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生活協同組合コープみらい
2023.03.01

「たすけあい」と「おたがいさま」
コープみらいが描く、誰一人取り残さない地域の未来像

誰もが一度は見かけたことのある、コープの宅配トラック。近所にスーパーマーケットがあるという人も多いはず。毎日の食を支えるコープが、助け合いをモットーとしたまちづくりに取り組んでいることをご存知ですか? 高齢者の見守り、子育て世帯の支援、居場所づくり、高校生向けの奨学金制度など、取り組みの分野はじつにさまざま。“助け合い”というモットーが根底にあるからこそできる、地域住民が主役のコープ流まちづくりとは? 千葉、埼玉、東京を活動地域とする「コープみらい」理事長の新井ちとせさんに聞きました。

そもそも「コープ」ってなんでしょう?

英語で書くとCO-OP。co-operative(協同組合)の略語で、正式には消費生活協同組合、生活協同組合や生協と呼ばれることもあります。発祥は19世紀のイギリスです。コープという呼称は、世界中にある協同組合共通のシンボル。そのため、世界のあちこちで「CO-OP」という看板を掲げたお店を見つけることができます。

コープには、出資、利用、運営という3つの原則があります。組合員として加入する一人ひとりが出資金を出し合い、組合員自身が意見を持ち寄って運営し、ともにサービスを利用します。つまり、一人ひとりの豊かな暮らしのためにお金を出し合い、みんなで叶えていくのがコープの特徴です。株式会社など営利を目指す団体とは異なり、自分たちの暮らしを守っていくために自分たちでつくった組織なのです。

新井さん
コープは出資金の多寡にかかわらず、全員に運営に参加する平等な権限があります。そこが、株式会社などと違うところだといえます。一般的には生協やコープと呼ばれ、同じコープでもロゴマークが異なっていたりするのは地域ごとに立ち上げて運営しているため。2013年に、千葉、埼玉、東京のコープが合併して誕生した「コープみらい」は、約370万人が加入する日本最大のコープです。

組合員の“願い”を叶えるための方法として、コープみらいは、「事業」と「活動」の両輪で進んできました。「事業」として展開するのは、宅配事業、店舗事業、福祉事業、エネルギー供給事業など。事業と並行して、集いの場の運営や有償ボランティアでの助け合いといった「活動」を、組合員が主体となって続けています。事業を通してできた人と人のつながりが「活動」に反映され、活動で得られる商品やサービスについてのニーズを「事業」に反映する。二つを両輪で進めるからこそ、自分たちが望む豊かな暮らしへとつながり、まちによい循環が生まれていきます。

新井さん
組合員活動には、本部職員はほとんど介入しません。組合員が主体的に自主性を大切にして活動しています。さらにコープみらいエリアを22のブロックに分け、それぞれに会議を開いて、どのような活動をするかなどを決定しています。ブロックを形成しているのが、約300人ほどいるブロック委員。組合員同士、また、コープと地域をつなぐ役割を担っています。

“宅配のコープ”だからできる孤立対策とは?

コープのメイン事業のひとつが、「宅配」です。

エリア内を走るコープみらいのトラックは、なんと4,000台。
「同じ配達職員が同じ曜日に届ける」ことを基本としているため、地域内や宅配先での組合員の変化に気づきやすいといいます。例えば、普段とは違う注文数から認知症の前兆を感じたり、体調を崩して倒れているところを発見できたりといったケースも。

配達の際の声がけも大切にしています。夏の暑い時期にはひとり暮らしの高齢の組合員にエアコンをつけるように呼びかけたり、高齢で字が書きづらくなった組合員さんと一緒に注文書を記入したり……。コープみらいでは、そうした配達のなかで生まれた地域の人との関係性や見守り役の機能を、もっと地域の中で活かせないかと考え、自治体にも連携を提案。現在、エリアの全自治体(島しょ部を除く)と高齢者等の「見守り」に関する協定等を結んでいます。

「前回届けた商品が玄関先にそのまま置いてある」といった異変に気がついたら、協定に基づき、すぐに地域包括支援センターなどに知らせる役割をさまざまな地域で担っています。

