もう通院を諦めない!
AIを活用した済生会泉尾病院のオンデマンドバスとは?
高齢化や立地からなる「通院の壁」とは
近年、日本では高齢化の進行に伴い、病院に通うこと自体が負担になっているという患者やその家族が増えています。特に、地域の医療機関(かかりつけ医)から大病院への紹介受診が必要な場合でも、「移動手段がない」「家族の送迎が必要だが難しい」といった理由から、受診をためらったり、予約をキャンセルしたりするケースが少なくありません。またこうした問題は、交通手段が限られる地域の場合に、より顕著に表れてしまいます。
厚生労働省の調査によれば、病院の規模が大きくなるほど通院時間が長くなる傾向があり、「適切な医療が必要であっても、必要な人がたどり着けない」という状況が、全国の大病院を中心に発生しています。
近くの医療機関がバス停に? 泉尾の「オンデマンドバス」
こうした“通院の壁”を乗り越え、医療を必要な人に届けるためには、病院側から患者のもとへ迎えに行くことはできないかと、大阪市大正区にある済生会泉尾病院で運用が開始されたのが、AIを活用した「オンデマンドバス」です。

大阪市大正区周辺地域の住民を対象に運行する、済生会泉尾病院の「オンデマンドバス」。最大4人(車椅子利用者は最大2人)の患者を乗せることができる
オンデマンドバスとは、患者の予約状況に応じて運行ルートや時間を柔軟に調整する、“予約制の乗り合い送迎サービス”で、済生会泉尾病院、送迎バスを専門に運転手および車両の運行管理サービスを行なう「みつばモビリティ株式会社」、モビリティAIの開発を行なうスタートアップ企業「株式会社REA」の三者連携によって運営されています。
2025年2月に地域のかかりつけ医療機関から泉尾病院への片道運行としてスタートし、同年7月からは往復での利用も可能となりました。それぞれの専門性を活かした役割分担により、持続可能で実用的な送迎体制が実現しています。
AIを活用して、効率よく地域と泉尾病院を結ぶ
従来の定時・定路線型の送迎バスでは、対応が難しかった個別の通院ニーズにも対応できる点がオンデマンドバスの大きな特徴です。その仕組みを詳しく見ていきましょう。
まず、地域のかかりつけ医療機関が患者を泉尾病院へ紹介する際、同時に送迎の希望を電話で連絡します。その情報を泉尾病院の職員がシステムに入力すると、株式会社REAが提供するクラウド型AI配車システム「Noruuu-Sharing」が、予約状況や地理条件、交通状況をもとに、最適な送迎ルートとスケジュールを自動で算出。それらの情報が、車両運行を担うみつばモビリティ株式会社のドライバー端末へリアルタイムで共有されます。
これにより、ドライバーは複雑なルート調整を行なうことなく、安全運転と患者のサポートに専念できます。

2025年時点で車両運行にかかる費用は泉尾病院が負担しており、患者は無料で利用が可能
利用当日、患者はかかりつけ医療機関まで行くだけで、そこから泉尾病院の玄関先まで、「ドア・ツー・ドア」で移動が可能です。乗り換えの不安や天候の心配もいらないことに加え、確実に座って通院ができます。もちろん、バスは車椅子のまま乗ることができ、各種介助にも対応。また、AIによる効率的な配車により、1台の車両で複数の患者を送迎することが可能となり、限られた人員と車両を最大限に活用できる仕組みとなっています。
一方で病院側にとっても、かかりつけ医療機関の医師が、患者の交通手段に不安を抱かずに必要な紹介を行なえるなど、地域における医療機関の連携強化という点でも大きなメリットがあります。
泉尾病院 地域連携課の担当者は、「泉尾病院では2024年6月頃から導入に向けた検討を開始しました。院内の業務フロー整備やかかりつけ医療機関への周知など、調整すべき課題は多くありましたが、『患者さんのために』という共通の思いが、取り組みを前に進めました」と、オンデマンドバスへの想いを語ります。

オンデマンドバス導入を主導した地域連携課のメンバー
安心できる通院手段を提供し、地域との連携を深めるために
オンデマンドバスを実際に利用した患者やその家族からは、「通院が億劫ではなくなった」「家族に受診を勧めやすくなった」といった声が寄せられています。また、かかりつけ医療機関からも「距離があっても安心して紹介できる」という前向きな反応が見られます。
当初は大正区および近隣区が対象だった運行エリアは、導入から数カ月、往復55分圏内まで拡大(運行エリア)。地域の医療連携と患者の利便性は、ますます向上しています。今後も、誰もが安心して医療につながれる地域を目指して、泉尾病院は運行エリアやバス停となる連携施設のさらなる拡充が進められています。

1945年に開設された「済生会泉尾病院」。立地する大正区は、大阪市の南西部に位置して大阪湾に面する大臨海工業地帯として知られる













