悩みをもつ人々の心に寄り添い、自殺をなくしたい
2017.07.10

24時間365日、ひたすら“話を聞く”ことで人々の心を癒す

一般社団法人日本いのちの電話連盟 いのちの電話
Let’s SINC
電話やメールで悩みをもつ人々から相談を受け、気持ちを聞いて寄り添うことで心を癒し、自殺を防止する
1971年10月1日午前0時。1本目の電話が鳴りました。「自殺予防」のための、電話相談「いのちの電話」がスタートした瞬間でした。24時間、365日の活動は46年目に入りました。その間、延べ1800人に及ぶ無償ボランティアが、休むことなく受話器を取り続けてきました。つながった電話は120万をはるかに超えます。理事長の立場となっても日々、一人一人の悩みにこたえている宍戸信次郎氏に話を聞きました。

― まず「いのちの電話」をご存知でない方のために、その成り立ちと歴史についてお聞かせください。

宍戸1953年、ロンドンで「自殺予防のための電話相談」が始まりました。それから16年後にキリスト者有志が、東京でも開設したいと準備に入り、1971年10月にドイツ人宣教師のルツ・ヘッドカンプ女史を中心として、スタートしました。

― その間途切れることなく、ずっとですか。

宍戸そうです。24時間休むことなく、です。それから全国49センターに広がりました。昔は固定電話だったので、遠距離通話は料金が大変だったせいもあります。今は全国で7000人のボランティアが相談を受けてくれています。

― 遠距離通話の負担は、それほど大きいものなのですか?

宍戸そうですね。相談自体は無料なのですが、通話料が月に数万円かかる(ほど長い時間相談する)方もいます。毎月10日には「自殺予防フリーダイヤル」の相談も受け付けていますし、2006年からはインターネット相談も始まりました。一方で「つながりづらい」という声はよく聞きます。

― 年間の相談件数は?

宍戸2015年の実績で27,161件。開局以来では126万599件です。これは東京だけの数字で、連盟全体を合わせると、1年でこのくらいの数字になります。ネット相談は全体で3065件でした。

今でも大切に保管されている開局当初の看板

― いのちの電話はボランティアが相談を受けているそうですね。

宍戸はい。いのちの電話は専門家によるカウンセリングとか医療相談ではありません。ボランティアが「隣にいる人」として、相談者の悩みに付き合うことを目指しています。専門家でないということが、ある意味強み。

― 強み、と言いますと?

宍戸専門家は指導とか指示することが仕事。でもボランティアは専門家ではないですから、ただただ聞くしかない。相談者の苦しい思いを聞く、という作業はボランティアが一番向いている。

― 悩みを聞く立場ですか。

宍戸すでにお医者さんにかかっていて、それでも完結しなくて、一人悩んだ末にかけて来る方も多い。夜中にお医者さんに電話するわけにもいかない。だからお医者さんと我々が、それぞれの持ち分で患者さんを支え合うのが大事です。

― 相談者の中にはうつ病の方も?

宍戸闘病が10数年に及んでいる方もおられます。特に状態が悪い時には「ずっとこのままなのではないか」と思いがち。そういう時に「うつ病には波があるもので、良くなった時もあったでしょ?」と思い出させることができれば手助けになる。

― 様々な悩みに対応するのは、大変ですね。

宍戸かけて来られる方には傷つきやすい方もいらっしゃるし、言葉がなかなか出てこない方もいる。そうした方々の話をちゃんと聞くとなると、それなりの訓練が必要になります。

現在使用されている電話。電話相談は開局当初から45年以上、途切れることなく続いている

― 相談員になるための、応募資格はあるのですか?

宍戸年齢は22歳から65歳まで。70歳で原則定年ですが、その後2年まで延長可能で活動していただいています。

― 研修があるそうですね。

宍戸週1回、午後7時から2時間、5週から6週をワンクールで1年半かかります。各課程で3回休んでしまうと次に進めません。もう一度最初から、ということになります。

― 時間を作るのは誰もが大変ですが、講習はやはり必要ですか?

