高齢者の悩みはみんなの課題。
地域ケア会議から始まる自分ごとのまちづくり
地域の高齢者の相談は「あんしんすこやかセンター」へ!
兵庫県神戸市では、介護・医療・保健・福祉などの側面から地域の高齢者を支える地域包括支援センターを「あんしんすこやかセンター」という独自の愛称で呼び、高齢者に関する総合的な相談窓口となっています。
神戸市の各中学校地区に一カ所ずつ設置され、全部で76のセンターがあります。
センターには保健師や看護師、社会福祉士、主任介護支援専門員、地域支え合い推進員といった専門職が配置され、高齢者への虐待や消費者被害の予防や相談、高齢者の心身の衰えによる生活不安や認知症の相談、介護保険制度の情報提供や申請手続きなどを行なっています。
センターに寄せられた相談は地域の課題として必要に応じて自治会や老人会、婦人会、民生委員などの団体で組織する「ふれあいのまちづくり協議会」をはじめ、住民が利用する郵便局や警察など、地域の関係者が参加する「地域ケア会議」にて共有されます。
地域ケア会議とは、高齢者が住み慣れた場所で暮らし続けられる環境をつくるために、困りごとを住民みんなで解決する話し合いの場。主に地域の集会所や地域福祉センターにて年に1~2回行なわれています。
高齢者の悩み=地域の課題
「総合相談窓口としてさまざまな相談に対応していますが、相談所に来られない高齢者が抱えている悩みや要望を把握しづらいという課題がありました」と話すのは、有野台など神戸市北区の一部を担当する「ありのあんしんすこやかセンター(兵庫県済生会)」の主任介護支援専門員 青木あい子さん。
地域高齢者の実情を知るために「安心して生活するためにどんなことがあればいいか」「日々の生活で不安なことはなにか」といった暮らしの中での悩みについてアンケートを実施しました。
対象は老人会や地域福祉センターで開催している独居高齢者対象のふれあい給食会、地域ボランティア主催の喫茶イベントに参加した高齢者の合計85人。
回答から見えてきたのは、コロナ禍の影響による高齢者ならではの切実な悩みでした。
外出の機会が減ったことによる筋力や体力の低下から「健康のために運動体操ができる場所がほしい」という声、交流の機会が減ったことに対して「身近に相談できる場所がほしい」といった声が多数寄せられました。
アンケート結果は地域ケア会議にて共有。意見交換を行ない、フレイル予防のための体操教室の実施や、集いの場での体操が具体策として持ち上がりました。
お悩みに即対応
早速、地域ケア会議で提案されたフレイル予防の体操教室を、毎週月曜にボランティア主催で行なっているふれあい喫茶のイベントで開催。神戸市が作成した体操DVDを見ながら、ボランティアが選んだ曲に合わせて体操を行ないました。すると、参加した高齢者からは「曲に合わせて体を動かすのが楽しい」といった喜びの声が。「参加者さんが楽しめるように曲を選んだり毎回趣向を変えたりするのが楽しい」と主催するボランティアにも好評で、参加した全員が楽しめる体操教室となりました。
さらに、「身近に相談できる場所がほしい」という声に応えるべく、地域の民生委員と協力して住民のさまざまな心配ごとや悩みに応える「心配ごと相談コーナー」を西山地域福祉センター内に開設し、毎月第4水曜日に開催。高齢者に関する相談は同センターが対応し、そのほかの相談には民生委員がアドバイスやサポートを行なっています。
地域住民の認知症への理解が大切
同センターでは「神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例」を基に、認知症サポーター養成講座や、認知症高齢者声かけ訓練など認知症高齢者をサポートする仕組みづくりにも積極的に取り組んでいます。
神戸市区役所と北区社会福祉協議会が推進している「絆サポーター」とも連携。
絆サポーターの役割は、「家の電気がつきっぱなし」「雨戸が何日も閉じたまま」など、ふと目にした異変に気づいたときに、同センターへすみやかに連絡すること。絆サポーターに「報告の義務」を負わせないことで、どんなにささいな変化も情報共有されるシステムです。
絆サポーターは登録制で、有野台では有野台団地の一室にある高齢者の福祉相談窓口・なでしこ暮楽部で受付を行なっています。2021年12月現在、136人の一般の地域住民や事業者が活動中です。
この取り組みについて、青木さんは「地域ケア会議で『高齢者が住みよいまちは若い人も住みよいまち』という認識を共有できているところが大きい」と語ります。
地域で起こっている問題や困りごとを、地域の関係機関はもちろん、住人の一人ひとりが自分ごとに捉えて課題解決できるネットワークをつくっていくことが、高齢者のみならず誰もが安心して暮らせるまちづくりの第一歩になるのではないでしょうか。