行政や関係機関を巻き込み
「身寄りなし」を考える!

「身寄りなし問題」を共に考える
行政、支援者がつながり、孤立なき社会へ

富山 済生会高岡病院
Let’s SINC
「済生会身寄りなし問題研究会」による研修会を通じて、身寄りのない人々が孤立することなく暮らせる社会の実現を目指す

「身寄りなし問題」とは?

近年、一人暮らしの高齢者が急増する中で耳にすることが増えた「身寄りなし問題」という言葉をご存じですか? これは、身寄りのない方が、日常生活から人生の最期に至るまでに直面するさまざまな困難全般を指します。

例えば、身寄りのない高齢者の場合、医療処置や手術への同意を代理で行う人がいないために、緊急時の医療処置や手術の決定ができなかったり、緊急の連絡先がないために、体調の急変や災害時など、万が一の事態に対応が遅れることもあります。住居の確保においても、連帯保証人がいないために、アパートやマンションを借りることができなかったり、施設への入居が難しくなるケースも多く見られます。さらに、亡くなった後の葬儀や遺品整理の手続きができる人がいないなど、問題は多岐にわたっています。

この「身寄りなし問題」は、しばしば「高齢者だけの問題」だと誤解されがちですが、未婚率の上昇や核家族化が進む近年では、ひきこもり問題や、雇用・賃貸契約の際の身元保証人問題など、高齢者に限らず、若者や働き盛りの世代にも関係のある、社会全体のつながりや支援のあり方を考える上で重要なテーマです。

このような状況の中で、誰もが社会から孤立することなく、安心して生活できる地域社会を構築するためには、本人、行政、そして地域の関係者(住民、病院、地域包括支援センター社会福祉協議会、NPO法人など)が「三位一体」となり、協力体制を確立することが不可欠です。三者が連携することで情報の共有がスムーズになり、個々のニーズに合わせたきめ細やかな支援が可能になります。

済生会の横断的取り組み 「身寄りなし問題研究会」が発足

全国各地で医療・福祉事業を展開する社会福祉法人恩賜財団済生会でも、2022年に神奈川県病院地域交流室の鎌村誠司室長を中心に、「済生会身寄りなし問題研究会」が発足。全国の済生会施設が連携し、年に3回の研修会を実施し、この問題の解決に向けて有識者を招いての講演や事例報告などを行なっています。

富山県済生会の高岡病院では、身寄りなし問題研究会スタッフのMSW・若山優子さんを中心に、医事課長の藤川泰永さん、MSWの宮森順也さん、中山大介さん、澁谷梨沙さんの5人が、“ソーシャルインクルージョンをすすめ隊”として、身寄りなし問題に取り組んでいます。2024年7月には病院内で「地域連携懇談会」を実施。高岡病院のスタッフ18人をはじめ、行政機関や地域のケアマネジャーなど院外からも54人を招き、身寄りなし問題について話し合いました。

1935年から地域の医療を支える高岡病院で、社会福祉関連の業務を担う“ソーシャルインクルージョンをすすめ隊”の皆さん

問題への理解を深め、地域・行政との連携を図る研修会

そうした取り組みへの注目もあり、2025年3月22日、全国から済生会職員が集い、高岡病院にて「済生会身寄りなし問題研究会 第6回研修会」が開催されました。高岡市、射水市などの行政関係者、高岡市社会福祉協議会、近隣病院などから約80名が参加しました。

研修会の前半では、外部講師による二つの講演が行なわれました。まず、毎日新聞社・社会部専門編集委員の滝野隆浩さんが、2023年が「身寄りなし対策元年」と位置付けられた背景について解説。新聞記者の目線から、横須賀市での先駆的な取り組みが国会での議論に発展した経緯が紹介されました。

毎日新聞社・滝野さんは新聞の連載コラム「掃苔記(そうたいき)」の中で、単身世帯増加による身寄りなし問題の深刻さを指摘している

続いて、横須賀市終活支援センター特別福祉専門官の北見万幸さんが、横須賀市の終活課題についての相談や具体的な支援プランの作成・実施を行なう「エンディングプラン・サポート事業」と、終活関連情報を生前に登録することで、万が一の場合に本人の意思の実現を支援する「終活登録事業」の詳しい内容を解説。北見さんは、「2026年に行なわれる社会福祉法改正により、身寄りのない高齢者への支援が拡充されるを待つのではなく、(横須賀市のように)各自治体が主体的かつ迅速に取り組むべき」と述べました。

横須賀市役所・北見さんは「身寄りなし問題は高齢者に限ったものではない、絶対に支援対象を65歳で区切ってはいけない」と強調した

最後に、高岡病院の若山さんからは、身寄りがないことで適切な医療を受けられず亡くなった、高岡病院における事例を提示。発表内容をもとに、関係者がより積極的に身寄りなし問題を認識し、関わることの重要性、そして孤独が時に生み出す危険性などについて参加者で議論が交わされました。

若山さんの事例発表を聞き、行政を含む地域の関係者が顔を合わせて意見を交換した

行政と地域を巻き込み、問題解決へ

研修会後のアンケートでは、参加者の9割以上が「参加してよかった」と回答しました。「この問題に先進的に取り組んでいる人の話を聞けてよかった」「地域全体で考えていかなければならないと改めて感じた」といった感想が寄せられました。

今回の研修会開催において、高岡病院が特に注力したのは、行政と地域を巻き込み、共にこの問題について理解を深め合うことでした。身寄りなし問題の解決には、成年後見人や死後の事務手続きなど、実際に制度の枠組みを包括して整えることのできる行政を中心とした連携体制の構築は不可欠という考えのもと、開催スタッフは高岡市役所に研修会への参加を依頼。加えて、近隣の救急受け入れ病院にも参加を呼びかけ、地域全体でこの問題を解決することの意義が共有されました。

今回の研修会などを通じて、行政や関係機関が同じ様に問題意識を持ち、顔の見える関係性を構築していくことが、高齢者に限らず身寄りのない、さまざまな事情を抱えた人が孤立することなく暮らせる社会の実現につながっていくのではないでしょうか。

(機関誌「済生」2025年5月号 「交差点」より)

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