オストメイトが安心して暮らせる社会をつくりたい
2021.08.12

「誰にも相談できない」オストメイトの日常の悩みに応える

鹿児島 済生会川内病院
Let’s SINC
オストメイトへの日常的な支援を行なうとともに、ストーマケアの知識や技術を地域に広める

今までと違う暮らしを余儀なくされるオストメイト

退院後、これまでと同じ日常生活を送れるのか、不安に感じる患者さんは少なくありません。
たとえば、さまざまな病気や事故が原因で、腹部に排泄のためのストーマを造設したオストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)は、ストーマ装具を使用した排泄管理や排泄のタイミングをコントロールできないなど、今までと異なる生活様式に戸惑う場面が多々あるそうです。
また、羞恥心から、家族にさえ相談できずに悩みを一人で抱えてしまうことも。
そんな悩みに応えるオストメイト専用の相談窓口を設けている病院が、鹿児島県・薩摩川内市にある済生会川内病院です。

仕事や旅行の相談も! 地域の身近な相談窓口

同院では、日本オストメイト協会・川薩支部の要望を受けて、2011年4月にストーマ外来を開設。
地域で暮らすオストメイトの相談に、皮膚・排泄ケア認定看護師の神薗由佳さんと外科外来の看護師が応えています。

皮膚・排泄ケア認定看護師の神薗由佳さん

月4回のストーマ外来では、装具交換のほか、ケア方法や合併症予防・対処に加え、旅行の相談や就業に関しての悩みなど、社会生活にまつわる困りごとにも幅広く対応。電話や対面での相談には、可能な限り当日中に応えるなどスピーディーさも大事にしています。
また、気軽に相談してもらえるようHPで外来の存在を広くPR。こうした積極的な姿勢が評判を呼び、2020年度には延べ270件を超える相談が寄せられています。

患者さんからも「身近な相談窓口があるのは安心」「誰にでも分かってもらえることじゃないから、ここに来るとホッとする」「便漏れが心配で何年も外出しなかったけれど、ここできちんと診てもらえたから、また安心して外に出られる」といった感謝の声が集まっています。

正しいケアの知識・技術を広める研修会

ストーマ外来開設当初、業務は患者さんの術後ケアがメインでした。

しかし、装具交換に難しい手技が求められるストーマケアについて、患者さんの転院予定先から「正しいケア方法が分からないので教えてほしい」という依頼を受け、転院時に同行。装具交換などの経験が少なく、対応に苦慮する支援者がとても多いことを神薗さんは実感したそうです。

そこで、地域の医療・介護従事者にストーマケア・創傷管理・排泄管理を知ってもらいたいと研修会を企画。

研修では座学や実技を通じて知識や技術を伝えている

第1回目の研修会には、地域の看護師や介護福祉士など35人が出席し、全体の7割以上がストーマケア未経験または10例以下ということもあって、知識と技術を学びたいという意欲がひしひしと伝わったそう。
以来、地域のスキンケアのスキルの底上げを目的に、年15回程度の研修会を現在も継続しています。

この人なら任せて大丈夫、と言えるのがうれしい

もう一つ、神薗さんが研修会と同様に重要視しているのが、患者さんの退院前カンファレンス。
ケアマネジャーや訪問看護スタッフも参加するカンファレンスに積極的に参加し、ストーマや褥瘡ケアの状態、退院後に予測される問題などを丁寧に説明をします。
さらに、転院・在宅移行時には、ストーマ装具の交換手順やトラブル時の連絡先などを記した「情報提供書」を担当の看護スタッフに渡し、支援の参考にしてもらうようにしています。

こうした日々の取り組みを通じて、地域の連携は一層深まったと神薗さんは感じているそうです。

「地域の訪問看護ステーションや包括支援センターから当外来への電話相談の件数が確実に増えました。加えて患者さんの通院に訪問看護スタッフの方が同行されるようになり、直接ケア方法を指導する機会も増えたんです。地域との関係を深めることで私たちも支援者のことを知り、安心してケアを依頼できるようになったのも大きいですね。私自身も患者さんに『この人なら任せて大丈夫』と笑顔で言えるようになりました」

在宅スタッフの連携が今後の課題

オストメイトの在宅ケアを行うスタッフは、一人で判断しなければいけないことが多く、不安に感じることも少なくありません。
神薗さんは「在宅スタッフとの連携がもう少し簡単かつタイムリーに行なえるようになれば、在宅移行の壁は低くなるのでは」と話します。

「そのために必要なのは定期的な情報交換の場です。特にストーマケアは専門用語や特殊な装具等を使用するので、スムーズな意思疎通を図るためにも、まずは用語を正しく理解してもらうことが重要。それが適切なケアにつながります。ストーマ外来で行なっている電話相談でも、装具についてうまく説明ができないと、やりとりが難しいケースもあります。だからこそ学習の機会は大切です」

川内病院のストーマ外来は2021年で開設10年を迎えました。
オストメイトにとって、より暮らしやすい社会を作りたいーーそんな目標を掲げ、適切な装具選択やスキンケアができる介護者を地域に一人でも増やすために今日も活動を続けています。

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