を抱える母親を、市と病院が協力して、入院前から退院後までをしっかりと支える新たな体制を整えました。

地域母子連絡会議のメンバー。
江津市の保健師(前列両端)、同院産婦人科医(前列中央)、同院助産師3人(後列)

「どんな悩みも気軽に話して」

新体制の下、充実させたのは母親の「産後フォロー」。産後の無料電話相談や退院後1週目の無料子育て相談外来、1カ月健診、母乳育児困難者への乳腺炎重症化予防ケア、産後2週間健診(江津市の委託事業)といったサポート体制を順次整えていきました。

同院にて助産師を務める杉井美保さんは話します。
「特に支援が必要な母親でも以前は『退院後1週間目の子育て相談外来』と『1カ月健診』の2回しか相談の場がありませんでした。現在は平均4~5回利用してもらえるようになりました。お母さんやお父さんからも『相談相手ができて安心』という声をいただいています」

助産師の杉井美保さん

また、子育て相談外来では連絡会議で共有した情報をベースに診察を行ない、杉井さんたち助産師が支援対象の母親に付き添って保健師と三者で面談をします。その場で診察結果を保健師にフィードバックすることで、保健師が状況に応じて早期から家庭訪問や電話訪問を行なうことが可能となりました。

「以前は母親が抱える問題を明らかにする『エジンバラ産後うつ問診票』で9点以上となった方を保健師に紹介するケースもありました。子育ての悩みを抱え込まないよう、情報共有・連携の仕組みを変えた現在は、早期からの対応が可能となり、そうした事例はほとんどありません。1カ月健診後は保健師へと引き継ぎを行ないますが、その後の母子の様子も連絡会議で情報共有を継続します。母親と子どもを孤立させないよう、また、悩みを長引かせないように市と病院が支え続けます」(杉井さん)

「子育ての悩みがあれば気軽に病棟へ電話して」と常に病院を訪れる母親に声かけをしている杉井さん。こうしたスタッフのホスピタリティも、母親の安心につながっています。

※エジンバラ産後鬱問診票(EPDS)…イギリスの精神科医John Coxらによって、産後うつ病のスクリーニングを目的に作られた10項目の質問票のこと。母親自身が質問項目を読んで自分の気持ちに最も近い回答を選択する形式で、メンタルケアのツールとしても用いられています。(※参照:厚生労働省「外国語版EPDS活用の手引き」より)

子育て中の心の拠り所に

お母さんお父さんが抱える育児の悩みに寄り添う子育て相談外来。
「母乳での授乳で子どもの体重が増えてきました!」「入院中はあまり泣かなかったのに、よく夜泣きするんです」など、子育て中の気づきや喜び、疑問を話せる場所になっています。

「子育て相談外来では同時期に出産した母親同士が楽しく談笑する姿もよく見られます。子育てをするお母さんやお父さんたちにとっての心の拠り所になれていることがとてもうれしいです」と話す杉井さん。相談の場としてだけではなく、親同士のコミュニティも生まれています。

「これからも江津市とともに、この地域で子育てをする人や子どもの安心、笑顔を守り続けたい」と語る杉井さん。
安心して子育てできる環境を行政と病院が協働して創り出すことが「地域で子どもを育てる」という価値観を地域に広め、弧育てを回避することにもつながるのではないでしょうか。

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