宍戸そうですね。精神疾患などの基礎知識がないと、相談を受けられないケースもありますから。以前、娘さんが人格障害特有の問題行動で困っているお父さんから電話がありました。この方の最初の言葉が「人格障害ってご存知ですか?」でした。これで「知りません」でしたら話は終わりです。行政や医療機関にも相談してすでに断られて、辛い気持ちを言葉に出せない方が多い。こちらは相手の心に寄り添いジックリと話をお聴きします。何の対策は出せなくても、ご本人の気持ちは楽になる。

― 追い込まれている方が多いんですね。

宍戸以前、つっけんどんで、攻撃的な感じの相談者がいました。お子さんに問題があったようです。話しているうちに「本当に大変なんだろうね」と言ったら、怒りがスーッと収まり、口調がガラッと変わった。「寄り添ってくれている」と実感した時、人間は少し楽になるんです。

相談者に寄り添うことを大切に宍戸さんは今も電話を受けている

― 相談員は大変な仕事ですね。

宍戸人の話を聞くなんて簡単、なんて人もいますが(笑)。皆さん、意外と自分を分かっていない。自分を知り、自分が人と接する時にどういう傾向にあるか。それが分かっていないと、制御された状態を保てなくなる。自分がどういう精神状態にあるか、把握していることが大事ですね。同じ意見の人とは限らないので、どうしても納得できず、つい自分の意見を言ってしまうこともある。

― 聞き手に徹するというのは大変です。

宍戸話の内容によっては、聞くことは聞くとして、同意はできないケースもある。

― 相手の言葉をリピートすることも、傾聴のひとつだと聞いたことがありますが。

宍戸トレーニングの中で、そういうこともします。言われた言葉をそのまま返すことは、相手の言うことを聞いているんだよ、とメッセージを送る意味で極めて大事なことです。

― 「眠れないんです」と言われたら「そうなんですか、眠れないんですね」と返すとか。

宍戸そういう方は夜中にかけて来る方に多いですね。すでに「もう出せない」と言われるほどのお薬をもらっているのに、夜中になっても寝られないとか。

― 相談できる方はいいですが、なかなか電話がつながらない現実もあるようですね。

宍戸だから一旦つながると、なかなか切れない。それでつながりづらくなる、ということはありますね。

穏やかな笑顔を見せてくれる宍戸さん。その人柄は、電話の向こう側にも伝わっているのかもしれない

― 15、6年前と今と、大きく違うことはありますか?

宍戸若い人は電話を使わなくなっていますので2006年からメール相談を立ち上げました。電話相談は就活の時期に何百社も落ちて自分が否定されている気がする、という電話はありますが、全体から見ると少ないです。

― メールは誤字脱字で違う意味になることも。

宍戸複数の相談員が受信内容と送信内容を確認してから返信しています。電話相談では、録音を問題視した報道があり、一時やめていましたが、今は訓練用に使うために限り再開しています。かけてこられた方の相談をよりよく聴くために有効だと考えています。

― 相談員は今後増えますか?

宍戸現実には応募が減り40人の枠に30人程度の応募がここ数年続いています。週に1回、午後7時に来ること自体が難しい世の中です。

― 相談員は得るものも大きい気がします。

宍戸実は私は緩和ケア病棟で「生きたいけど生きられない人々」と接しています。いのちの電話では「生きられるのに生きたくない人々」と話しています。命とどう向き合うのか。活動を通して、世の中の善意を育てていけばいい。それは必ず、自分に帰って来るのです。この活動を続けていくと、びっくりすることがたくさんあります。自分の知らないことが、世の中でたくさん起こっている。それが、相談者の口から語られるんです。その経験のお蔭で、大きく成長できるんです。

(聞き手=小川 朗<ジャーナリスト>)

元気づけたいあの人へ、おすすめの作品
がんばらない
涙が出るほどいい話
夜と霧-ドイツ強制収容所の体験記録

新着記事

ソーシャルインクルージョン、最前線