「家族の立場に立って」サポートする。
“医療的ケア児”ゆうきくんの療育日記
今回は、医療的ケア児の主人公・ゆうきくんとお母さんが「なでしこ」を知り、療育活動を通して成長していく様子を、医師、保育士、相談支援専門員などの職員のコメントとあわせて見ていきましょう。
「通所支援を受けてみませんか?」きっかけは市の相談窓口の紹介
長男のゆうきが4歳になった。2130gの「低出生体重児」として生まれてすぐNICU(新生児集中治療室)へ入り、人工呼吸器を使用。気管切開手術をした頃は不安で眠れない毎日を過ごした。6カ月で退院してからは在宅での酸素療法を経て、知的障害と下半身の麻痺が残ったけど、かわいい笑顔が見られるほど体調は安定してきた。
胃ろうからの経管栄養の注入や、痰の吸引、気管カニューレの手入れなど、日中の医療的なケアは私が一人で見ている。にこにこと笑いかけてくれるゆうきがかわいくてしょうがないけど、家庭での教育は十分なのか、保育園に入れるのか少し不安。妹のひかりもまだ2歳。もっと遊んであげたいけど、なかなか時間が取れないまま一日が終わる。わたしの職場復帰も、もう難しいのかな……。
ひかりの栄養相談で訪れた「子育て支援センター」で、明和病院内の「なでしこ」という施設を紹介してもらった。相談窓口があるようなので行ってみよう。
山川 紀子医師
相談窓口「明和ねむの木」で気づいた支援者の存在
なでしこに併設された障害児相談支援事業所「明和ねむの木」を電話予約して、訪問。ゆうきのお世話や、今後の子育てについて話をきいてもらった。「おひとりでのお世話、頑張りましたね。お母さんやお父さんの負担を減らしながら、ゆうきくんがもっと楽しく成長できる環境を一緒に考えていきましょう」と声をかけてくれて、ほっとしたら少し泣いてしまった。相談できる人がいなくて心細かったんだなぁ……。来月から、毎週月・水・金曜日の3日、ゆうきはなでしこへ通所することになった。
相談支援専門員
村山 明之さん
相談支援専門員
村山 明之さん
通所で学んだ! よりよい生活を送るための療育活動
なでしこへの通所が始まって3カ月。初日は少し緊張して表情がかたかったゆうきも、朝の会で保育士さんに「しんくら ゆうきくん!」と名前を呼ばれるとうれしそうに脚をパタパタさせるようになった。わたしと夫、病院の先生以外とお話する機会はなかなかなかったから、ゆうきの世界が広がっていくようでうれしい。保育士さんを中心に、お医者さん、看護師さん、理学療法士さん(PT)、作業療法士さん(OT)、相談支援専門員さん、児童指導員さん……スタッフのみなさんがあたたかく見守ってくれる。
トランポリン、楽器遊びなどの集団での活動や、歩行のリハビリ、昼食介助、排泄介助など、15時までお世話してもらえる。お迎えまでに家事を片付けて、ひかりとゆっくり散歩する時間も作れるようになった。
通所メンバーは、ゆうきと年齢の近いお友達のほかにも、特別支援学校を卒業したお兄さん・お姉さんも多く、みんなで9人。お迎えの際には、保護者のみなさんと悩みを相談しあったり、装具のおさがりをいただいたりと、ママ友・パパ友との情報交換も楽しみになっている。
鈴木 由紀子さん
高橋 悠也さん
鈴木 由紀子さん
「なでしこの」保育士さんの担当業務はこんなに幅広い!
