2026.06.24

医療との密接な連携で、一人ひとりに寄り添う支援を。
病院が開設した児童発達支援事業所「なないろ」

兵庫 兵庫県済生会児童発達支援事業所なないろ
近年、発達障害に関する社会的な関心が高まり、子どもの発達に関する相談の機会も増えています。自閉スペクトラム症注意欠如・多動症(ADHD)など特性はさまざまなため、一人ひとりの状態に合った支援の重要性が高まっています。神戸市にある済生会兵庫県病院併設の「兵庫県済生会児童発達支援事業所なないろ」は、医師をはじめとする病院スタッフとの連携のもと、きめ細やかな個別支援を提供しています。病院と発達支援事業所の連携にはどのような可能性があるのか、詳しくお話を伺いました。

神戸市北区が抱えていた、発達支援への壁

障害のある子どもや、言語、運動などの発達に特性や気がかりのある子どもが日常生活を円滑に送れるよう、本人やその家族に対して福祉、医療、教育等の観点からサポートが行なわれる児童発達支援。中でも「児童発達支援事業所」は、地域に住む0~6歳の未就学児を対象に、就学以降の社会生活を見据え、個々の特性に合わせた支援を提供する施設です。着替えや手洗いなど日常の基本動作のサポートや、発語・運動機能、コミュニケーション能力を育むための練習などが行なわれています。

兵庫県地域周産期母子医療センターでもあり、NICU(新生児集中治療室)を備える済生会兵庫県病院。早産児や低出生体重児などリスクの高い分娩や、新生児の受け入れ・治療を行ない、退院後も小児科外来にて子どもの発育を定期的に診察しています。そんな兵庫県病院の敷地内に開設されたのが、「兵庫県済生会児童発達支援事業所なないろ」です。

兵庫県病院に隣接するなないろ。2024年開設

通常、病院での健診や診察を進める中で発達に遅れなどが見られた場合、神戸市運営の療育センターをはじめとする、近隣の児童発達支援事業所へとつなげられます。しかし、病院がある神戸市北区は、療育センターから距離があり、事業所の定員も十分でないといった複数の問題を抱えていました。なないろを立ち上げた、兵庫県病院の副院長・小児科医師である奥谷貴弘先生はこのように話します。

兵庫県病院副院長・小児科部長、なないろ管理者
奥谷貴弘先生

施設に通いにくいという状況のほかにも、事業所で行なわれている支援プログラムの方針や内容の情報が、医療スタッフに届きにくいという課題もありました。
もし院内に児童発達支援事業所があれば、必要に応じて、適切な手続きのもと病院と事業所が情報を共有しやすくなります。病院での診察や検査の結果を事業所のスタッフが詳しく知ることで、病院と事業所が歩みを揃えて、それぞれの子ども達に支援を行なうことができるはず。そうした考えのもと、2022年頃から事業所開設に向けて動き出しました。

小児科部長として、新生児から10代までの幅広い年代の子どもの診察を担当している奥谷先生

医療連携を生かした支援を。「なないろ」開設までの道のり

奥谷先生はまず、小児科看護師や理学療法士、MSW(医療ソーシャルワーカー)、そして子ども達が安心して治療を受けられるように遊びを通じて支援を行なう病棟保育士の5人のスタッフに声をかけ、事業所立ち上げに向けた勉強会を繰り返し開催。専門性を持つスタッフが、発達支援のあり方や具体的な支援内容などを何度も話し合いました。

そこから約1年半の間、病棟保育士が病院に通院する発達障害のある子どもたちに向け、それぞれの特性を見て共に遊びながら、他者と関わる力や楽しさを引き出す個別支援の場を試験的に設けてみたそう。すると、子どもによっては、保育士との関わりの中で、少しずつ他者への関心を示す場面が増えていきました。視線を向ける、保育士の名前を呼ぶ、表情やしぐさで応えるなど方法はさまざまですが、支援を受ける子どもが楽しみながらコミュニケーションをとる様子が見られるようになっていったのです。

奥谷先生:

スタッフと連携しながら子どもたちと関わる中で、一人ひとりの成長の過程に寄り添う大切さを実感したことが、本格的に事業所開設へ踏み出す大きなきっかけになりました。医療・福祉両方の視点から、それぞれの子どもの良さを尊重した発達支援を提供する施設を作りたい、と強く思いました。

奥谷先生は、施設の目的や支援内容など入念に計画を立て、繰り返し病院に働きかけました。計画開始から約2年後、病院敷地内に新たに建設された別棟の一室に、ついになないろが開設されたのです。

施設名「なないろ」は院内公募により決定。施設内にはさまざまな遊具が並ぶ

通所前からの定期的な診察で、的確な支援を

なないろの特徴は、隣接する済生会兵庫県病院との密接な連携です。

なないろ通所前に病院で行なわれる診察では、まず問診の場が1時間設けられ、子どもの発達にどのような遅れや不安があるかを医師と保護者との間で確認。その後心理検査などを行なった後、子どもの詳しい状況がなないろのスタッフに伝えられます。

奥谷先生:

病院では、子どもの発達について医学的な知見から分析して適切に診断し、その子に合った支援へつなげることが可能になります。しかし、発達障害にはさまざまな種類があり、状態や程度も異なるため、具体的な診断名をすぐに伝えることはとても難しく、長いかかわりの中での見極めが必要です。そのため、なないろ利用開始以降も、3カ月ごとに定期的に診察を行なっています。

