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ユニクロ
“前あきインナーシリーズ”
ユニクロ
“前あきインナーシリーズ”
ユニクロ“前あきインナーシリーズ”
一通の手紙から生まれた
人に寄り添うインナーの秘密
乳がん患者、介護を受けている高齢者、障害をもつ子どもなどに向けて開発されたユニクロの“前あきインナー”。日常生活の中にハードルがあるからこそ、脱ぎ着しやすく買い替えのしやすい価格で、心が明るくなるような商品が求められています。ユニバーサルデザインとしても広がりをみせているこのインナーを生んだのは、一通の手紙からはじまる「こんな商品がほしい」という声。それに応える開発担当者たちの試行錯誤の道のりを取材しました。
がん闘病を経験した、
1人の看護師から届いた手紙
はじめまして。
はじめてお便りいたします。御無礼をお許し下さい。
実はお願いがあります。ユニクロで商品化してほしいシリーズがあります。
前開きインナーとブラジャーです。実は2年前、がんになり手術をうけました。
その際必要だったのが、前開きのインナーです。
体が点滴やチューブでつながれている間、かぶり型のインナーは着替えるのに一苦労。それだけでヘトヘトになってしまいます。入院前に前あきのインナーを探しましたが、介護用のものばかり……。うら若き女性が、着たいデザインのものはありません。ユニクロのインナーが前あきだったら……と恨めしい思いで売場を歩いたものです。(中略)
ユニクロに病人、介護ラインがあったら……。
今のヒートテックやサラファインで、前開きラグラン袖のオシャレなインナー!!
入院中も気分よくすごせる、洗濯してすぐ乾く、干していても見苦しくない。着やすい、ぬぎやすい。きれいな色。かわいい柄もの。ルームウェアと兼用。
そんなインナーを開発して下さい。私は寝たきりになってもユニクロのインナーが着たいので。
患者さんにも(私は看護師です)ユニクロをおすすめしたいし、病院の売店でも販売してほしい。それが、 今の夢かな……。勝手申しましてすいません。お心にお留めいただければ幸いです。
※実際の手紙より抜粋
入院中も気分よく過ごせるインナーがほしい!
「ユニクロで商品化してほしいシリーズがあります」
がんを患い、長い闘病生活を送ったある女性から、一通の手紙がユニクロに届いたのは2018年のこと。
彼女は看護師でもありました。
その手紙には、「ユニクロのインナーが前あきだったら」と、うらめしい思いで売場を歩いたことが書き綴られていました。
ただでさえ体力が落ちて脱ぎ着が大変なうえ、治療時にインナーが人の目に触れることが多い入院中。性別や年齢にかかわらず、
たった一着の服が、その日の体調や気分を左右します。
「入院中も気分よく過ごせる。洗濯してすぐ乾く。干していても見苦しくない。着やすい・脱ぎやすい。きれいな色のものが欲しい!」
そんなインナーを求め、彼女が自分の患者さんのことも思い浮かべながら送った手紙から、ユニクロ初の「前あきインナー」シリーズが誕生します。
商品を届けたいのは、乳がん患者、入院・通院中の人、介護を受けている高齢者、障害をもつ人、そして、もちろんケアにあたる医療従事者や家族。
ユニクロが掲げるコンセプト「LifeWear」は、
「あらゆる人の生活を、より豊かにするための服」。
生活ニーズから発想すること、工夫が服の細部に宿っていること、シンプルで完成度が高く、スタイルの部品としても着こなせること、ライフスタイルや社会、カルチャーなどの変化を先取りして進化し続けること、人種や性別を問わず、世界中の誰もが手に取れるあらゆる人のための上質な服――。
前あきインナーは、
その5つの定義をすべて踏まえた「究極の普段着」として発表されました。
前あきインナーが開発されるまで
通常の商品開発では、ニーズをキャッチしてからできるだけ早く商品化することを目指しますが、医療にもかかわるこの商品群は特別。じっくりと時間をかけて開発されました。
病院や高齢者施設をはじめ、医療的ケアが必要な子どもの親たちが集まる団体などを何度も訪問し、声を一つひとつ聞き取ることから始まりました。
すると聞こえてきたのは「乳がん手術で胸の形が変わってしまい市販のパッドだと合わない。自分の胸に合わせてカスタマイズできたらいいのに……」「我が子の成長はうれしいはずなのに、サイズアウトが早く、ケアが必要な子どものインナーは値段が高い……」という切実な悩み。
試作品ができるとモニターとして着用してもらい、フィードバックを受けて修正を繰り返す日々が続きました。
そして、2018年に手紙を受け取ってから1年半、2020年9月に迎えた発売の日。
ラインナップは、ウィメンズ・メンズ・キッズの3部門から前あきインナー、前あきブラ、そしてソックスと子ども用ボディスーツがそろいました。
開発担当者は、「どのアイテムも使う人のニーズを汲みとったデザインをつくることができた」と振り返ります。
各アイテムにちりばめられた、さまざまな人に寄り添う“工夫”を少し覗いてみましょう。
一通一通のレビューを胸に
―エアリズム前あきブラ(WOMEN)
「手術をして右手がうまく使えない私でも簡単に1人で着脱できるのでありがたい商品です」
30代女性
「乳がんの手術後、腕が上がらず前あきブラを体験。パッドも入れられるし感動!」
50代女性
―エアリズム前あきUネック(WOMEN)
「ゆったりした襟ぐりや優しい色などがうれしいです」
40代女性
―エアリズム前あきUネック(MEN)
「カラーが下着っぽくないので検査や病院内の移動時に最適です」
―ソックス(MEN)
「足首の締めつけがないので、夕方夜にむくんでも大丈夫」
―ボディスーツ(KIDS)
「伸びがよくて着せやすく、綿100%で、気持ちのよい生地です。タグは表側なのもうれしいです」
オンラインサイトに書き込まれる商品のレビューには、
「こんな商品を待っていた」というたくさんの感激の声が今も寄せられています。
開発担当者たちは、そこからさらなる改善点やニーズを見つけたり、ユニバーサルデザインとして、入院中以外の人などにも伝わっていると実感しているそう。
2021年3月からは、病院や介護施設の近くを中心とした全国約150店舗でも購入できるように。サンプルを手に取って確かめられる店舗もあり、また、病院や施設単位でまとめて注文することも可能です。
「服のチカラを、社会のチカラに」
「よい服をつくり、よい服を売ることで、世界をよい方向へ変えていくことができる」
という信念に基づいてサステナビリティな商品づくりを行なうユニクロ。
前あきインナーによって、その商品を求めていた一人ひとりの生活が大きく変わり、その変化が周囲に広がっていくことで世界全体もよい方向へと変わっていくことを感じます。
発売から1年余り。自分で手に取ってみるのはもちろん、必要としているけれどまだ知らない人へ教えたい商品です。