障害のありなしにかかわらず働きやすい職場にしたい
2021.08.31

障害者チームが教えてくれた、誰もが働きやすい職場づくり

Let’s SINC

障害がある人もない人も互いの違いを認め、頼り合って働ける職場をつくる

就職はしたけれど……仕事が続かないのはなぜ?

2018年の障害者雇用促進法改正に伴い、2021年3月から民間企業においての障害者雇用率が2.3%に引き上げられ、従業員数43.5人に対して障害者を必ず1人以上雇用することが義務付けられています。
しかし、大きな課題になっているのが職場への定着率。一般企業に就職した障害者の定着率は発達障害をもつ人が約72%、知的障害は約68%、身体障害は約60%、精神障害は約50%と、特に精神障害者においては約半数が1年以内に退社するという統計※が出ています。

離職理由は、職場の人間関係や仕事内容が合わない、障害に対する職場の配慮が不十分であったなどさまざまですが、課題解決に至る明確な処方箋はなく、当事者も企業も頭を悩ませているのが実情です。

※出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:障害者の就業状況等に関する調査研究(2017)より

障害者だけでチームを構成!?

済生会山口総合病院で人事を担当する遠山純さんも、雇用した障害者が職場に定着しづらいことに悩んでいた一人。
しかし、同じ部署の中で障害をもつスタッフと他のスタッフが関わる様子を見ていて、「これは障害をもっているスタッフだけの問題ではなく、双方のコミュニケーションに課題があるのではないか」と気づいたといいます。

もしそうであれば、同じハンディをもった仲間たちでチームをつくり、仕事のやり取りを通してスタッフとの信頼関係を築くことが、職場の定着につながるかもしれない――。
そこで、障害者スタッフを特定の部署に配属する従来の方法を見直し、障害者スタッフのみで構成するチーム「人事課プラスワン」が結成されました。

チームメンバーは、人事課に勤務する7人の障害者スタッフ(身体障害の2人の指導者と軽~重度の知的障害4人、精神障害1人)。
作業が難しい身体障害の職員2人が知的障害の職員を指導・管理し、互いのハンディを補い合いながら、検体・薬剤の運搬、貸出用車いすの点検・整理、院内の消毒など、各部署から依頼される幅広い業務に、チーム一丸で取り組んでいます。

人事課の親睦を図る場として年に一度開催する萩市社会福祉協議会主催の風船バレー大会。人事課プラスワンのメンバーで撮影(遠山さんは2列目中央男性)
人事課の親睦を図る場として年に一度開催する萩市社会福祉協議会主催の風船バレー大会。
人事課プラスワンのメンバーで撮影(遠山さんは2列目中央男性)

マスク5000枚がチームの転機に

人事課プラスワン新設当初は、各部署からの仕事依頼の大半が「お試し」でした。
チームの転機となったのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大。院内が深刻なマスク不足に陥っていたとき、院長から人事課プラスワンに、キッチンペーパーを材料にした簡易マスクを作ってくれないかと依頼があったのです。それを受けたメンバーたちは病院の他のスタッフとも協力し、約3カ月をかけて5000枚以上のマスクを作成。そのマスクは院内スタッフの利用分だけでなく、マスクの入手が難しい来院者への配布用としても活用することができました。

この活躍は院内でも有名に。これまでの仕事の積み重ねもあって、各部署との信頼関係ができ始め、業務依頼が増えていきました。
現在も感染対策として、院内の手すりや車いすなど、人が触れる場所を消毒して回る「ウイルスバスター」と銘打った作業も実施。病院スタッフや来院者が安心して過ごせる環境づくりに貢献しています。

プラスワン謹製のてづくりマスクは、医療行為に使うマスクの節約にも役立った
プラスワン謹製のてづくりマスクは、医療行為に使うマスクの節約にも役立った

「お弁当作り」が自立への第一歩

遠山さんがもう一つ大切にしたいと考えていることは、プラスワンメンバーの自立です。

「仕事の面だけなく、生活面における自立も人事課プラスワンの大きな使命です。将来、家族から自立するときのために、生活の中でも自分でできる範囲を広げてほしい」

そこで身体障害をもつ指導スタッフが企画したのが、生活力の向上を目指した題して『自分でお弁当を作ろう作戦』。

「メンバーたちが早起きして作ってきた弁当は、どう見ても誰かの手を借りたような見事な出来映えでしたが(笑)、最初はそれでもいいんです。将来自分自身がどうやって生きていくかを意識するきっかけになれば」と遠山さんは話します。

メンバーがそれぞれ用意したはじめての自作弁当
メンバーがそれぞれ用意したはじめての自作弁当

目指すは“普通に働ける職場”

「人事課プラスワン」の試みは、障害者スタッフが病院のすべての人との関わりの中で特別扱いをされず、“普通に働ける職場”となることを目指した取り組みでもあります。

「特別扱いをする方もされる方も、どちらもストレスを感じるのは間違いありません。お互いが気を配り、頼り合える関係性をつくることが大切ではないかと考えています」

障害者スタッフに仕事を「与える」のではなく、信頼して仕事を「お願い」し、また、障害者スタッフは自分に難しい仕事であれば、他のスタッフにサポートを「お願い」する。
障害の有無にかかわらず、違いを認め、頼り合って働く。多様性を尊重する「働き方」は、これからの社会のスタンダードになりそうです。