人々の地域での生活を支えられる病院でありたい
2021.04.23

医療だけじゃない! 地域生活を病院で支える仕組み

大阪 済生会泉尾病院
Let’s SINC
役割の異なる複数の職種が助け合い、地域の資源と連携しながら人々の生活を支える

病院の役目は、患者さんの治療だけではない

病院で働く人というと、医師や看護師のイメージが強いかもしれませんが、実際にはさまざまな職種のスタッフが連携して患者さんを支えています。栄養バランスのとれた食事の献立を考える管理栄養士、患者さんの退院支援や生活保護など福祉制度につなぐ役割を担う医療ソーシャルワーカー(MSW)、病院のスタッフと患者さんの仲介を果たす医療メディエーターなどです。

大阪府にある済生会泉尾病院では、患者さんの生活を支える多職種・多部門を一つにまとめた場所があります。2015年に院内に開設された地域ケア支援センター(愛称「がじゅまるサポート」)です。クリニック等から患者さんの紹介を受ける「地域医療連携室」、無料低額診療等を担う「医療福祉課」、病床の管理や退院後のアドバイスを行なう「入退院調整室」の3部門に、医療メディエーターを加えた体制をワンフロアに集約したものです。患者さんが地域で安心して暮らせるよう、退院後の生活も考えるのががじゅまるサポートの役割です。

がじゅまるサポートの窓口

2つの職種の連携が鍵となり、患者さんが社会に復帰

がじゅまるサポートの取り組みの鍵となるのが、複数の職種による連携です。MSWと医療メディエーターの連携が実を結んだ、A子さんの事例を紹介します。
入院患者のA子さんが退院を目前にしたある日、A子さんの息子さんが、「できるだけ退院を延ばしてほしい」と訴えてきました。MSWが事情を尋ねると、物に埋もれて足の踏み場もなく、ドアも開かない状態になったA子さん宅の写真を携帯で見せてくれました。驚いたMSWは、医療メディエーターと連携し、役割分担して支援することにしました。
医療メディエーターの役割は、病院と患者さんとの間で何らかの問題が発生した際、双方の話を聞き、解決に導くことです。A子さんと面談した医療メディエーターは、その手のしわとごつさ、特有の言葉使いから、体を張って働いていた経歴があると察しました。
「あなたは片づけることができますよ。ごみ屋敷なんて言わないで」と敬意を示すと、A子さんは家のことを語り出しました。
息子さんを女手一つで育ててきたA子さん。息子さんが独り立ちして家庭を持ち、幸せな生活が始まるはずでしたが、家族関係がこじれる出来事が重なり、次第に息子さんが寄り付かなくなってしまったのです。A子さんは「生きがいだった家族を失い、何を食べても味がしない、もう片づけても仕方がない」と思うようになり、内にこもるようになったといいます。
A子さんは、息子さんとの関係悪化が原因で自信を失い、負のスパイラルに陥っていました。医療メディエーターにできることは、A子さんの自信と社会性を取り戻すこと。面談を重ね、対話を深める中で、A子さんは「自分には生きる力があったのだ」と、見事に自尊心を取り戻しました。病院のスタッフの対応にも「ありがとう」と応えるようになり、息子さんとの交流も少しずつ再開していったのです。
その後、折を見てMSWがA子さんに福祉関連の清掃業者を紹介。自宅を片付けられる見通しも立ち、晴れて退院を迎えたA子さんは、地域社会への復帰を果たしました。
多方面からのサポート体制のおかげで、患者さんにとってもスタッフにとっても良い結果を得ることができたのです。

みんなで協力すれば、病院ができることはもっと増える

名前の由来であるガジュマルの木は、茎や枝から根が飛び出した「気根」が一つの木を支え、まるでいくつもの命がつながり合っているような姿をしています。がじゅまるサポートの活動も、人と人が支え合うことで成り立っています。
A子さんの事例に限らず、相談活動を行なう複数の部門が一カ所に集まり、職員間で気軽に相談し合うことができるのは大きな強みです。患者さん自身が葛藤を抱えている場合は医療メディエーター、制度を活用する場合はMSW、地域のかかりつけ医に連絡する場合は医療連携室…… というように、その場のニーズに合わせて担当を割り振り、患者さんを迷わせることなく適切な医療を受けてもらうことができるからです。

院外との連携も積極的に行なっています。開業医や居宅支援事業所と連携した在宅医療のサポート、NPOと協力した外国人の患者さんの通訳支援、学校や児童相談所と連携した虐待防止の対応など、その活動は多岐にわたります。
「誰ひとり取り残さない」包括的な支援のため、医療の面だけでなく、生活の面でも人々を支える。がじゅまるサポートの取り組みは、病院がもつ可能性の大きさを体現しています。

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