コロナ禍で困窮する人を病院の備蓄食糧品で支えたい
2022.07.15

地元大学生とタッグ! 病院資源を活用し地域に届けるしくみ

福岡 済生会二日市病院
Let’s SINC
コロナ禍で表面化した社会課題に、自分たちの持つ資源と地域連携で立ち向かう

賞味期限の迫った備蓄食糧品を有効活用!

 長引くコロナ禍によって、日常は突然大きな困難に直面しました。差別や貧困など、社会的な孤立や排除が浮き彫りになるだけでなく、目に見えづらいところで、多くの問題が起きています。このような難局においてこそ、ソーシャルインクルージョンの考えのもと、それぞれが持つ資源や人材を共に活かしていくことが求められています。

 福岡県の済生会二日市病院が活用したのは「備蓄食糧品」。病院では災害時への備えとして、水やパン、7年間保存できるご飯、おでん缶やビスケットなど、入院患者さんと職員を併せて300名3日間分の食糧を備蓄しています。これまで院内の備蓄食糧品は賞味期限が迫ると、一部を他団体に提供することもありましたが、基本的には職員や患者さんの災害時の食事体験の機会に活用されていました。

大学のフードドライブ活動に参加

 フードロス削減のためにも賞味期限の迫った備蓄食糧品の行先について考えたとき、「コロナ禍で多くの人の収入が減少し生活に困っている方が数多くいることに思い至った」と備蓄の管理等を担当する栄養部科長の和田恵美子さんは話します。

「早速、当院の地域連携室の医療ソーシャルワーカーが、筑紫野市社会福祉協議会に『お役にたてることはないか』と相談しました。病院のある筑紫野市のお隣、太宰府市に本拠地を置く「筑紫女学園大学」の紹介を受けました」(栄養部科長 和田さん)

 大学では、学生支援の取り組みの一環として、学生たちが主体となってフードドライブ活動を行なっていました。フードドライブとは、各家庭から未使用食品を持ち寄り、福祉団体・施設などに寄付するもの。寄付先には、安全に食べられるにも関わらず、包装破損や過剰在庫などの理由で流通に出すことができない食品を企業などから集め、必要としている施設、困窮世帯に無償で提供する“フードバンク”の団体も含まれます。
 二日市病院では、2020年5月に大学側と協議をスタート。7月には1度目の寄付を行ない、その後も2度に分けておかゆなどの防災食や野菜ジュースを提供しました。

備蓄品の管理は栄養部が担当する(左から二番目が栄養部科長の和田恵美子さん)

浮き彫りになった大学生たちの困窮

 大学では在学生へ向けた支援も行なっています。コロナ禍によって、「アルバイトができなくて生活が苦しい」「家庭(保護者)の収入が減少したため、生活費を節約している」といった声が聞かれるそう。大学が実態調査を行ったところ、アルバイトをしている学生のうち、アルバイトによる収入が「減少した」と回答した学生は7割超。また「経済的な理由によって経験したこと(経験していること)」を尋ねると、約2割から「貯金が底をついた」、約1割から「必要な食料品が買えなかった」と厳しい回答が返ってきたといいます。

※実態調査実施:2020年5月/対象:筑紫女学園大学学生(大学院生含む)2,800名/回答:1,835名

 食品・生活用品などを受け取った学生からは、「食料をいただけて、本当に助かります」、「食費を削っていたので、少しでも支援していただけると生活が楽になります」、「支援をしていただいて、とても有り難いです」という声が聞かれています。(2020年5月に始めた支援を受けた大学生は、2022年5月現在、延べ2650人)。

「コロナ禍をきっかけとして、地域の学生たちの現状を知ることとなりました。備蓄食糧品の提供だけでなく、引き続き地域に根差した病院だからこそできる支援を考えています」(和田さん)

「持っている資源を活用して、必要な人に届ける」。さまざまな場所で広がりを見せるフードバンクやフードドライブの活動ですが、提供する側にもフードロスの回避や地域との新たなつながりが生まれるきっかけとなっています。「お互いの困りごとを解決し、助け合う」、日々の業務のちょっとした気づきからも、誰もが安心して住み続けられるまちづくりがはじまっていきます。

備蓄品の一例

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