

ソーシャルインクルージョンな
場所・モノ・コトをピックアップ


“障害者アート”の枠に閉じ込めない、“生きる証”を伝えるアート
病院が発信基地となる「虹のアート展」
まずは一緒に、アートをたのしんでみよう。

青色から始まり、赤、紫、薄水色と4色で描かれたユニークな色遣いの虹。2022年の冬、初めて済生会中央病院で開催した「虹のアート展」に展示された作品です。
「虹=七色」という概念を飛び超え、みずみずしく広がる色。明るい青から深い青へ、青のグラデーションが、見る人の心を不思議と穏やかにしてくれます。作者は自閉症をもつ男の子。描いたとき、彼が一番初めに画用紙に落とした色は“青”でした。自分の気持ちを落ち着かせるように、少しずつ青の色合いに変化をつけていきました。



この絵の主人公は「カゼオシキ」という少年。少年の周りには7色に変化するさまざまな力を持ったロボットたちが描かれています。ロボットは色や形を変えながら地球の危機に立ち向かいます。この作品は、自閉症を抱える平山さんの息子さん・亮さんが2011年の震災後に制作したもの。作品に託したのは、震災後に亮さんが感じた「なんとか地球を守らなければいけない」という強い願いでした。


絵を描くことが好きな人に「たまたま障害があった」
亮さんの心の中だけにある唯一無二の物語を、緻密な構想作業を経て32色の色鉛筆で描き出した「チームガジェッター」。亮さんの世界を表現する方法としての「アート」との出会いは、亮さんがまだ幼稚園の頃でした。
「ココアと練乳を床にまき散らかす」「トイレの水を溢れさせる」「まったく眠らず、夜中に外へ飛び出す」——日ごとにエスカレートするいたずらに困り果て受診した病院で、亮さんは自閉傾向にあると診断を受けました。そんな亮さんに平山さんが偶然手渡したのが“小麦粘土”でした。


「カタツムリが這う様子」を表現したものなど、今にも動き出しそうな亮さんの粘土作品。「これが食卓にくっつけられていたり(笑)」(平山さん)

小さな頃から一緒に小麦粘土で遊んだ弟の匠さんは現在プロの彫刻家として活動。「自閉症という障害がある兄と自分の粘土を介したコミュニケーション」についての研究発表を行ない、亮さんの絵も展示された。二人は “障害がある兄”と“弟”ではなく“ライバル”。
アートは、その人が“生きた証”になる。
粘土遊びに夢中になる姿を見て、平山さんは亮さんの美術の「先生」を探します。しかし、なかなか見つからず、自身で美術の勉強しようと決意。そこで出会ったのが「臨床美術(クリニカルアート)」でした。もともとは、アート制作を通して脳を活性化させ、認知症の予防と改善の目的で始まった臨床美術。現在では対象者が広がり、子どもの「発達」に働きかけ、感性や自己肯定感を育む教育プログラムとしても注目が高まっています。


自閉スペクトラム症、ダウン症などの子どもたちを対象に高輪区民センター創作室で実施したアート教室。臨床美術士として、1カ月で高齢者だけでなく、障害者も含む100人ほどのセラピーを担当したことも。
セラピーとしての「臨床美術」に向き合う中で、描く人の個性を大切にするという考えは、平山さんの大きな指針になりました。言葉のないアートの世界では、障害は“個性”として捉えることができる――作者のアイデンティティーそのものであるアートを通して「その人がその時、そこに生きていた」という証を残したい、その人の存在を絵を鑑賞した人にも実感してほしい、と語ります。
そんな活動を続けるなか、亮さんが特別支援学校を卒業するタイミングで、同じ支援学校に通う子どもたちの卒業後の選択肢が少ないこと、そういった子どもたちに「居場所」を作りたいという思いが重なり、平山さんは障害がある子どもたちにアートを楽しむ場を提供する特定非営利活動法人 虹色の風を立ち上げます。
虹色の風では、障害者支援施設などでのアート教室をはじめ、アート展の企画などを精力的に行なっています。年間にプロデュースする展覧会は8本。港区と協働した「地域で共に生きる障害児・障害者アート展」や伊藤忠商事などの企業と連携した展覧会なども数多く手がけています。虹色の風のアート教室で制作された作品や障害者の支援施設から募集した作品から、平山さんが作品を組み合わせ、展覧会をコーディネートします。
病院でアート展をやろう!
これまで数々のアート展を企画してきた平山さん。2022年の冬、新たにスタートしたのが、東京都港区の済生会中央病院で開催した「虹のアート展」です。舞台は「病院」というユニークなこの企画。企画者は済生会中央病院の広報を担当する佐藤弘恵さんです。


これまで同院では、「誰一人取り残さない」まちづくりを目指すソーシャルインクルージョン活動の一環として、地域と積極的につながり、病気の人もそうでない人も足を運べる病院づくりを進めてきました。「これは何かつながるきっかけになるかも」と展覧会へ訪れた佐藤さん。そこに並ぶ作品の繊細さ、発想の豊かさに圧倒されたと話します。

虹のアート展のテーマは「季節」。病院の外に出ることができない人たちに、アートを通して「今は春なんだな」「クリスマスだな」といった季節を感じてもらいたいと企画が進められました。コロナ禍でのスタートということもあって、初開催の2022年冬は作品数8点と小規模開催だったものの、二度目となる2023年春は、20点の作品を展示。冬は赤、春は黄色と、季節ごとのカラーに沿った色彩豊かな作品が病院の一角に並びました。

作品の管理や設営は院内の患者サービス委員会の職員が担当。毎日絵に触れる中で『これ、いいね』『私はこれが好き』と職員間のコミュニケーションが生まれたそう。

「絵画を見るためだけに病院に足を運んでもらえるのもうれしいです」と佐藤さん。第3回は7月24日から開催。ぜひ足をお運びください。
「最後の晩餐」 作者:mifuyu(特定非営利活動法人たいらか)
のびのびとした絵ばかりでこちらの気持ちも大きくなり、とてもよいです。とても素敵で自由な絵でした。動きを感じます。
素敵な作品ばかりで、何故か涙が出ました。美しくて、力強くて、希望があって……なんて素晴らしいんでしょう! 愛を感じました。私も努力をしていきたいと思いました。
素敵な色づかい、優しい心づかいが感じられる絵に心がなごみました。ありがとう、お元気で。
54才で逝った知的障害の吾が子を思い、このように自由に表現することを幼いころに手助けしたらよかったのに……と感じました。


2023 summer BLUE
たった一枚の絵やささやかなやさしさでも、つながり寄り添うことで 誰かを幸せな気持ちにしたり、世界を平和にできるかもしれません。 全ての命を繋ぐ虹になり、皆さまの幸せと世界の平和を願います。 この小さなアート展が、皆様に豊かな時間と空間をお届けできますように!
会期
2023年 7月24日(月) ~
8月18日(金)※会期終了
場所
東京都済生会中央病院
北棟2F 健康情報コーナー
平日 ・・・ 9:00~17:00
第1・3土曜 ・・・ 9:00~12:00
お休み:日曜、祝日、第2・4土曜日
今回のテーマは「BLUE」。青には多くの種類があって、そんな青の色がもつ“深さ”だったり“広さ”だったりを、展覧会で表現できればいいと思っています。皆さんに楽しんでもらえるような青の世界を提供できるといいなと考えています。
特定非営利活動法人 虹色の風 平山淳子



