精神疾患をもつ人が安心して暮らせる社会にしたい
2021.02.19

精神疾患は“見えない障害” 地域で支えることが大切

埼玉 なでしこメンタルクリニック
Let’s SINC
精神疾患を持つ人が、地域社会で生活しながら治療できる仕組みを整える

精神疾患の治療は地域で支える時代へ

精神疾患は、かつては特別な病気だとみなされていましたが、実際には誰でもかかる可能性のある身近な病気です。2004年、厚生労働省から「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が提示され、精神疾患に対しての治療が、入院医療中心から地域生活中心へとシフトチェンジしました。こうした流れを受けて、これまで入院していた人が退院し、通院しながら地域で生活するケースも増えてきました。
一方、精神疾患に対する偏見は依然として強く、必要な人に支援が行き渡らない、自ら支援を受けにくい、といった問題があります。精神疾患をもつ人を地域社会の一員として受け入れて支える体制づくりが求められています。また、近年は心に不調を抱える人が増え、より多様な症状が精神疾患として認められるようになってきたため、医療機関に軽症のうちから受診できることが重要です。
埼玉県鴻巣市にある「なでしこメンタルクリニック」では、そういったニーズに対応し、さまざまな取り組みを行なっています。

幅広い患者にアプローチする工夫

なでしこメンタルクリニックは、2018年に開業。「誰でも気軽に来られるように」と駅直結のビルにオープンしたこともあり、毎月約50人の新しい患者が訪れています。クリニックでは、こういった外来患者の治療以外にも、精神疾患をもつ人を社会で支えるための取り組みを数多く行なっています。

クリニックが入った、JR鴻巣駅直結のビル

例えば、精神疾患を持ちながらも支援を受けずにいる人などに対して、福祉職などが直接家庭訪問して支援する「アウトリーチ支援事業」。これは2018年から国の新たな政策として始まったもので、同クリニックは地元の鴻巣市を中心に支援活動をしています。具体的には、統合失調症、双極性障害、重症うつ病などで、家事ができなくなったり、外出できずひきこもり状態になったり、入退院を繰り返したりしている人々を対象に、相談などを通じて地域生活を送れるよう支援します。
また、治療を終えた人が社会にスムーズに復帰できるようにするための「リワークプログラム」も院内にて実施。さまざまなプログラムを通じて、自己理解を深めたり、働いたときに起こるであろう問題への対処法を学んだりしてもらい、社会復帰を目指します。

リワークプログラムでは、再発のリスクを抑え、スムーズに職場復帰できるよう支援する

これらの支援はいずれも、医師だけでなく、看護師・臨床心理士・精神保健福祉士などがチームを組んで行なっています。精神疾患をもつ人を治療するだけでなく、社会生活を支援するために、多職種による連携が必要なのです。

医師、精神保健福祉士、臨床心理士など多職種で構成されたチーム

医療機関だけでなく、社会全体で支える仕組みを

精神疾患をもつ人が安心して社会で暮らせるためには、医療機関側の工夫だけでなく、社会全体の理解が欠かせません。クリニックでは、地域の人々に精神疾患を知ってもらうため、毎年心理士などが地域の事業所に出向いてメンタルヘルスについての講話を行なっています。
「精神疾患は、身体的な障害が表出することもなく外見からは分かりにくいことから“見えない障害”といわれます。そのため誤解や偏見で見られることもあります」と同クリニックの白石弘巳院長(トップの写真)はいいます。
「今後は、社会全体の精神疾患に対する意識を変えていくことが大切で、精神疾患を生み出さない穏やかな社会、病気になってもあたりまえの生活が送れる温かい社会づくりが必要です」
一方で、精神科のある病院や病床数が減少していることや、高齢化に伴い合併症を持つ精神疾患患者が増加していることなど、まだまだ問題はたくさんあります。こういった課題に対応するためにも、病院同士の垣根を超え、地域全体で患者を支えていく仕組みを作っていく必要があります。

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