専門職から指導を受けて行なう支援内容(一例) | |
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医師・看護師からは…… | 疾患についての情報や対応の注意事項、口内や気管カニューレ(気管切開後の空気の通路)内の痰の除去、心肺蘇生の手技、医療機器の使用方法 |
理学療法士からは…… | 安全なポジショニング(要介護者が楽な姿勢を取れるよう補助する)、移乗動作(ベッドから車椅子などへ移る動作)の介助、装具の着用方法(体幹や足のコルセットのような役目を果たす) |
作業療法士からは…… | 食事の介助方法、コミュニケーションのコツ、発達を促す遊び方 |
「みえる輪ネット」の事例検討会で「一人じゃない」と思えた
なでしこの児童指導員さんの紹介で、三重県南部地域の支援者や医療的ケア児と保護者がともに参加するネットワーク「みえる輪ネット」の事例検討会に参加した。事例ビデオを見たり、グループワークを通じて、隣町の支援について話が聞けたりと、とても勉強になった。
コロナ禍に突入してからは、自宅からオンラインで参加するように。家族みんなでゆったり参加できるから、オンラインも便利だね。SNSでもコミュニケーションを取りながら、また直接みなさんに会えるのを楽しみに待とう。
みえる輪ネット担当
青木 哲也さん
新型コロナ感染症の流行以後も、オンライン開催へ変更して事例検討会を継続。遠方に住む人や、移動が困難な医療的ケア児者も自宅から気軽に参加できるようになり、参加地域もますます拡大しています。
「もしも」に備える避難訓練で知った避難経路の重要性
みえる輪ネットの「津波避難タワーへの避難訓練」に参加した。参加前は「車いすや大荷物を持って避難所までたどりつけるかな」「ライフラインを考えると家の方が安全なのでは……」考えていたけど、家からの避難経路を実際に確認してイメージができたし、不安のひとつだった非常用の電源の購入補助も、三重県南部で少しずつ増えていることがわかり安心した。
大人4人でゆうきの車いすを抱えて、津波避難タワーの階段を上る。車いすには、被災時に酸素療養が必要になった場合に備えて、酸素ボンベや普段使っているケア用品を積んだので、とても重かった。被災経験者の方のお話も聞いて、非常持ち出し袋も見直さなければ……と勉強になった。
みえる輪ネット担当
青木 哲也さん
みえる輪ネット担当
青木 哲也さん
なでしこ、地域の支援を受けながら保育園を卒園
ゆうきは、なでしこの支援を受けながら無事保育園へ入園し、この春卒園した。夢のひとつが叶うなんて……不安でいっぱいだった頃の私たち家族に教えてあげたい。通所だけでなく短期入所も組み合わせることで、ゆうきの療育活動の充実、ひかりとの時間の確保、わたしの仕事復帰も叶い、なでしこのみなさんには感謝の気持ちでいっぱい。
保育園入園の条件のひとつだった、園内で医療的ケアをしてもらえる看護師さんの確保には大苦戦したけど、明和ねむの木の相談支援専門員さんが二人三脚で自治体へのはたらきかけをサポートしてくれて、無事入園が叶った。
なでしこへの通所を通じて、電車やダンス、タンバリンなど、ゆうきのたくさんのお気に入りを見つけられた。春からは、特別支援学校へ入学する。授業のあとはなでしこの「放課後等デイサービス」で、これからものびのびと成長できますように。
山川 紀子医師
山川 紀子医師
「明和ねむの木」で妹・ひかりちゃんの情緒面の変化にも気づけた
ゆうきのお迎えの際、相談支援専門員さんが声をかけてくれた。ひかりの発達について「周りの子と比べて、少し落ち着きがない気がする」と、ぽろっとこぼしたのを覚えていてくれたみたい。「ひかりちゃんは少し、甘えたいのを我慢しているのかもしれません。情緒面に変化が現れるきょうだい児は少なくありません。発達について気になるようでしたら、当院の外来も受診できるのでお気軽にどうぞ」
家族との関係性まであたたかく見守ってくれるなでしこのみなさん。病院との連携もばっちりで、安心して相談できる。これからもよろしくお願いします!
相談支援専門員
村山 明之さん
相談支援専門員
村山 明之さん
明和病院 なでしこでは、災害対策の啓発活動、「みえる輪ネット」の運営を行ないながら、医療的ケア児とその家族に寄り添い、療育活動を支えています。
ホームページ:https://www.meiwa-saiseikai.jp/nadeshiko/index.php