事業所で支援計画の作成などを行なう、なないろの児童発達支援管理責任者・小田さん

「なないろ」児童発達支援管理責任者
小田和晃さん

診察のほかにも、月2回、院内で「なないろ会議」を行ない、医師、看護師、理学療法士、MSWなど病院のスタッフと、なないろに通う子どもの情報を共有し合っています。定期的に情報を交換する場があり、密接に連携することによって、それぞれの子どもの支援計画を立てやすく、的確な支援を提供できていると感じています。また、病院・なないろ双方のスタッフが子どもの情報や様子をいつでも確認できるよう、なないろでも、病院と共通の電子カルテを使用しています。

病院で行なわれる「なないろ会議」の様子

1対1の個別支援で、一人ひとりの「できた」を大切に

病院との密接な連携は、なないろのもう一つの特徴である「完全個別型」の支援に生かされます。なないろに通う子どもの数は1日最大10人。それぞれの子どもに担当の保育士が1人ずつ付き、1時間の支援が行なわれます。

「なないろ」保育士
濱田ゆかりさん

なないろには、他者とのコミュニケーションが難しい子どもも多く通っています。病院から共有される情報をもとに、子どもたちの特性を理解した上で、「この子が『楽しい』と思えるコミュニケーションとは何だろう」と考えながら日々支援を行なっています。

事業所立ち上げにも関わった、なないろの保育士・濱田さん

子どもがなないろに到着したら、まず身支度と手洗いをした後、個室で保育士と一緒に「課題」に取り組みます。この課題は読み書きの勉強のようなものではありません。手作り教材などを用いながら、目で見た情報に合わせて手や身体を動かすトレーニングや、ルールを守る・順番を待つといった社会性を育むための簡単な遊びなど、一人ひとりの発達段階に合わせたさまざまな練習が行なわれます。個室の中にはその日に取り組むことが一目で分かるスケジュールボードがあり、課題が一つ終わるごとにボードに貼られているカードを剥がしていくため、その日に達成できたことが分かりやすくなっています。初めは椅子に座ることに難しさがあった子どもたちも、今では進んで個室へ向かって椅子に座り、楽しみながら課題に取り組む姿が見られているそう。

課題が終わった後は、遊具が並ぶプレイルームで保育士とともに身体を動かしたり、おままごとなどの好きな遊びを楽しんだりします。なないろでは、どのような場面でも、子どもが保育士をはじめとする他者の存在に気付き、一緒に過ごす楽しさを感じられるよう支援が行なわれています。なないろで行なわれる個別支援は、保育士との1対1のかかわりの中で、他者とのコミュニケーションを学んでいく時間なのです。

なないろで担当の保育士と遊ぶ子ども達。同じ時間に通う、2人の子ども同士での交流も見られるという

保育士の濱田さんは、「子どもの小さな変化や成長にも気づくことができるのが個別支援の強み」とも語ります。1対1の個別支援では、「保育士と目が合った」「自分のやりたいことやしてほしいことを、言葉や行動で表現できた」といった、コミュニケーションを通して達成した子どもの小さな「できた」を保育士が見つけることができます。子どもの成長を感じ取ることは、本人の自己肯定感を高めるだけでなく、保護者への心理的なサポートにもつながると考えられます。

小田さん:

子どもがなないろで過ごす1時間のうち、最後の10分間はフィードバックとして、その日に取り組んだことや保育士が気付いた子どもの成長、施設・家での様子などを保護者の方と共有し合っています。
なないろは、子どもはもちろん、保護者一人ひとりとも丁寧に関わることを目的としています。お話がしたいという方がいたら都度ご面談を設定したり、何か不安なことがあれば、病院の心理士のカウンセリングにつなぐこともできます。「自分は一人ではない。なんでも話せる場所がある」という安心感を、なないろでの時間を通して感じてもらいたいです。

まち全体で、安心できる支援を提供するために

なないろの発達支援は、兵庫県病院との密接な連携によって、子どもやその家族が地域で安心して暮らせる環境を作り出しています。事業所開設から約2年。改めて、3人に今後の展望をお聞きしました。

濱田さん:

分からない事、できない事で不安を抱えて過ごしている子ども達に、家庭以外にも安心できる場があると感じてもらいたいです。なないろでのさまざまな体験が生きる力や自信につながっていくよう、一人ひとりの挑戦する姿を支えたいと思っています。今後は、なないろと併用されている他の事業所や保育園などとの連携も行なっていきたいですね。

小田さん:

私は施設の管理責任者として、近隣の障害者福祉施設の職員が集まる、地域の自立支援協議会にも参加しています。ケースごとの詳しい支援内容の共有や、子どもの就学時の情報交換など、施設同士の連携をさらに強めていけば、まち全体で子どもやその家族を支えることができるのではないか、と考えています。

奥谷先生:

今後も引き続き、安心してなないろに通ってもらえるような支援を行ないたいと思っています。そのためには小児科医師として、医学的な根拠をもとに、それぞれの子どもが抱える困りごとに対してより的確な診断と支援を導き出していきたいですね。地域の人々に信頼してもらえる支援を行なうことを第一に、これからも子ども一人ひとりに向き合っていきます。

季節に合わせて子ども達が作った、色とりどりの飾り

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