2026.09.18

日常の中で気軽に立ち寄れる健康拠点を目指して――
済生会高岡病院が行政・イオンモールと築く健康のまちづくり

富山 済生会高岡病院
超高齢社会を迎えた現代の日本において、医療は“病気になってから治療する”だけではなく、“病気そのものを予防する”ことも重要視されるようになっています。そこで今、大きな注目を集めているのが、日常生活の中で自然と予防医療に触れることができる「まちづくり」という視点です。富山県高岡市にある済生会高岡病院は、イオンモール高岡、高岡市役所と連携し、日常の場で健康意識の向上につながる取り組みを進めています。買い物ついでに気軽に受けられる健康チェックや、市民向けアプリを活用した健康づくりなど、三者それぞれの強みを融合させることで実現する「住む人が健康になるまちづくり」に迫ります。

地域へ飛び出す! 済生会高岡病院の「まちづくり」事業

済生会高岡病院は、人口約16万人、全国平均値29.1%を上回る高齢化率約33.8%の高岡医療圏(高岡市HP「住民基本台帳人口」/2024年10月時点)を支える中核病院の一つです。同院は平常の診療のほかにも、健やかな暮らしを長く続けられるよう健康づくりを支援し、地域の関係機関とも連携しながら、日々の生活に寄り添う取り組みを行なっています。あわせて、地域のさまざまな課題にも向き合い、「地域の暮らしそのものを支える医療」の提供を目指しています。

総務課・経営戦略室の塚本崇基さんは、同院が取り組む「まちづくり」事業について、次のように語ります。

高岡病院の総務課・経営戦略室の塚本さん

塚本さん:当院が注力している「まちづくり」では、住民の健康相談や健康指導などを幅広く実施しています。高岡市役所からの委託事業である「働く男性の運動教室」や、地域の商業施設との協力によって成り立つ「モールウォーキング」など、多角的なアプローチによって、住民の方が自然と健康づくりを意識するようになる「まち」を目指しています。

院外にも活動を広げるなかで、同院の考え方に共感し、パートナーシップを築いてきたのが 「イオンモール高岡」です。

済生会とイオンモールが締結した「持続可能なまちづくり協定」

2019年に済生会とイオンモール株式会社の間で締結された「未来に向けた持続可能なまちづくり協定」。本協定は、健康づくり・生きがいづくりの推進や、子ども、高齢者、障害者等を含めた地域住民の交流促進など、関係者が連携して地域の課題を解決し、先進的なまちづくりを推進することを目的としています。

 

イオンモール株式会社の岩本副社長(左)と済生会の炭谷理事長(右)/2019年5月の協定締結時

しかしながら、同協定が締結される以前から、高岡病院とイオンモール高岡は連携体制を構築していました。病院からわずか200メートルの距離に位置する両者の協力関係は、約20年にもわたります。

日常に健康づくりを溶け込ませる多彩な施策

両施設が協働する「まちづくり」の具体的な施策として、日常のライフサイクルの中に自然と健康づくりの視点を溶け込ませる多彩な活動が展開されています。

器具の付近には使用方法や性別・年齢階級別の平均値が記されており、自身の数値と比較するなどして健康づくりに役立てることもできる

取り組み① ヘルスチャレンジステーション:
2026年4月に新設された、イオンモール高岡2階のインフォメーション前の健康ブース。血圧・柔軟性・握力・体幹・筋力などを計測する5種の機器を備えています。休日に訪れるファミリー層がゲーム感覚で挑戦したり、日課の散歩ついでに立ち寄る高齢者が日々の数値をチェックしたりと、幅広い年代に利用されています。

2026年5月に実施されたモールウォーキングレッスン。当日は18人が参加した

取り組み② イオンモールウォーキング:
東館・西館を往復する約1キロメートルのウォーキングコース。不定期で「ウォーキングイベント」も実施され、理学療法士が、日常生活で取り入れやすい歩き方やストレッチなどをレクチャーします。天候や季節を問わず快適に歩けるため、健康意識の高いアクティブシニアを中心に参加され、イベント時には参加者同士の交流の場にもなっています。