配達職員一人ひとりが、「何かあった時は自分たちができる限りのことをする」というポリシーをもち、
埼玉、東京、千葉をくまなく巡る
新井さん
トラックに乗る配達職員たちは、地域の方々の食を支えるエッセンシャルワーカーです。特にコロナ禍においては、ご高齢の組合員の方が会話を交わす数少ない相手になっていました。「コロナ禍も台風や地震のときも、何かが起きるたびに『コープに入っていてよかった』と思うのよ」といった組合員の声が毎日の励みになっています。

組合員だけ、と線引きはしない。
「みらいひろば」は誰一人取り残さない場でありたい

コープみらいの両輪のもう一つを担うのが、地域での「活動」です。「みらいひろば」は、組合員でなくても誰でも参加できる交流の場。子育てや介護に関する悩み、地域のこと、コープの商品などについて、自由に情報交換することができます。託児支援制度や会場までの交通費補助制度など、さまざまな人に参加してもらうためのサポートも充実しています。

新井さん
このみらいひろばは、以前は千葉、埼玉、東京それぞれに、中学校区ごとの「コープ会」として存在していました。
しかし、子育てをしながら働く人の増加や高齢化などに伴い、地域に参加者の偏りができたため、考え方や方向性を見直すことで、参加者も増えて活気ある場になるのではと考えました。それぞれの会が、地域のサードプレイス(家でも職場でもない第三の居場所)としての機能を求めていたこともあり、合併を機に都県ごとの「みらいひろば」として再スタートしました。

みらいひろばでは、学びや交流が進むように月毎にテーマを設定しています。たとえば、「防災月間」がテーマの際には、市の防災課に依頼して、ハザードマップの説明をしてもらったり、「健康」をテーマにした会では、病院の作業療法士を招いて健康体操を実施したりと、行政や地域の団体と連携して開催するみらいひろばも少なくありません。誰もが知っておきたいテーマを選ぶことによって、みんなで地域や社会の問題を考える機会にもなると新井さんは話します。

新型コロナの感染者やエッセンシャルワーカー、
医療従事者への差別を防止するシトラスリボンづくり(埼玉東南ブロック主催のブロック企画)
市と共催のみらいひろばで行なったボーリング大会(みらいひろば入間高倉の家・埼玉西南ブロック)
新井さん
「コープさんだと、市で主催するより人が集まる」という声を行政の担当者からいただくことが多くあります。みらいひろばの開催を通して、地域の人と人のつながりができていること、誰もが気軽に参加できる場となっていることを実感しています。
実は、わたしも子育て中、「どこの幼稚園がいいのかな」と悩んで参加していました。多世代交流ができるので、相談がしやすいんです。「ここからは組合員限定」という線引きはせず、これからも、誰でも参加してもらえる場でありたいと思っています。

コミュニティの大切さを実感した「コロナ禍」

“集まる”ということが困難になったコロナ禍では、みらいひろば自体は一度ストップしたものの、「ピンチをチャンスに変えよう」と、オンラインの活用などを組合員主体で進めました。
「人と会えない」という逆境を乗り越え、「いつでも、どこでも、誰でも参加できる」ようになり、間口がさらに広がったのだといいます。

新井さん
コロナが感染拡大し始めた時、「みらいひろば」をなくしてはいけないと組合員さんが知恵を出し合い、存続のために話し合いを続けました。会えない中で実感したのは、やっぱり「誰かと話したい」という思い。コロナがつながりの大切さを改めて教えてくれた気がします。
子育て世代がオンラインで集まる
「ほっぺルーム」(東京3ブロック)
組合員VOICE

コロナ禍でコミュニティの場の大切さを実感

コロナ禍でみらいひろばが中止になっていた期間、長い自粛生活を余儀なくされてしまったため、
高齢者のフレイルや認知症が心配でした。
近所で一人暮らしをしている方は介護度が上がってしまったそうなのですが、
「みらいひろばがあれば…」と残念がっていて、コミュニティの場の大切さを実感しました。
何かできることはないかとブロック委員に相談したところ、少人数でお試しのみらいひろばを開いてみることに。ブロック委員さんたちが、不安に真剣に向き合ってくださったことに、とても感動しました。

