住み慣れた地で暮らし続ける。川俣で実現した「まちづくり」
超高齢化でさまざまな影響が生じる「2025年問題」
「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」。国民の医療や介護の需要がより一層増加することが見込まれています。そのため厚生労働省では、地域包括ケアシステムの構築を推進しています。地域包括ケアシステムとは、高齢者が介護が必要な状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供するシステムです。
人口約12,000人が生活する福島県川俣町では、高齢化率が全国平均の28.1%を大きく上回る40%に達し、年間出生数が50人台と2011年以前の半分以下に激減しました。少子高齢化や過疎化がもたらす、老老介護や核家族世帯増加などの問題に直面し、川俣町では、医療と福祉の一体化のため、2012年から独自の地域包括ケアシステムを構築。川俣町や川俣町社会福祉協議会と、行政をはじめとした地域のさまざまな団体連携し、横断的な取り組みを通じて高齢者の生活を支えています。
課題共有で生まれる新たな取り組み
済生会川俣地域ケアセンターは、町唯一の病院である済生会川俣病院を中心に、介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)、養護老人ホーム、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所など、6施設5事業所を運営しています。
地域課題を共有するため、近隣の開業医や薬局など、地域の医療と福祉に携わる機関が意見交換を行なう地域連携懇話会や、町や社会福祉協議会などに済生会の無料低額診療事業などを紹介する生活支援委員会総会を実施しています。
コミュニケーションを密にとることで、新しい取り組みが生まれることもあるそう。 その一つが、核家族化が進む中で高齢者と子どもの交流を目的に開催する「おたのしみ食堂」。
川俣町や社会福祉協議会の協力を得て、独居の高齢者とひとり親家庭の子どもなどが集まり、昔の遊びを一緒に楽しんだり、行事食を味わったりしています。
訪れる子どもにとっては、地域に住む高齢者から川俣の昔話を聞く機会にもなり、地域に愛着を持つきっかけにもなっています。
また、東日本大震災の影響で川俣町に避難した住民の健康への不安をサポートするために始めたのが「なでしこ健康講座」。年に2回、避難者などに健康に暮らす知恵を伝えるとともに直接悩みを聞く機会を設けています。
住み慣れた土地で生活を続けられる支援を
川俣町で地域包括ケアシステムがうまく実現できた理由の一つに、同センター長で川俣病院の院長を務める佐久間博史先生は「町の規模」を挙げます。
「川俣町は人口も面積も自治体の規模としてちょうどよく、地域のニーズに合致した多様なサービスを連携して提供できるため、地域包括ケアシステムの実践に適しているといえます。川俣病院を中心に、関係機関が同じ方向を向いて一致団結し、地域の医療ニーズに応えていきやすかったと思います」
開所以来、順風満帆に進んでいるようにみえる同センター。しかし、決して課題がないわけではありません。その一つが退院患者さんの受け皿の不足です。
「地域包括ケアシステムの鍵である在宅ケアをサポートする人材が不足しています。老健や特養だけでは対応しきれないため、済生会川俣地域ケアセンター内の現場担当が集まり『なでしこ連絡会』で情報を共有。ケアセンターだけで調整しきれない場合は、町内や福島市内の福祉施設を紹介するケースもあります」
高齢化率が40%を超える川俣町では、老老介護も大きな課題です。
「特に寝たきりの人や、認知症・精神疾患を抱える人をずっと介護し続けると、家族も心身両面で疲れていきます。家族の支援をおろそかにしてしまうと、在宅医療・介護が成り立たなくなってしまいます」
そこで、同センターが力を入れているのが、家族の負担を軽減させるために一時的に患者さんに入院してもらう「レスパイト入院」。
レスパイトとは、「一時休止」「休息」という意味で、入院中は家族が介護の手を休めて息抜きできる時間をつくることができます。
そのほか、介護人材の現場力の底上げやモチベーションの向上を図るため、各現場の取り組みの研究発表を行なう「川俣地域ケアセンター学会」や、町と協力した介護初任者研修も実施。
「住み慣れたまちで安心して暮らしてもらうためには、福祉施設や制度が整うだけでは不十分。自己研鑽に励み、地域住民のために知識と技術を使う、一人ひとりの姿勢が財産につながる」と佐久間先生は語ります。
地域の課題に目を配り、町全体で高齢者の生活を支援できる仕組みをつくり充実させていくことが、地域包括ケアシステムを構築していくポイントとなるのではないでしょうか。