糖尿病や腎臓機能など、全16種類の検査から気になるものを選択可能

取り組み③ ちょこっと検診:
モール内に設置された専用端末から、糖尿病やコレステロール、骨密度など16種類の健康チェックに関するサービスを選択できます。検査結果は後日、郵送で受け取ることができ、買い物など日常の暮らしの中で利用しやすい仕組みとなっています。

※検査項目や料金などの詳細はこちらから

取り組み④ まちかど保健室:
毎週金曜日午後2時から、常設のヘルスチャレンジステーションにて、済生会高岡病院の看護師や保健師も参加する健康相談の場を設けています。モールを利用する地域の方々に向けて、日々の体調や健康管理に関する相談を受け付けています。

2025年9月20日の健康相談会では102人が来場。川端院長、寺副院長をはじめ、関連する訪問看護ステーションの職員など計20人がスタッフとして参加した

取り組み⑤ 健康相談会:
年2回、イオンモールの特設スペースで開催される健康相談・健康チェックのイベント。生活習慣の見直しや健康管理に関する相談を受け付け、来場者に情報提供を行ないます。2025年9月の健康相談会では、川端院長、寺崎副院長もスタッフとして参加しました。

「まちの健康」を支える、それぞれの思い

実際に高岡病院の担当者・理学療法士が出向いて、イオンモール担当者と器具の設置場所などを相談

これらの取り組みは、病院が培ってきた医学的な知見と、イオンモール高岡が持つ日常に身近な場としての機能や、多くの方が訪れる環境という、それぞれの強みが相乗効果を生み出していることが特徴です。

ヘルスチャレンジステーション、ウォーキングコースの監修を担った同院のリハビリテーション療法部 理学療法科 科長の中井かおりさんと、イオンモール高岡の営業担当・中村ほのかさんは、それぞれの視点から「健康づくり」への思いを語ります。

高岡病院・理学療法士の中井さん

中井さん:世の中にはフレイル予防や転倒予防を啓発する動画や情報は数多くありますが、住民の皆さんが「実際に自分の身体が今どういう状態なのか」を気軽にチェックできる場所は、意外と身近にありません。そこで、お買い物の途中に気軽に立ち寄れる健康拠点を作るお話を、イオンモール高岡さんからいただいたのですが、病院内とモールの中では環境が異なるため、1人でも計測しやすい機器の選定や動線設計などの配慮ができるよう、検討を重ねました。また、インフォメーションカウンター前に設置することで、体調変化があった場合にもスタッフが気づきやすい配置としています。

イオンモール高岡・営業担当の中村さん

日常の生活インフラとして場所を提供するイオンモールにとっても、この連携は施設に新たな価値をもたらしているといいます。

中村さん:イオンモール高岡としても、まちの健康づくりには注力しており、以前からの関係も兼ねて済生会高岡病院さんに協力を依頼しました。本取り組みを実施することで、商業施設の中に「健康」という新しい価値が生まれて、お客さまに繰り返し足を運んでいただくきっかけや、満足度の向上に繋がっています。イベント時に実施したアンケートでは「買い物ついでに専門の方からお話を聞けるのはうれしい」などの声も寄せられています。

行政との仕組みで「健康づくり」を後押し

一方で高岡病院と高岡市役所の間でも、地域社会の健康増進に向けた連携施策が推進されています。同院と市が2018年10月1日に締結した「包括連携に関する協定」は、子育て支援や健康づくり、介護・保健福祉に関する施策の推進を目的としています。

その代表的な事業が、市の委託事業として済生会高岡病院で実施している「働く男性の運動教室」です。車社会による運動不足の解消や現役世代の生活習慣病リスク対策として実施されていた健康イベントで、医師や理学療法士による指導に加え、参加者が記入した数日間の食事記録を病院の管理栄養士が個別に確認。具体的な食生活の改善アドバイスをフィードバックするプログラムを令和2年から令和7年まで行なってきました。

