2022.3.2
開催レポート

シンポジウム
コロナ後の社会のあり方を求めて
~ソーシャルインクルージョンの理念の確立~

Let’s SINC

新型コロナウイルス感染症拡大によって浮き彫りになった孤立や排除。ソーシャルインクルージョンの理念の確立によって人とまちを元気に

2022年1月27日、東京都港区・笹川記念会館で済生会主催のシンポジウム「コロナ後の社会のあり方を求めて〜ソーシャルインクルージョンの理念の確立〜」が開催されました。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大による対面でのコミュニケーションの減少、失業・休業問題の増加などで、国民の生活は大きく変化しました。そこで浮き彫りになったのは、高齢者、障害者、一人親世帯などの孤立や排除、生活の困窮など、社会の分裂・分断です。

新型コロナ感染拡大が今も続く中、ウィズコロナ、ポストコロナを見据え“誰一人取り残さない”というソーシャルインクルージョンの理念をどのように確立していくか――さまざまな分野で地域づくりに寄与してきた行政、企業、団体が、それぞれの活動と今後の展望を語り合いました。

「国立市におけるソーシャルインクルージョンの取り組み」
国立市 市長 永見ながみ 理夫かずお 氏 記念講演

国立市は2019年4月、「人権」「多様性」「平和」を謳った「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」を全国で初めて施行しました。人種や国籍、性別、障害など、さまざまな差別への解消に取り組みながら、ダイバーシティとインクルージョンの両輪で、ソーシャルインクルージョンが息づくまちづくりを推進しています。

このコロナ禍においては、陽性者・ワクチン未接種者に対する差別にも市を挙げて取り組むほか、2008年より推進してきた高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるための地域包括ケアシステムの体制を基盤に、新型コロナウイルス感染者の自宅療養・自宅待機をサポートする専門部署「自宅療養支援室」を立ち上げ。保健所がない当市で医療対応チームをつくり、陽性者や濃厚接触者に対する支援に力を入れています。

「コロナ後の社会のあり方を求めて
~ソーシャルインクルージョンの理念の確立~」
パネルディスカッション

「コロナ禍を踏まえたソーシャルインクルージョンの取り組み
~誰一人取り残さない~」
生活協同組合コープみらい 理事長 新井 ちとせ 氏

生活協同組合コープみらいは、組合員一人ひとりが出資金を出し合い、そのお金を利用・運営しながら暮らしを向上させていく消費者団体です。

食料品の宅配サービスをはじめ、店舗、訪問介護・看護サービスなどの福祉事業、電気・ガス、冠婚葬祭など、“ゆりかごから墓場まで”、地域に暮らす多世代を対象にしたサービスを提供。それぞれの事業と活動を通して、地域の高齢者の見守り・安否確認や子育て世代のサポートなどを行なっています。

子育てひろばや高齢者向けサロンなど、地域ニーズに合わせた居場所をつくる「みらいひろば」の活動も大切にしています。誰もが参加でき、地域情報の交換や交流などで親睦を深める場として、埼玉、東京、千葉の280カ所で開催してきました。コロナ禍においては、「活動を続けなきゃ」を合言葉に、オンラインツールを駆使するなど、さまざまな工夫をしながら組合員とのコミュニケーション、つながりの維持を続けています。持続可能な暮らしと地域社会づくりを進めることがコープみらいの重要なミッションです。

「地域コミュニティの社会的インフラを目指すイオンモールの取り組み」
イオンモール株式会社エンターテインメント推進部 部長 最上 亜紀 氏

イオンモールは、国内外に202店舗を展開するショッピングモールです。商業施設としての利便性を高めるだけでなく、地域社会の抱える課題の解決方法を提供し、コミュニティに根差した社会的インフラとしての地位確立を目指しています。

例えば、選挙の期日前投票所としてのスペース提供や行政サービス窓口を設置するなど、地域課題解決に向けたサービス拡充に取り組んでいます。また、コロナ禍においては、ワクチン接種会場や、緊急事態宣言下で不足した献血を補う献血会場としてモールを提供しました。さらに、国内のほぼ全モールが各自治体と防災協定を締結し、災害発生時には支援を行なえるよう備えています。

2019年には、イオンモールと済生会で「未来に向けた持続可能なまちづくり協定」が締結されました。双方の強みを活かし、密に連携することで、地域の課題解決や先進的なまちづくりを推進しています。活動の一例として、通路に距離が表示されたウォーキングコースを持つモールで、その地域の済生会病院と協力し、医療従事者が運動をサポートするウォーキングイベントなどを開催しています。

「小樽ウエルネスタウン構想」
北海道済生会 常務理事 櫛引 久丸 氏

北海道済生会が推進する「小樽ウエルネスタウン構想」では、小樽築港地区を中心に健康で豊かな生活を続けられるまちを目指し、行政や地元企業と連携した取り組みを行なっています。

市内の大型ショッピングモール「ウイングベイ小樽」内にオープンした「済生会ビレッジ」では、高齢者・障害者の支援、在宅医療、子育てなどについて、誰でも気軽に相談できる「北海道済生会地域ケアセンター」、児童発達支援・放課後等デイサービスを行なう「きっずてらす」を設置。小樽病院の医師や看護師が行なう健康相談や健診チケットを販売する自販機の設置など、済生会小樽病院と連携し、地域に開かれた健康ステーションの役割も担っています。

また、コロナ禍においては、+10分の運動で将来的な脳卒中、がんなどのリスク減少を目指す市民参加型イベント「ウエルネスチャレンジ」やひとり親家庭・生活困窮家庭に食品を寄贈する「済生会フードバンク」などの活動を通して、住んでいる人が幸せになるまちづくりを進めています。

「孤独死を防ぐ~つながりのある地域を目指して~」
兵庫県済生会 特別養護老人ホームふじの里 介護部長 松永 りか 氏

兵庫県済生会では、神戸市やUR都市機構、社会福祉協議会と連携し、高齢者が住み慣れた地域で安心して住み続けられるよう支援する活動を行なっています。

孤独に暮らす高齢者向けの相談窓口「なでしこ暮楽部」の運営および見守り活動や、ボランティアを含む約140人の「絆サポーター」による高齢者への目配り運動を行なっています。また、住民同士の交流を目的とした介護予防カフェや、看護師、医療専門職による健康講座の開催など、まちづくりへの参画や他機関と協力したまちづくりに力を入れています。

現在はコロナ禍で、積極的な訪問や集会は困難な状況となっていますが、今後も思いやり・助け合いの気持ちを大切に、つながりのある地域を目指して活動を行なっていきます。

「ウイズコロナ・ポストコロナの社会のあり方」
済生会 理事長 炭谷 茂 氏 基調報告

コロナ禍では、貧困層や高齢者、障害者の社会的排除・孤立や、社会の分断・分裂が進行していると考えられます。済生会では、誰一人排除しない社会を目指す『済生会ソーシャルインクルージョン推進計画』を策定し、刑務所出所者や障害者への就労機会の提供、ひとり親家庭の子どもの学習支援、高齢者の憩いの場の提供などを進めております。今後も、行政や企業、団体と連携、協力しながら、人と人との結びつきを形成・まちを活性化させる事業を行なっていきます。

コロナ禍によりますます差別、排除が顕在化するなか、行政や企業、団体では、人と人をつなぐさまざまな取り組みが行なわれています。ポストコロナの社会においてこそソーシャルインクルージョンの理念のもと、人と人とのつながりを強化し、お互いを尊重し、支え合うことが重要です。誰一人取り残さない社会を目指して、各団体や企業はより協力を密にしていきます。

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