“おせっかい”は地域に必要。
互助を推進する「くらしのたすけあいの会」

出産後の家事を手伝ってほしい、視覚障害があるため手紙の代筆をしてほしい、庭の草取りをしてほしいなど、暮らしの中で誰かの手を借りたくなったとき、組合員同士の有償ボランティアで助け合うしくみが「くらしのたすけあいの会」です。

会の根底にあるのは、「大変なときはおたがいさま」という共感の気持ち。コーディネーター役の組合員が、依頼したい人と受ける人をつなぎます。助けてもらえる仕組みであることはもちろんのこと、誰かの助けになりたいと思う人の活躍の場にもなる取り組みです。

新井さん
地域にいる人同士だからこそ何が必要をしているかがわかりやすいと感じています。お互いに、いい意味での「おせっかい」ができるんです。
エリアごとに地域密着で活動を行なうたすけあいの会。家事援助の様子。
援助会員VOICE

家事に無関心だったAさんが「前向き」に。

病気の治療を経て退院されたAさん(50代男性)。
落語が好きで穏やかな方ですが、
病後で一人暮らしのため、生活を心配されたお姉様から家事援助の依頼がありました。
掃除機かけ、風呂・トイレ掃除など、一時間程度のお手伝い。
はじめは家事には無関心だったAさんですが、身の回りが片付いていくと気持ちよく生活できるようになり、気分が前向きになっていかれたようでした。
今では、掃除用具などをご自分で揃え、援助が不要だと思われるほどおそうじ好きに。
生活も病状も安定してこられた様子に活動の喜びを感じました。

コーディネーターVOICE

片付けが苦手なママに援助をコーディネート

3人の子育てに奮闘中のお母さんから依頼をいただいて、
お手伝いを担当する援助会員さんと一緒にご自宅に伺いました。
出産をされた直後で、家の中は乳児用のベッドやたくさんのおもちゃでいっぱい!
たくさんのダンボールで山ができていました。
「お料理は得意なのでお掃除を手伝ってほしい」ということで、2時間の大掃除。
その後、会員さんから、
「物を溜め込むと手をつけるのがどんどん憂鬱になってしまうのだなぁ……と実感しました。
お母さんにもよろこんでもらえました」と連絡がありました。

コープみらいが目指す、地域の未来像

すべての事業と活動において、根底にあるのは、助け合いの理念。その姿勢から、コープならではのまちづくりが見えてきます。

新井さん
「コープが地域をつくる」「地域ニーズを汲む」という観点は持っていません。地域をつくるのは、地域の人です。その思いに、地域密着型支援として関与できることが、わたしたちの自信であり、誇りでもあります。組合員の方々は、受け取るだけの「お客様」ではありません。このスタンスが、事業と組合員活動の両輪で進むというコープみらいのあり方につながっています。

地域包括ケアシステムの基本概念である、自助、互助、共助、公助。その中でも、地域住民同士で支えあう互助は、これからのまちづくりを考えるうえで鍵となる価値観です。家族や社会のあり方が変化し続ける今、コープでは、お互いが孤立しないための支え合いが、活動として育み続けられています。

「困っている人がいたら地域で助け合う」――ほんの数時代前の日本には確かにあった互助とともにある暮らしは、誰一人取り残さないソーシャルインクルージョンの根付いたまち、そして、SDGsでも目指される地域のありかたそのものだといえそうです。

今回訪ねたソーシャルインクルージョンな場所

生活協同組合コープみらい
住所:埼玉県さいたま市南区根岸1丁目5番5号(本社)

生活協同組合コープみらい公式サイトはこちら ≫

TOPICS コープみらいから済生会へ、二年連続でお米の寄付

2022年、コロナ禍における生活困窮者への支援と日本の米づくりを応援することを目的に、コープみらいから済生会に合計6.6トンの精米が寄贈されました。いただいたお米は、済生会鴻巣病院向島病院の2病院が取り組む子ども食堂に役立てられ、2023年4月からも引き続き、お米を寄贈いただくことが決まりました。済生会とコープみらいは、今後も共通のビジョンとして掲げる「インクルーシブ社会」の実現に向け、さらに連携を深めていきます。

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