炭谷 茂[監修]

日本における再犯率は50%「社会復帰支援の重要性」

刑務所や少年院といった矯正施設は、犯罪や非行をした人々が、科された刑罰や処分を真摯に受け止め、自身の罪を深く反省するための場所です。それによって、再犯を防ぎ、円滑に社会復帰できるよう支援することを目的としています。

しかし、刑期を終えて社会に戻った人々(以下、刑務所等出所者)が直面するのは、決して平坦な道ではありません。「また犯罪を犯すのではないか」という大家や雇用主の不安感などから、住居や仕事が見つかりづらいなどの現実もあり、それによって生活が困窮し、社会とのつながりを失い、再び犯罪に手を染めてしまうケースも少なくありません。

令和6年版犯罪白書(法務省)によると、日本における再犯率(過去に刑事処分を受けた者が再び犯罪を犯す割合)は約50%とされています。住居や仕事が確保できない人や高齢者、障害者の再犯率は特に高く、社会復帰支援の重要性が指摘されています。加えて近年、受刑者全体における高齢者・障害者の割合も増加傾向であることから、刑務所等出所者に対する、介護や補助などの生活面での支援の必要性も一層強まってきています。

再犯・再非行を防止し、新たな犯罪被害者を生じさせないために、どのような取り組みが行なわれているのでしょうか。

出典:令和6年版犯罪白書/法務省ウェブサイト (https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00134.html)

再犯を防ぐため、政府においては、平成28年に公布・施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」及び平成29年に閣議決定された「再犯防止推進計画」等に基づいて、再犯防止対策のための各種取り組みが進められています。
*記事に含まれる情報は記事作成日時点の法律等に基づいています。

住まい、仕事、社会とのつながり……
刑務所を出て直面する課題とは?

刑務所や少年院から出た後、多くの出所者がさまざまな困難に直面します。

住まい

課題①  住まいの確保が難しい

出所後、頼れる家族や親族がいない場合、一から住まいを探すことが必要になります。結果的に住まいが見つからず、ホームレス状態となり、再び罪を犯してしまう事例も増えています。また、身元引受人がいないケースの多い満期出所者や、高齢・障害などの理由で自力で住まいを見つけることが困難な人は、出所後の住まいが得られないことが多い傾向があります。

住居の有無別の刑務所出所者等の2年以内再入率

出典:更生保護における居住支援について/法務省ウェブサイト (https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001300280.pdf)

 

仕事

課題②  仕事に就けない

出所後は、仕事探しも大きな壁となります。前科があることで企業が採用をためらい、安定した職に就くことが困難になることがあるためです。収入を得る手段がなければ生活が成り立たず、結果として窃盗や詐欺などの犯罪に手を染めるリスクが高まります。事実、刑務所に再び入所した者のうち約7割が再犯時に無職であり、 仕事に就いていない者の再犯率は、仕事に就いている者と比べて約3倍もあります。

再犯時における有職・無職の割合

出典:政府広報オンライン「再犯を防止して安全・安心な社会へ

社会との
つながり

課題③  社会とのつながりが希薄

長期間、刑務所や少年院といった矯正施設で生活していた刑務所等出所者は、周囲からの偏見や差別によって、近隣住民や職場の人など、社会との交流が希薄になりがちで、孤立しやすい状況にあります。孤独を感じ、相談できる相手がいないと、精神的にも不安定になったり、犯罪を犯した時の人間関係に戻ってしまうことで、再犯につながることもあります。

行政から民間まで
更生保護を担うさまざまな機関

刑務所等出所者を社会の中で適切に処遇し、彼らの自立更生を助けることにより、安全安心な地域社会を作る活動のことを、更生保護といいます。

現在の日本では、更生保護法に基づき、刑務所等を仮釈放された人などを対象に、保護観察所保護観察官保護司の指導監督と補導援護のもと、官民さまざまな機関が出所後の更生を支援しています。

出所後に社会復帰を支援するさまざまな機関

住まいを支援する機関

更生保護施設、自立更生促進センター、自立準備ホーム居住支援法人など

仕事を支援する機関

協力雇用主、コレワーク、職親プロジェクトなど

社会とのつながりを支援する機関

保護司、更生保護女性会、BBS会など

包括的に出所者を支援し、支援機関をつなぐ機関

保護観察所(保護観察官保護司)、地域生活定着支援センター(高齢者・障害者をサポート)、依存症回復施設、福祉事業所や児童相談所など

制度や法律の側面から支援する機関

法務省、地方自治体(地方再犯防止推進計画の策定*¹等を行なう)

*¹ 令和6年度現在、すべての都道府県と政令指定都市、その他の一部の市町村にて、再犯防止推進法に基づき、地方再犯防止推進計画が策定されています

まとめ:
刑務所出所者の社会復帰を支え、
誰もが安心して暮らせる社会へ

刑務所等出所者が再び罪を犯さず、社会復帰を果たすためには、出所者の更生に向けた適切な指導監督に加え、住まいと仕事の確保、そして、立ち直ろうと決めた人を地域社会で受け入れる土壌をつくることが何よりも大切です。そのためには、国や自治体だけでなく、地域社会や民間企業が協力し、息の長い支援を続けていくことが求められます。

そして、このように刑務所等出所者の社会復帰を支援することは、犯罪の減少や、より安全な社会の実現につながるのです。私たち一人ひとりが、この問題に関心を持ち、理解を深めることが大切です。

コラム:犯罪被害者への支援

よりよい社会を作っていくためには、犯罪の被害にあってしまった人への支援は欠かせません。

国は、犯罪被害者等基本法に基づく犯罪被害者等基本計画を基礎として、同計画を5年ごとに見直しながら被害者への支援を推進しているほか、警察や検察による支援、民間の支援として「全国被害者支援ネットワーク」などもあります。

犯罪被害者への支援の一例

警察

被害者の安全確保や情報提供、相談・カウンセリング、犯罪被害給付制度など

検察庁

被害者支援員制度、被害者ホットラインの設置、被害回復給付金制度、損害賠償命令制度など

法テラス

弁護士費用の援助や国による各種援助制度など

医療機関

暴力被害や精神的なダメージに対する治療、性犯罪被害への相談窓口
済生会宇都宮病院 – とちぎ性暴力被害者サポートセンター(とちエール)
性犯罪被害者のケアをワンストップで支援 | 済生会

地方自治体

犯罪被害者のための総合的対応窓口の設置、条例等の制定、見舞金・貸付金制度、公営住宅への優先入居など

民間団体

公益社団法⼈全国被害者⽀援ネットワークに加盟する全国の被害者支援センター等の民間団体による、犯罪被害者への相談援助など

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