植物と触れ合う機会を通じて人々の心身を癒やしたい
2021.06.18

病院や施設で暮らす人の生活を植物で彩る「園芸療法」

山形 特養山静寿
Let’s SINC
園芸を通じて、施設で暮らす人々の心に癒やしと生きる活力をもたらす

自然の効果を治療に活かす

自然との触れ合いが人間の自律神経や免疫によい影響を与えるということが、多くの研究で明らかになっています。花を見て四季の移ろいを感じるなど、「生きている」「日々を過ごしている」という実感のためにも、自然と接することは重要です。
特に、入院している人や福祉施設で暮らす人など、生活が単調になりがちな人にとって、植物と触れ合うことは程よい刺激になります。この効果を治療に活かしているのが、植物を育てることを通じて心身の健康の向上をはかる「園芸療法」です。1990年初頭に日本に紹介され、リハビリの現場をはじめ、さまざまな分野で活用されています。日本園芸療法学会が認定する「園芸療法士」という資格もあり、病院や福祉施設のほか、学校や高齢者向けの住宅・団地、公園といった現場で、園芸療法士が活躍しています。

五感を通じて「生」の喜びを感じられる園芸活動

山形市にある特別養護老人ホーム「山静寿」でも、園芸療法が取り入れられています。
同園の園芸療法士である伊藤美由紀さんによると、園芸療法のメリットは「生」を感じられることだといいます。
「植物は見るだけではなく、花や葉や土の匂い、鳥の鳴き声や葉擦れの音で四季を感じ取ることができます。また、触って植物の大きさや形などを確かめたり、調理をしておいしく味わったりもできますよね。視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚の五感を使って『生』を感じられるのが、植物の魅力だと感じています」

作業療法士・園芸療法士の伊藤美由紀さん

同施設が開所したのは、2011年4月のこと。当初は、施設内に花や木が少なく、入所者さんの生活は寝て、起きて、食事を摂るという単調なものでした。
それまで作業療法士として入所者さんのリハビリをサポートしてきた伊藤さんですが、リハビリの方法の一つに園芸があることに興味を持ち、園芸がどのようにリハビリに利用されるのか、詳しく知りたいと考えました。
そこで、既に園芸療法を取り入れていた特別養護老人ホーム「ながまち荘」(山形市)で園芸療法士の活動を学び、その後資格も取得。入所者さんに、どのようなアプローチをすればよいかを検討しました。

植物を育てることで、生きる意欲へとつなぐ

入所者さんの中には、かつては農家として畑仕事に精を出していた人もいました。そうした人々は特に園芸に対して関心を抱いているようで、作業中も「若い頃はこんなものを育てていたんだよ」と、昔話に花が咲くこともしばしば。伊藤さんも、植物の種の植え方や肥料をやるタイミングなど、入所者さんに質問を投げかけていきます。
何気ない言葉のやり取りに聞こえますが、これは認知症の人へのアプローチに用いられる心理療法の一つで「回想法」といわれるものです。自分の過去を話すことで心が安らぎ、認知機能の改善も期待できるといわれています。
「園芸活動を取り入れることで、入所者さんも『今年は○○を植えたい』『▲▲を育てて食べたい』と、生きる意欲につながる発言も増えてきました。植物は『生』を直接感じられる身近な存在です。日々の成長を楽しみに毎日の水遣りをする活動が、入居者さんの生活の一部になってきています」(伊藤さん)

植物を育てるうえで失敗することもあるが、学びのよい機会になるという

「自然と触れ合う」という人間にとって大切な体験を提供し、同時に心身を癒やす園芸療法。病気や障害の有無にかかわらず、誰もが参加できるのも魅力です。病院や施設でも、自宅でも、小さな鉢植えを1つ置くところから始めてもよいかもしれません。

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