こうした病院と行政による連携に、イオンモールが加わった「三者協働」の枠組みは、行政の視点からも非常に大きな意義を持っています。

従来の行政主導の健康イベントでは、参加者が健康意識の高い層に偏りやすいという指摘がありました。多くの人が日常的に利用するショッピングモールを拠点とすることで、これまで接点を持ちにくかった層を含む幅広い世代に、健康に関する情報提供や相談の機会を届けられるようになること、また、買い物の合間に立ち寄れる場所で、生活習慣や体の状態を振り返るきっかけとなり、必要に応じて医療機関への相談につながることが期待されています。

また、この三者協働の取り組みをデジタル面から後押ししているのが、健康づくりのために導入された「TAKAOKAアプリ」です。導入の背景について、高岡市役所の担当者は次のように語ります。

高岡市役所の担当者:令和4年度に実施した「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」の結果から、次のような課題が明らかになりました。

・核家族化による多世代交流の減少
・高齢者の孤立や地域とのつながりの希薄化
・閉じこもりによる活動量の低下
・高齢者に必要な情報が届きにくいこと

これらの課題を解決するための仕組みについて検討を重ね、

(1)健康づくり・介護予防の推進
(2)生きがいづくり
(3)デジタル機器の利用促進
(4)高齢者への情報発信と 高齢者同士の情報共有

の4点を目的に、新たにデジタルを活用した高齢者向けアプリを導入してはどうかと考えました。

さらに、アプリの具体的な役割やイオンモール高岡・済生会高岡病院との関わりについて以下のように述べます。

高岡市役所の担当者:アプリを利用することで、高齢者が自分の健康に関心を持ち、通いの場や地域イベントの情報を手軽に入手できます。また、ポイントなどのインセンティブを設けることで、定期的な運動や人との交流を促し、健康づくりや介護予防、生きがいづくりにつなげることができます。アプリを活用することで、高齢者が楽しみながら健康づくりに取り組み、地域とのつながりを深め、住み慣れた地域でいきいきと暮らし続けられることを目指します。

TAKAOKAアプリには、健康管理機能 「けんこうマイレージ」を搭載しています。このアプリでは、歩数記録、健康チェックのほか、健康イベントへの参加や施設の利用に応じてポイントを貯めることができます。

例えば、済生会高岡病院が実施されている「まちかど保健室」や、イオンモールで開催される 「イオンモールウォーキング」 に参加した際、会場に設置された専用の二次元コードを、けんこうマイレージのスキャン機能で読み取ると、健康管理ポイントが 10 ポイント付与されます。

このように、健康づくりへの取り組みをポイントとして「見える化」することで、楽しみながら継続的に健康活動へ参加する仕組みづくりにつながると考えます。

TAKAOKAアプリの操作画面

日常の買い物から始まる、「健康のまちづくり」

本取り組みでは、済生会高岡病院の医療・健康に関する知見、イオンモール高岡の地域の生活拠点としての機能、高岡市役所のアプリを使った行政施策といったそれぞれの強みを生かしながら、買い物など日常の中で地域住民が自分の健康を考える「機会づくり」を進めています。市民が「日々の買い物」というあたりまえの日常生活の中で、自ずと予防医療や健康増進に触れられる「まちづくり」を目指しています。

同院院長の川端雅彦さんは、「日常の場で健康について考える機会をつくる意義」を語ります。

済生会高岡病院の川端雅彦院長

川端院長:
富山県では、一般的に健康にいいとされる魚介類の摂取量や平均 BMI などの指標が比較的良好とされる一方で、特定健診等の指標ではメタボリックシンドロームや糖代謝異常の割合が高いと報告され、「とやまパラドックス」という逆説的な概念が提唱されています。車移動が中心で運動量が不足しやすい生活環境も踏まえると、受診を促す呼びかけだけでは届きにくい層がいると感じています。
そこで、イオンモールという日常的な買い物の場で、健康情報に触れたり相談できる機会を増やす取り組みが必要だと考えました。

病院に足を運ぶ機会が少ない方にも、日常の場から健康づくりのきっかけを届ける。

この取り組みの背景には、高齢化や運動不足といった地域の課題に向き合いながら、「誰一人取り残さない社会」の実現を目指す思いがあります。

「住むだけで自然と健康になれるまち」を目指す取り組みは、これからも地域に寄り添いながら続いていきます。