ショッピングセンターに保健室!?
暮らしに深くつながる新しい病院のかたち
気軽に健康・介護相談ができる「なでしこ保健室」
「病院に通うほどではないけれど、健康に関してちょっと気になることがある……」そんな地域住民の不安に応えているのが、イオンスタイル東神奈川の店内の一角に設けられた「なでしこ保健室」です。
運営しているのは、イオンスタイル東神奈川のすぐそばにある済生会神奈川県病院。健康・医療・福祉の総合窓口として、同病院の専門職が月に2回、交代で相談会を実施しています。看護師による健康や介護、薬に関する相談のほか、保健師や管理栄養士から具体的な保健指導や栄養指導が受けられる健康診断コースの案内や嚥下体操、介護予防のイベントなども行なっています。
開催時には30~80代までの幅広い年齢層の地域住民が毎回20人ほど参加します。
「血圧、血糖値が高いと言われたことがあるが、どんなことに気をつければよいか。サプリメントは飲んでも大丈夫?」といった糖尿病に関する質問や「独りで親の介護をしていて時々疲れてしまう。そんな気持ちを聞いてほしい」と、介護に関する悩みを抱えて訪れる人もいます。
なでしこ保健室のスタッフが意識しているのは、一人ひとりに向き合い、信頼関係を築くこと。訪れた人の不安に寄り添い、話にじっくりと耳を傾けます。買い物ついでに、医療や福祉の専門家に相談できるとあって「話を聞いてもらうだけでも安心できる」と住民の評判も上々です。
「なでしこ保健室」が誕生した背景
「地域住民の方々に当院が現在もつ機能をよく知っていただき、もっと活用してほしい、ファンになってもらいたいという思いから『なでしこ保健室』を開設しました」と語るのは、経営企画課担当課長の杉山正さん。
神奈川県病院は済生会の第一号病院として1913年に開院。以来、急性期の患者を中心に診療を行なってきました。
2007年に開院した神奈川県・鶴見区の済生会横浜市東部病院に急性期の機能を移した後は、リハビリテーションなどの亜急性期から慢性期の医療を担ってきました。さらに、地域の要請で2016年には救急室を再開、2017年から急患および救急車の受け入れも再度始まりました。現在は急性期機能の再強化を行なっています。
「亜急性期・慢性期から急性期病院として再度機能転換した当院の役割を、地域の人々に知っていただくために、日常生活の場に医療や福祉に関するお悩み相談や情報発信ができる窓口を設置することを考えました」と杉山さんは話します。
候補地は、同院のほぼ隣にあるイオンスタイル東神奈川。
「ショッピングセンター内に窓口を設置することで住民が健康・医療・福祉の情報に触れる機会になり、高齢者のコミュニティの場にもなる」とイオンの担当者に、保健室開設の目的を説明。イオンと病院が協力することで何ができるか、意見交換していきました。
「病院まで足を運ばなくても買い物のついでにふらっと気軽に相談できることを地域の方に知ってもらうために、保健室は高齢者が多く訪れる時間帯やフロアで開催しています」と杉山さんは話します。
地域と積極的につながっていく神奈川県病院
同院では、地域とのつながりを強化することを目的に、病院組織の一つとして「地域交流室」を2021年4月に開設。事務部長や看護部長のほか、これまで「なでしこ保健室」に携わった看護師や管理栄養士など8人程度で構成しています。
「地域交流室は興味のある職員なら誰でも参加できるオープンな組織です。地域のための取り組みを職員自身が楽しいと思えることを大切にしています」と地域交流室室長の鎌村誠司さんは話します。
これまで開かれてきた「なでしこ保健室」は、組織の活動の一つとして組み込まれ、引き続き月2回の頻度で開催しています。地域交流室では現在コロナ後にできそうなことを協議中。少しでも多くの職種が地域に出て行き、地域の方と交流できるような企画を考えています。
また地域交流室では、参加地域・住民地域の商店街や大学、地域包括支援センターと協働して認知症の啓発活動を実施する「オレンジプロジェクト」にも参画。
2021年10月からは、町内会や社会福祉協議会などと連携して、シャトルバスを使った無料の買い物支援サービスの試験運用を開始しています。地域の人の評判は上々で、「都合に合わせてコース途中下車をしたい」「少しだけ買い物をしてお茶をみんなで飲みたい」との要望もありました。現在は本格運行に向けて関係者で停留所や運行ルートを検討しています。
こうしたさまざまな取り組みを通じて「地域とのつながりを深める」神奈川県病院。これからも地域住民の暮らしの場に深くつながりながら、「頼れる身近な存在」を目指した取り組みを続けていきます。