日本を訪れる外国人へ適切な医療を提供するために
2025.03.28

異文化交流会を通して
“国際診療支援チーム”が進める外国人診療支援

大阪 済生会千里病院
Let’s SINC
増え続ける外国人患者に適切な医療サービスを届けるために、多職種チームが院内の支援体制を整える

増加し続ける外国人患者を取り残さないために

例えば、みなさんが外国で体調を崩してしまい医療機関へ行かなくてはならなくなったとき、「外国語で症状を正確に伝えられるだろうか」「誤った診断を受けないだろうか」「費用はどのくらいかかるのだろうか」など、不安な気持ちになるのではないでしょうか。日本を訪れる外国人も同じように、言葉や文化に違いのある日本で、医療サービスを受けることに不安を抱いているかもしれません。

大阪府済生会千里病院では、そういった外国人患者を取り残さないために、2023年、当時の総合外来・瀬古里香師長と総合外来看護師数名を中心に、外国人患者を受け入れるための体制づくりを行なう“国際診療支援チーム”を設立しました。

観光庁や出入国在留管理庁の統計によると、観光などで日本に滞在する外国人は増加傾向で、宿泊数は東京に続き大阪府が第2位(観光庁「宿泊旅行統計調査2023年」)、在留外国人数は第3位(出入国在留管理庁「令和5年末現在における在留外国人数について」)であり、日本国内のどの医療機関でも外国人患者が受診する可能性があると考えられています。

国際診療支援チームはこれまでに、診療申込書や問診票の多言語化、遠隔医療通訳・翻訳タブレットの導入、多言語対応スタッフリストや外国人患者来院フローの作成、各国の特徴をまとめた資料の配信など受け入れ体制の整備、異文化交流会の開催など、日本語を話すことのできない人でも、適切な医療サービスを受けられるよう支援体制の整備を進めてきました。

チームは国際支援経験のある医師、日本国際看護師養成研修を修了した看護師、看護管理者、主任看護師、事務員から選出し計11人(医師2人、看護師7人、事務部2人)で構成・活動する

実践形式で本場の英語を学ぶ 今後は他言語での実施も

国際診療支援チームが行なうさまざまな取り組みの中でも、「異文化交流会」はチームメンバーである医師の提案により2023年12月に始まり、これまで4回開催しています。目的は英語をメインとした院内での外国人対応の学習で、外部から外国人を招き、都度シチュエーションを設定し、受け付けから診察までを実践形式で実施。実践後は、その日のフィードバックや情報交換などで交流をしています。以前から連携のある近隣大学に交流会の趣旨を説明し、イギリス人の留学生を紹介してもらっています。

交流会では受診者の年齢や症状を設定して実践形式で診察を行なう

2024年9月に行なわれた交流会では「50歳女性、胸部痛を訴えて来院」という設定のもと、研修医が翻訳機を使用せずに診察に挑戦。協力した留学生から「英語が上手」と褒められる一幕もありました。

チームメンバーの髙橋知子主任看護師は「交流会は外国人と身近に接する機会が持てること、英語や他国に関する疑問を直接確認できることが良い点。これを機に、海外のことや国際支援に興味を持ってくれる職員が増えることを期待したい」と話します。現在は英語での開催ですが、今後は他言語での開催も検討しています。

交流会後にはその日の振り返りや情報交換を実施

AI翻訳、多言語スタッフ 院内整備を進める

チーム設立前は、通訳が必要な際は近隣団体の通訳のボランティアに同行を依頼していましたが、チーム発足と外国人患者の受診増加に伴い、AI翻訳機、遠隔医療通訳・翻訳タブレットを導入しました。救急受付と医療相談窓口にそれぞれ1台ずつ配置し、日本語対応が困難な患者さんの問診や診察に使用し、入院時には病棟スタッフに貸し出すなど、日常のコミュニケーションに活用しています。

また、外国人患者が来院すると外国人患者来院フローに沿って、多言語対応スタッフに連絡が入り通訳に同行するサポート体制も整えました。現在、多言語対応スタッフは14人で7カ国語への対応が可能になっています。

AI通訳機(左)と遠隔医療通訳・翻訳タブレット。タブレットはビデオ通訳も可能で主に診察時に使用

 

外国人患者対応フローは入院・外来のそれぞれ平日・休日4パターンを作成し院内で共有・運用

 

今後はベトナムから研修医の受け入れも検討

2024年8月に定期受診のため来院していた外国人患者にサポートについて尋ねると、「初診時には言葉の壁があり不安でしたが、(国際診療支援チームが整備した)サポートのおかげで、今では不安も解消されました。予約変更時にはメールで対応してもらえたことも、文面でのやりとりで焦らずに要望を伝えることができ、とても助かりました。」との感想が。

「今後は、引き続き院内整備を行ない外国人患者の受け入れ体制を強化すること、また、国際診療支援に関わる職員の教育や言語スキルアップにも貢献したい」と語る国際診療支援チーム。院内での外国人支援体制が整えば、地域に住む外国人を対象とした健康相談の実施などアウトリーチにも力を入れていく予定です。将来的には、済生会事業の1つであるベトナム・ダナンがん病院との連携に参画し、外国人の研修医の受け入れも検討中。今後も、地域の外国人に安心な医療サービスを届けていきます。

(機関誌「済生」2025年1月号 「交差点」より)