地域連携のしくみをつくり高齢障害者を支えたい
2021.12.07

高齢障害者を地域で支援するために生まれた一冊のノート

鳥取 境港市在宅介護支援センター/済生会居宅介護支援事業所
Let’s SINC
医療や福祉、地域が連携し、高齢障害者の暮らしを統合的に支援する

高齢障害者に立ちはだかる「65歳の壁」問題

かつて障害をもつ人は、原因疾患への対応が明らかにされていなかったことや医療ケアが発達していなかったことなどが原因で、短命といわれてきました。しかしながら、医療の飛躍的な進歩や障害福祉サービスの充実によって障害をもつ人の中にも、長寿を迎える人が増加しています

そんな中、課題となっているのが、「65歳の壁」と呼ばれる問題です。
障害福祉サービスにかかわる自立支援給付の対象者である障害者は、65歳を迎えると介護保険制度によって、介護保険サービスが優先的に適用されます。
条件はありますが、適用後も引き続き障害福祉サービスに相当する介護保険のサービスを受けることが可能です。しかし、障害福祉サービスと介護保険サービスの各事業所での連携や手続きなどの諸問題により、利用にあたっての課題が生じることも。

この問題を解消するために、鳥取県境港市では障害福祉サービス事業所や病院、介護施設といった関係機関や配食サービスなどの地域の支援者が連携し、本人がどのようなサービスを受けているか情報を共有することで、障害福祉と介護保険の統合的支援を行なっています。

※出典:厚生労働省:平成18年身体障害児・者実態結果より

障害をもつ人がその人らしく過ごすための「連携ノート」

境港市在宅介護支援センター/済生会居宅介護支援事業所にて、介護保険の相談などに対応する介護支援専門員(ケアマネジャー)の都田里恵さん。彼女も高齢障害者の介護問題に頭を悩ませていた一人です。

境港市在宅介護支援センター/済生会居宅介護支援事業所で介護支援専門員(ケアマネジャー)を務める都田里恵さん

「障害福祉サービスや介護保険サービスといったすべてのサービスを取りまとめる人がいませんでした。また、本人が希望を訴えることが難しいこともあり、統合支援がうまくできていませんでした」(都田さん)

そこで都田さんは、医師や介護福祉士、支援相談員といった多職種が集う、高齢障害者支援のための体制を構築することを発案。同時に、本人の意向や困りごとの共有を目指し、事業所ごとにつくっていた連絡帳を一冊に集約した「連携ノート」を導入しました。

ケアマネジャー・後見人・ヘルパー・障害福祉サービスの支援相談員といった障害福祉サービスにかかわる中心メンバーの担当者会議で、本人の意向と現状を把握し、緊急時の連絡体制や支援内容、発信方法を検討。その結果をケアマネジャーが介護保険サービス担当者会議でデイサービスや薬局と共有し、支援体制やそれぞれの役割を確認しました。

サービス担当者会議の中心メンバーで情報共有

都田さんは、支援を受ける高齢障害者本人にも2つのお願いをしました。

1つは、周囲の援助や配慮が必要なことを知ってもらうための「ヘルプマーク」をカバンなどわかりやすい場所につけてもらうこと。
もう1つは、本人の状態や緊急連絡先、かかりつけの医療機関、介護サービスの情報を網羅した「連携ノート」を肌身離さず持ち歩いてもらうことです。

普段から持ち歩くヘルプマークに連携ノートの所在を記載し、本人の身体の緊急時や困った時に対応できるよう、自宅玄関内にも緊急連絡先とともに連携ノートがあることを掲示。主治医や民生委員をはじめ、本人の安否確認を毎日してくれる近隣商店・配食サービスのスタッフにも連携ノートの説明を行ないました。

ノートを通じて広がった支援者同士の輪

すべての情報が一冊でわかる連携ノートによって部分的に見えていた本人の状態が、すべて把握できるように。
関係機関のチームワークも高まり、多職種による統合支援がスムーズに行なえるようになりました。

また、この取り組みを通じて「支援者同士の顔が見える関係」も生まれました。
「以前と比べて支援者同士のやりとりがより密になり、事業所や支援者に必要な情報が伝わるようになった」と都田さんは話します。

「本人の体調に関する問い合わせや本人の所在確認など、各施設から届く問い合わせはケアマネジャーが対応していましたが、連携ノートにより、本人が地域のどこで何をしているか、支援者全員がわかるようになりお互いに確認する負担が減りました。また、連携ノートによって、本人の欲しいものや普段の生活の中で不足しているものが障害サービスの作業所に伝わり、外出の際にご自身で選んで買ってもらえるようになりました。新しいズボンを買った方が『見て見て! 緑色のズボンを自分で買ったよ!』と喜んで話してくれたことが今でも強く印象に残っています」(都田さん)

就労継続支援B型事業所の農園で芋ほりの仕事。
外出予定を支援者全員が把握し、安否の不安を解消

「私たち、介護支援専門員(ケアマネジャー)だけでは本人の生活を支えられません。サービスは用意するだけでなく医療機関や地域の力を活かしたしくみづくりが、本人や家族の安心につながります。障害があっても高齢であっても、みんな地域の一員。地域のみんなでサポートする輪をつくり、広げていきたいです」と語る都田さん。

バラバラの情報を集めた連携ノートが支援者同士のネットワークとなったように、今後も増えつつある高齢障害者の「その人らしい暮らし」を支えるため、制度で補いきれない地域の課題を把握し、アイデアを出し合いながら地域の連携力を高めていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

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