磨いた「介護のスキル」を医療の現場で役立てたい
2021.12.21

医療施設で求められる笑顔を増やす「介護のチカラ」

福岡 済生会福岡総合病院
Let’s SINC
患者さんがより質の高い療養生活を過ごせるよう、入院中の生活面における支援を行なう

医療現場でも活躍する介護福祉士

日本では約181万人の登録者数がいる介護福祉士。主にホームヘルパーとしてや、介護老人保健施設などの介護施設で働いており、公益財団法人社会福祉振興・試験センターが行なった調査によると、介護福祉士のうち、医療関係に勤める人は全体の6.1%と低い割合です。

しかし患者の高齢化が進む近年、病院などの医療施設でも需要が高まっており、看護師と協働を進めることで、それぞれの専門性を高める効果もあるといいます。
今回は、済生会福岡総合病院(福岡市中央区)にて働く介護福祉士についてご紹介します。

※出典:公益財団法人社会福祉振興・試験センター:「令和2年度 社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士の『就労状況調査』(速報版)」(別添2)より
※出典:厚生労働省:「平成29年(2017)患者調査の概況」(図2、統計表1)より

それぞれの専門性を活かしたケアを提供

済生会福岡総合病院では、2013年から介護福祉士3人を一般病棟に配置。2021年現在、9人の介護福祉士が活躍しています。

同院が介護福祉士を導入した目的は二つ。一つは、入院患者さんの早期離床を促し、ADL(日常生活動作)の維持・向上、廃用症候群・合併症を予防することです。特に高齢者の場合、寝たきりに近い廃用症候群になってしまうと回復が非常に難しくなるといわれており、介護福祉士はそうした状態を避けるためのケアを行なってます。

もう一つの目的が、療養生活における支援の質の向上。介護福祉士が患者さんの入浴・トイレ介助など、入院生活のサポートを行ないます。
看護部の大嶋由紀さんは「ベッドサイドで介護福祉士と協働することで、看護師たちは『診療の補助』により一層集中できるようになりました。多忙な急性期の病棟で、看護師だけでは見過ごしてしまう身だしなみや、言葉の変化に介護福祉士が気づいてくれるため、より患者中心のケアができるようになりました」と語ります。

「急性期医療の現場で介護福祉士が実践するケアに、私たち看護師は日々刺激を受けています」と話す看護部の大嶋由紀さん

※ADL…“Activities of Daily Living”の略語で、移動や食事、更衣、排泄、入浴、整容など、主に日常生活を送るために最低限必要な動作のこと。

患者中心のケアとは?

整形外科病棟の介護福祉士・坂口由紀子さんは、普段から洗顔や爪切りなど入院中に患者さんが清潔に過ごせるよう「保清第一」を心がけています。

「生活リズムや身だしなみを自宅同様に整えることで、心も体もスッキリすれば、本人の生活意欲の向上にもつながりますし、何より喜ぶ顔が見られるのがうれしい」そう語る坂口さんは、爽やかな笑顔が印象的です。

「笑顔での対応を大切にしています。痛みやつらいことで気持ちが暗くなった患者さんに、少しでも明るい気持ちになってほしいのです」(坂口さん)

看護師と一緒に笑顔で「リハビリがんばりましょう!」と患者さんへ声をかける介護福祉士の坂口さん(左)

しかし、病院で働く介護福祉士には越えなければいけないハードルもあります。その一つが、病気に関する知識を学ぶこと。そしてリハビリの目標が、現状維持ではなく患者さんの回復に向けたADLの向上にあることです。

同院では、デイルームにて介護福祉士が認知症の患者さん向けの体操やレクリエーションを看護師と協力して実施しています。

「単調になりがちな患者さんたちの入院生活にリズムをつくるのはもちろん、患者さんも職員も笑顔になる活動にしたいと考えています。コロナ禍の現在は実施できていませんが、いつか再開したいです」(大嶋さん)

看護師と介護福祉士の協働が相乗効果を生む

2人の看護師が複数の患者さんを受け持つPNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)は、2009年に福井大学医学部附属病院が開発した看護方式で、同院でもこの方式を導入。今年度から新たに介護福祉士1人を加えた3人体制のチームが1病棟で結成され、現在試行中です。

介護福祉士と看護師が協働するPSNチーム

「新チームの創設にあたり、業務内容とマニュアルの見直しを行なったことで、排泄介助や清潔ケアなどを患者さんを待たせずに実施できるようになりました」と話す大嶋さん。

お互いに専門用語をわかりやすく伝える意識をしたことで両者の会話も自然と増え、よりコミュニケーションも深まったとのこと。今後も3人体制のPNSを全病棟に拡大できるよう進めていく予定です。

「今後も介護福祉士と支え合いながら患者さん中心の看護・介護を実践し、専門性を発揮することで、それぞれの役割拡大にもつなげていきたいです」と大嶋さんは話します。

患者さんの高齢化などの影響で、今後はますます医療の現場における「介護」の視点が必要になります。
介護のスペシャリストである介護福祉士がチーム医療の一員として、どの病院でも活躍する日もそう遠くはなさそうです。

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