より家庭に近い環境で
子どもたちの成長を支援する
小規模児童養護施設わかな(左)とあおば(右)

地域に溶け込み、子どもたちから見える世界を広げる。
小規模児童養護施設「わかな」と「あおば」

静岡 児童養護施設 川奈臨海学園
Let’s SINC
子どもたちが、より家庭に近い環境で育つための体制づくりについて考える

70年間、子どもたちの成長を見守ってきた川奈臨海学園

静岡県伊東市にある児童養護施設 川奈臨海学園は、1955年の開設から約2600人の子どもたちが育ってきました。

児童養護施設とは、社会的養護・社会的養育という考えのもと、保護者がいない児童や保護者の養育が難しい場合に、家庭に代わる子どもたちの家として子どもたちを守り、育てる施設のこと。2023年2月1日現在、全国で約600カ所あり、概ね18歳未満の児童が約2万3000人入所しています。安定した生活環境を整えるとともに、生活や学習の指導、家庭環境の調整を行ない、子どもたちの心と身体の健やかな成長と自立を支援しています。

新たな土地に飛び出した 二つの小規模児童養護施設

川奈臨海学園が運営する地域小規模児童養護施設「わかな」と「あおば」。それぞれ定員6人、男女に分かれて担当職員5人と共に生活を送っています。

2016年の児童福祉法の改正では「新しい社会的養育ビジョン」として、保護者や施設の職員ではなく子どもが権利の主体であることや「より家庭に近い環境での養育」が優先されることが明記されました。一時は定員100人の大舎制たいしゃせいだった川奈臨海学園も体制変更に乗り出し、2020年に民間住宅を借用して家庭に近い環境で養育する小規模児童養護施設「わかな」を開所。同年に学園の新築工事に着工し、翌年に新園舎が完成しました。新園舎は六つのユニットに分かれ、定員36人に。そして2023年には地域小規模児童養護施設「あおば」が開所しました。

「わかな(左)」「あおば(右)」ともに、1階は広々としたリビングダイニングやキッチン、お風呂などがあり、2階は個室。余暇時間にはテレビを見たり、寄贈してもらったゲーム機で遊ぶといったどこの家庭でも見られるような光景が広がる

施設を温かく受け入れてくれた地域の声

「わかな」と「あおば」は母体となる川奈臨海学園からそれぞれ車で約15分と20分の地域にありますが、生活の拠点が変わり、子どもたちにとっても職員にとっても、新しい場所でのスタートとなります。1955年に開設されすでに地域の人との強いつながりがある川奈臨海学園とは異なり、新たな地域との関係構築には時間がかかります。開設にあたっては、地元住民の理解を求めるために説明会を開催する等、地域の方によりスムーズに受け入れていただけるための準備に心を配り、地域小規模児童養護で生活をする児童の人選に悩むことも。また、児童にとっては住居が変わるだけでなく、転校も伴うことから不安感を拭うことにも努めました。

子どもたちが地域で友達と遊んだり、地域の大人に見守られ、たくさんの人の考え方に触れながら心身ともに健やかに成長するためには、施設が地域の人々に受け入れられることは必要不可欠です。そういった中で、「わかな」と「あおば」はそれぞれ、地区のお祭りに積極的に参加するなどして少しずつ存在を認知してもらい、今では近隣の住民から新鮮な魚介類や果物をもらうなど良好な関係を築いています。

「あおば」から車で10分ほどにある城ヶ崎海岸。伊豆半島ジオパークの一つ

「伊東市八幡野区は、行政の生活補助や支援も充実していて新しく移り住んできた人を受け入れやすい土壌がある」と話すのは、「あおば」が所在する伊東市八幡野区の宮川正生区長です。宮川さんは毎朝約1時間、近隣の小学校の交通指導員としても活動。「あおば」の子どもたちも含め、地域の子どもたちと積極的に触れ合っています。新参の施設やそこに住む子どもたちにとって、心強い味方です。

静岡県伊東市八幡野区の宮川正生区長

もう一人、地域の声としてお話を聞いたのはヘアーサロンHair Salon Freiの店長の肥田英司さん。同年代のお子さんを持つ肥田さんは、美容師という職業柄もあって、「なんとなく子どもたちが思っていることや言いたいことが分かる」と良き相談相手になっています。
肥田さんの働く姿を見て、将来美容師になりたいと相談した子もいたとのこと。それでも肥田さんは「この仕事のやりがいを話すが、大変なこともしっかりと伝える。あとは専門学校や国家試験のことを話題にすることもあります」と語りました。

ヘアーサロン「Hair Salon Frei」店長の肥田英司さん。「あおば」のスタッフの親族で、立ち上げ当初には職員として手伝いもしていた

「社会は本当に広い」ことを伝えていきたい

地域小規模児童養護施設の開設により、子どもたちは、より家庭に近い環境で生活することで、大舎制での以前の集団生活から、それぞれの意見・要望を取り入れてもらいやすい子ども主体の生活へと変わっていきました。生活空間も個室となったことにより、共有スペースとの使い分けができることからストレスの軽減にも繋がっているといいます。

「わかな」「あおば」を管轄する川奈臨海学園の髙𫞏麻紀施設長は「清掃活動やお祭り等の地域行事への参加、地元に根付いた企業への職場見学・アルバイトの実施などを通して、宮川区長や肥田さんをはじめ地域の方々との繋がりを深めることができるようになり、子どもたちから見える世界も広がったと実感しています。地域とのつながりを通して、社会は本当に広いんだよ、ということを伝え続けていきたい」といいます。

(機関誌「済生」2025年2月号 「交差点」より)