病気や障害でおしゃれをあきらめない。
「ファッション外来」診察中!
病気や障害にかかわらず、おしゃれを楽しみたい
「元気な時に着ていたお気に入りの服がまた着たい」「着脱しやすい服を選ぶしかなく、自由におしゃれが楽しめない」「市販品の服が身体にフィットしない」――病気や障害を理由に、着たい服を選べないという悩みを抱える人がいます。
そんな悩みを解消するのがユニバーサルファッション。片手で動かせるファスナーや磁石で止められるボタンなど、年齢や障害の有無にかかわらず、「着脱しやすく」「おしゃれで」「自立を助ける」衣服のことを指します。
「ユニバーサルファッション」で患者さんを元気に!
2021年6月、石川県済生会金沢病院の売店の一角にオープンした『ファッション外来 衣服のお悩み相談所』。切り盛りするのは、売店の店長・橋本俊彦さんの妻の橋本久恵さんです。入院・通院中の患者さんや障害のある人のファッションに関する悩みを聞き、その人が生活しやすいように衣服の仕立て直しを行なっています。
橋本さんは洋裁師として20年以上のキャリアを積んできた衣服の専門家。百貨店で、そのお客さんのためだけに一点物の洋服を仕立てるオートクチュールの仕事をしていました。夫の俊彦さんが金沢病院内にある売店の経営を始めたことで、橋本さんもお店を手伝うことになりました。
「病院の売店で働いていると、それまであまり気に留めなかった車いすの患者さんが多くいることに気づきました。その患者さんたちと自分の父の姿が重なりました」(橋本さん)
実は、かつて脳梗塞で倒れた父親の介助経験があった橋本さん。寝たきりの父親をそばで支える母親から「お父さんが元気だった頃に着ていたパジャマにファスナーを付けてほしい」という相談を受けたことを思い出しました。
父の死後、教員として勤めていた服飾専門学校で『ユニバーサルファッション』に出会った橋本さんは、その考え方とこれまで培ってきた洋裁の技術を使えば、病気や障害があっても自由にファッションを楽しむお手伝いができるかもしれないと考えました。
「さっそく売店の担当だった金沢病院の奥名司夫さんに、『患者さんの衣服の相談に気軽に応じられる場を作りたい』と提案し、形にすることができました」(橋本さん)
衣服の見た目はそのままにお悩み解決
現在、相談所には月平均で20人程が訪れます。橋本さんが心がけているのは「一人ひとりの話をよく聞くこと」。相談者の日々抱えている悩みや希望、普段の様子などを丁寧にヒアリングします。その後、要望に沿った仕上がりイメージで仮縫いしたり、サンプルを試着してもらったりしながら、アイデアを固めていきます。
事故の影響で首から下に重度の麻痺が残り、衣服の脱ぎ着がしにくいという悩みを抱えていたAさん。お気に入りの衣服の脇に大きく開くファスナーを付けることで、着脱しやすいようリフォームを行ないました。
「Aさんからは『脱ぎ着しやすく仕立て直してくれるおかげで、自分が好きな服を着られる』との声をいただきました。介助をするAさんのご家族からも『介助を優先して、いつもワンサイズ大きい伸びる素材の服ばかりでした。本人の喜ぶ姿が見れてうれしい』と言っていただきました」(橋本さん)
30代で乳がんの摘出手術を受けたOさんからは「市販品のパッド付きインナーはゴムがきつくて体に合わないのでゴムを取ってほしい。胸パッドも作ってほしい」という依頼が。「橋本さんのおかげでリラックスできるインナーができた! 胸パッドもサイズぴったり!」と笑顔で話してくれたといいます。
「笑う門には服着たる」
衣服のリフォームで人々を笑顔にする橋本さんの座右の銘は「笑う門には服着たる」。「袖を通すと思わず笑顔になれる、誰もがおしゃれを楽しめる世の中であってほしいから」と笑顔で語ってくれました。
金沢病院も相談所の設立当初から橋本さんをバックアップ。衣服の悩みを抱える患者さんを相談所に案内するほか、同院が運営に携わるがんサロンでも胸パッド等のオーダーメイドを紹介しています。
橋本さんの取り組みをサポートする理学療法士の山川友和さんも「衣服に悩みを抱く患者さんや介助に携わる人たちに広く届けられるように応援しています!」と、橋本さんにエールをおくります。
病気や障害を理由におしゃれをあきらめてしまうのは、本人にとってつらいこと。その人らしさを守り、心の健康を支える橋本さんの取り組みは、QOL(生活の質)の向上だけではなく、誰もが好きなことをあきらめずに生きていける社会へとつながるのではないでしょうか。