子育てに自信を! 母子に寄り添う病院の育児支援
適切なケアが母子の健康を守る
子どもの成長や健康状態に関する不安、お世話の仕方が合っているかなど、育児には不安がつきものです。特に新生児の子育ては四六時中目が離せず、言葉でのコミュニケーションもとれないため、神経質になりすぎてしまうことも。
新生児への適切なケアは、赤ちゃんの命だけではなく妊娠・出産によって疲れ切ったお母さんの心と身体も守る大切なものです。
常に不安を抱える母と子の健康を守りサポートするため、出産時の早期母子接触や母子同室、定期的な健康診断や育児指導など、退院後の育児支援にも積極的に取り組む病院が増えています。全国の市町村でも、育児への不安を抱える保護者を対象に産後ケア事業を実施。安心して子育てができるよう支援しています。
今回は、入院中から妊産婦の不安に寄り添い、退院後の育児支援にも力を入れる富山県済生会高岡病院を紹介します。
母乳育児を推進する「赤ちゃんにやさしい病院」
UNICEF(国連児童基金)とWHO(世界保健機関)が母子へのケアの鍵として着目しているのは、母乳による育児。
母乳は、赤ちゃんに必要なすべての栄養素を備える「完全食」であり、また、授乳時の触れ合いは母子の絆を深める効果があるとされています。さらに、授乳をしている間は次の妊娠を抑制する効果もあり、お母さんの体力を回復させる役目も果たしています。
そのようなメリットからUNICEFとWHOは、1989年に「母乳育児を成功させるための10か条」を発表。「母子同室にすること」「母乳育児のための支援グループ作って援助し、退院する母親にグループを紹介すること」など、母乳育児を成功させるための10か条を実践し、母乳育児の普及と推進に取り組む施設を「 赤ちゃんにやさしい病院(Baby Friendly Hospital)」に認定しています。
現在、産婦人科・産科がある国内の一般病院は約1300施設※1。そのうちの68カ所がこのBFHに認定され、同院もその一つです※2。
※1参照:厚生労働省:医療施設調査より
※2参照:日本母乳の会:BFH認定施設所在地より
母乳育児のすばらしさを伝えたい!
高岡病院がBFHの認定を受けたのは2005年8月。以来16年間、助産師や小児科医師、医療ソーシャルワーカー(MSW)、理学療法士など多職種で母乳育児を推進しています。
「幸せそうにおっぱいを飲ませているお母さん、安心して飲む赤ちゃんの様子を日々目にする中で、『母乳育児がいかにすばらしいかを伝え、支援することが私たちのやるべきこと』と職員一同が考え、BFHの審査を受けました」と看護師長の山本泰子さんは話します。
認定を目指すにあたり、病院内ではさまざまな改革を行ないました。
まず着手したのは、施設の医療環境の整備や支援内容の見直し。産婦人科外来の中に、助産師が不安を抱える妊産婦に個別に対応を行なう「妊婦支援室」を開設しました。
「妊娠20週、24週、30週、36週、それ以降は毎回の妊婦健診時に、助産師が個別支援を行なっています。妊娠から産後の経過を正しく理解してもらうことで、出産・育児を迎える心の準備をします。母親の役割とは何かを考えるうえで母乳育児のよい点を伝え、実際に取り組んでもらうことが目的です」(山本さん)
また、出産時の早期母子接触や分娩後30分以内の早期授乳も開始。赤ちゃんのお世話の予行練習になる母子同室にも取り組みました。
父親を含めたサポートとしては、産後に夫婦で宿泊し育児体験ができるファミリールームを用意。命が生まれる瞬間に父親(家族)が立ち会うことで親としての自覚が生まれ、スムーズな育児への第一歩につながります。コロナ禍の現在も分娩室に在室できる時間を2時間に制限して立会い分娩を継続しています。
24時間体制で離れていても育児をサポート
育児支援は、退院した後も継続してお母さんをサポートすることがとても大切です。同院では、不安を抱えたまま地域で孤立してしまうことがないよう、24時間体制の電話相談をはじめ、退院1週間後を目安にした母乳相談「すくすく健診」、仲間作りの場にもなる母乳育児サークル「マザリーズ」を整備しています。
マザリーズでは、医師や認定看護師、理学療法士、栄養士によるミニ講座を毎月開催。赤ちゃんのスキンケアや事故防止など、役立つ育児情報を提供しています。また、育児に関するお悩み相談のほか、誕生会やクリスマス会なども行ない、お母さん同士の交流の場となっています。
「コロナ禍により現在はマザリーズを休止していますが、離れていてもお母さんお父さんの育児への不安に寄り添えるよう、婦人科医師の教育講座(「授乳とくすり」「妊娠とくすり」)をYouTubeで配信しています」(山本さん)
※「富山県済生会高岡病院公式YouTubeチャンネル」…高齢者向けの健康情報も配信中
市と病院で取り組む「産後ケア」で不安を軽減
同院では、高岡市と射水市から委託を受け、「産後ケア事業」も実施。産後ケア事業とは、子育てに関する不安軽減のため、妊娠期から子育て期にわたって助産師が切れ目なくサポートする事業で、全国の市町村が取り組んでいます。
対象は、「授乳がうまくいっているか不安」「育児に不安がある」「家族の支援を受けることができない」といった悩みを抱える産後4カ月未満の母子。お母さんの希望に沿った支援ができるように、ショートステイ(宿泊)とデイケア(日帰り)で、ライフスタイルに合わせた母体ケア・育児サポートをします。具体的には、母子の心身の状態を聞きながらケアプランを作成し、乳房の手当てや発達チェック、授乳方法、育児相談などを行なっています。
「陥没乳頭のため直接授乳できないお母さんへは、入院中に搾乳方法を説明し、『いずれ直接授乳できるようになる』と励まし続けました。退院後もすくすく健診や育児サークルへの参加を促してサポートを続けた結果、『急に吸えるようになりました』と笑顔でお母さんが報告してくれました」(山本さん)
切れ目のない育児支援で不安を安心に
「子育てへの不安に対するサポートを退院後も継続するために、病棟スタッフから外来スタッフへ入院中の母乳分泌の状況や育児支援の内容、家族の支援状況などを共有し、お母さんが安心して授乳や育児が続けられるよう支援しています。産前・入院中のお母さんの様子を分かっているからこそサポートできることも多く、施設での継続支援の重要性を改めて感じています」(山本さん)
核家族化や出産の高年齢化が進む現在、子育て中に家族や身近な人の支援が受けられない人も増えています。だからこそ、出産に携わる助産師や看護師など、さまざまな専門知識を持つ多職種が母子に寄り添い、育児に自信が持てるように支援する必要があります。
高岡病院はお母さんとその家族が「育児が楽しい」と感じられるように、母乳育児を含め、産後ケアをさらに充実させながら切れ目のない支援を今後も続けていきます。