障害をもつ子どもたちとその家族の笑顔を守りたい
2022.03.11

障害児の生活に伴走し、笑顔を守る児童指導員の仕事

三重 済生会明和病院なでしこ
Let’s SINC
子ども一人ひとりの個性を尊重して楽しく生活できるよう多職種で支援する

重症心身障害児(者)施設って何?

重度の身体障害と知的障害の両方を抱える重症心身障害児は、人工呼吸器による呼吸管理、たんの吸引など、医療的なケアや生活面での介助が必要不可欠です。重症心身障害児(者)施設では、そのような子どもたちに医療や福祉サービスを提供しながら、その子の特性に合った自分らしい生活を送るための支援を行なっています。

三重県明和町にある三重県済生会明和病院なでしこも、県内に3カ所ある重症心身障害児(者)施設の一つ。
2000年4月の開設以来、医療的なケアが必要な18歳未満の児童および18歳以上の成人を対象に、療育を通じた身体・知識・技能の発達促進、在宅生活におけるQOL(生活の質)の向上を目指した支援を、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、保育士や児童指導員などの多職種が連携して行なっています。

今回は、その中でも子どもたちの生活全般を支え、自立に向けたサポートを行なう児童指導員についてご紹介します。

脱・固定観念!

2014年、同施設に児童指導員として入職した倉井幸代さん。
利用者さんの食事の介助や口腔ケア・入浴・排泄といった毎日のケアのほか、保育士と一緒に行事を企画・開催したり、遊具や音楽などの環境を活用して身体を動かすムーブメント活動を実施したり、利用者さんが楽しめる療育活動を行なっています。

利用者さんと接するうえで倉井さんが大切にしているのは、自分の過去の経験や考えにとらわれずに一人ひとりに向き合うこと。
「できること、好きなことが一人ひとり違うため、その子に合った活動や支援を提供できるよう心掛けています」と倉井さんは話します。

児童指導員の倉井幸代さん。「家族の考え方もそれぞれ違うので家族の思いも大切。家族が話しやすい関係づくりも重要です」

多職種で子どもの“好き”を探る

倉井さんは同施設への入職のきっかけを「以前に働いていた知的障害者施設の経験を活かしたかった」と話します。

「入職した頃は、自分で体を動かすことはもちろん、コミュニケーションが難しく、快不快の表現も繊細な利用者さんとの関わり方が分からず、悩みながら過ごした日々でした」

入職して3年目、施設で初めて人工呼吸器を装着したAさんが入所し、倉井さんが担当指導員に。未経験の事柄に戸惑いながらも倉井さんを中心に、「その子のために何ができるか」を多職種で何度も話し合いました。

「PTは寝るや座るといった場面に応じた姿勢づくり、OTは視線のみでパソコンやタブレット端末を操作できる視線入力装置の導入、STはうまく飲み込むための練習や食事を楽しむためのアプローチを……。本人の楽しみを尊重した保育士との個別活動なども含めて、場面ごとに担当を決め、Aさんの生活や発達を支援しました。入所当初は表情が固い場面が多かったのですが、私たちと日々関わるうちに次第に笑顔も増え、自分でできることも増えてきました」

ところが、突然のてんかん発作が起き、状況が一変。Aさんの顔は無表情となり、一日の大半を寝て過ごすようになってしまいました。それでも倉井さんたちは本人が好きなこと・反応を示すことを探し、話しかけ続けました。

「粘り強く関わり続けることで、趣味が散歩であること、楽器が好きなことが分かりました。そこで毎日の活動に散歩や楽器演奏を取り入れると、Aさんに再び笑顔が見られるようになったんです。みんなで喜んだあの時のことは今でも忘れられません。多職種の専門性を活かし、チームで向き合えたからこそAさんも心を開いてくれたのだと思います」と、倉井さんは当時を振り返ります。

コロナ禍の絆をつなぐ「なでしこ通信」

これまで同施設では水族館やショッピングモールへの外出、ボランティアの方々や近隣の小学校との交流を行なっていましたが、コロナ禍では家族との面会すら制限される状況に。
そんな中でも感染対策を講じたうえで近所の公園へでかけると、利用者さんの笑顔があふれました。その様子を撮影した動画や写真は、月1~2回の窓越し面談の場でご家族にも見てもらい、利用者さんの楽しい気持ちを共有しています。

窓を隔てながらも、動画や写真を見ながら談笑する姿に励まされたと話す倉井さんが、コロナ禍の現在改めて大切にしているのが、利用者さんの様子や施設の取り組みを地域に発信する機関誌『なでしこ通信』の編集。

「面会が制限されている現在、通信には利用者さんの様子が伝わるように写真を多く入れています。『うちの子が載ってた!』と喜ぶご家族も多いんです。また、私自身ほかの施設の機関誌を見て、コロナ禍でも工夫して過ごす様子が励みになったので、このなでしこ通信もそうなれたらうれしいです」

機関誌『なでしこ通信』の編集会議の様子

地域のボランティアさんと協力し、オンラインでの読み聞かせ企画など、地域との関係づくりにも力を入れています。

地域とのつながりを保つことが困難な現状でも、重い障害に負けず、力強く生きる子どもたちのことを多くの人に知ってもらいたい――そんな目標を掲げ、日々のサポートだけでなく、ボランティアとの交流や地域への情報発信に奮闘する倉井さん。利用者さんと家族の笑顔の輪を広げるため、今日も活動を続けています。

久しぶりの外出に笑顔溢れる利用者さん

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