「ソーシャルインクルージョン」という言葉をご存じですか?

ソーシャルインクルージョンとは、社会的に弱い立場にある人々も誰一人取り残さず、すべての人が地域社会に参加し、共に生きていくという理念。
済生会が、日本の未来につないでいきたい「新しい価値観」です。

ソーシャルインクルージョンってなに?

日本社会は、今たくさんの問題を抱えています。
障害や病気を抱えている人、独りで暮らす高齢者、貧困家庭の子ども、引きこもり、性的マイノリティの人、刑務所から出所した人など、さまざまな人が社会から排除され、孤立しています。困りごとを抱えていても、独りぼっちで誰にも気付かれず、“SOS”が発せない人もいます。 これらの問題の背景には、家族や地域のつながりの弱体化や所得格差の拡大で起こる分断、情報社会の進展に伴う人間関係の希薄化などが挙げられます。

さらに追い打ちをかけたのが、世界中を襲った新型コロナウイルスの感染拡大。感染者、医療従事者への差別だけでなく、対面でのコミュニケーションの機会は著しく減少し、孤立や排除を加速させました。

社会保障制度が整った今日においても、病気や障害や貧困、自分ではどうにもならないことのために、ふとした瞬間に社会からこぼれ落ちそうになってしまう――それは、「どこかの誰か」の話ではなく、じつは、「誰にでも」起こりうることなのです。

では、そんな未来を、それぞれが「自分らしく生きていく」ためには、どうすればいいのでしょうか。そのヒントとなり、深刻な社会問題を解決する糸口となるのが、「ソーシャルインクルージョン」だと済生会は考えています。

そのために、済生会では、実践を通して人と人とのつながりをつくり、ソーシャルインクルージョンが根付く社会を目指す「済生会ソーシャルインクルージョン推進計画」を策定。全施設が、それぞれの地域で取り組むべき総計1617の事業を宣言しました。このように組織を挙げて体系的に取り組みを行なっているのは済生会が日本初だといえます。

なぜ、済生会がソーシャルインクルージョン?
地域と共に歩んできた創設のルーツ

済生会がいま、全国で取り組みを始めているのが、誰もが地域の一員として、ともに暮らせるまちづくりを行なっていくこと。 そんなまちづくりにおいても、道標になるのはソーシャルインクルージョンの考えかたです。

では、なぜ済生会は、この「ソーシャルインクルージョン」をビジョンに掲げているのでしょうか。答えは、済生会のルーツにあります。

済生会は、明治天皇の「生活苦で医療を受けることができずに困っている人たちを施薬救療によって救おう」というお言葉(済生勅語)をきっかけに、1911(明治44)年に創設されました。明治天皇は、病や貧困に苦しむ人々を救うために、医療を中心とした支援をする団体をつくることを提唱。そうして誕生した済生会は、各地に診療所を設け、貧困世帯に無料で診療券を配布、巡回診療班を作ってスラム街を回り、診療や衛生指導にあたりました。

このように、地域の中ですべての人の“いのち”を分け隔てなく“医療”で救ってきた歴史が済生会の原点であり、医療と福祉、保健の事業を通して、地域の問題に取り組んでいくことは、済生会の存在意義そのものでもあるのです。
その精神は、済生会が生活困窮者を対象にして行なってきた独自の支援事業「なでしこプラン」はもちろん、「済生会ソーシャルインクルージョン推進計画」にも受け継がれています。

ヨーロッパで生まれた
ソーシャルインクルージョン

では、そもそもソーシャルインクルージョンという概念はいつ頃生まれたのでしょうか。
実は、このソーシャルインクルージョンを世界で最も早く取り入れたのはフランスです。1947年にフランスの社会学者ルネ・ルノワールが、失業者、障害者、外国人などが社会から排除されていることを指摘し、世界で初めて「社会的排除」という言葉を提示したことが始まりでした。

その後、フランスでは、世界で初めてさまざまな社会的排除から人々を救うための法律「反排除法(社会的排除対策法)」が成立。それを受けてEU(欧州連合)では、1997年に合意したアムステルダム条約において、社会的排除と闘い排除を防止するための国内計画の立案を加盟国に義務化。ヨーロッパ各国で取り組みが進められました。

一方、日本でソーシャルインクルージョンという考え方が広まり始めたのは、フランスの約50年後です。2000年に厚生労働省が発表した報告書「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」で、すべての人を孤独や孤立、排除や摩擦から援護するといった内容が盛り込まれました。この報告書は、“ソーシャルインクルージョン”という言葉が、日本で初めて使用された公の文書でもあります。

TOKYO2020のテーマは
ダイバーシティ&インクルージョン

今、世界中で、性別、国籍、宗教、障害などの違いを超えて、お互いが認め合い、共に生きていく「インクルーシブ社会(ソーシャルインクルージョンが根付いた社会)」の実現が求められています。

そのような考えを日本国民に広めるきっかけとなった大きな出来事があります。
それは、2012年のロンドンオリンピックのコンセプト「ダイバーシティインクルージョン」を受け継ぎ、開催された東京オリンピック・パラリンピック。女性選手の出場数は過去最多、性的マイノリティの選手も数多く活躍しました。ハード面においても、東京のあちこちでバリアフリー化、ユニバーサルデザインのまちづくりが進みました。大会を終えた今もオリンピックのレガシーとして、ソーシャルインクルージョンの理念がまちと人々の中に根付いています。

ほかにも、東京都国立市では2019年にソーシャルインクルージョンを理念に掲げた「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」を施行。さらに東京都では、全国に先駆けて、就労に困難を抱える人がともに働く「ソ―シャルファーム」創設を支援する「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」を制定しています。

ソーシャルインクルージョンを推進していく世界の潮流。日本でも着実に機運が高まりつつある中、ソーシャルインクルージョンをビジョンに掲げてきた済生会がリーダーシップをとってインクルーシブ社会の実現に取り組んでいきます。

誰一人取り残さない社会の実現
ウェブメディアで伝えたいこと

「誰一人取り残さない」――ソーシャルインクルージョンの根底でもあるこのテーマは、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」ための国際的な指針として、今世界中で取り組まれているSDGsとも共通しています。済生会は、施薬救療を使命として創設され、医療や福祉が届きにくい人々への支援を一世紀以上にわたり取り組んできたことや、ソーシャルインクルージョンのまちづくりが評価され、2021年、第5回ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞を受賞しました。SDGsの最も重要な目的は「貧困の撲滅」。 済生会は、SDGsの目標の実質的、具体的な達成に向けて貢献していきます。

SDGsと済生会

わたしたちがこのメディアを通して伝えたいことは、すべての人がともに生きていくことを目指して、さまざまな場所で活動を続ける人々の姿。そんな人々の思いに触れ、「ソーシャルインクルージョンってなんだろう?」と、未来の社会を考えるきっかけにしてみてほしいのです。

ソーシャルインクルージョンが根付いた社会は、わたしたち済生会の取り組みだけでは到底完結するものではありません。行政や企業はもちろん、地域に住むさまざまな人とつながりながら、ともに育むものと考えています。
それが、済生会の思いです。

理事長