コロナ禍でも地域とのつながりを深めたい
2022.04.15

離れていても地域をつなぐウィズコロナの子ども食堂

鳥取 老健はまかぜ
Let’s SINC
地域の課題をいち早く見出し、食品配布や個別相談への対応などコロナ禍でも継続してサポートする

コロナに負けない! 活動を続ける子ども食堂

ひとり親世帯や生活困窮世帯の子どもたちに温かい食事と団らんの空間を提供する「子ども食堂」。2012年に東京・大田区でその取り組みが始まり、コロナ禍以降もその数は増加しています。もともとは”子どもの居場所をつくる”という意味合いも強かった子ども食堂。人が集まれないコロナ禍こそ地域の絆や子どもたちとの関係性をつないでいくため、食品の無料配布や宅配など、工夫を凝らして活動を継続している子ども食堂が増えています。

きっかけは職員の「やってみたい!」

全国の済生会施設に先駆け、2017年にいち早く子ども食堂を開設したのが、鳥取県境港市にある介護老人保健施設はまかぜです。済生会初の子ども食堂の取り組みは、老健はまかぜの職員・友森千文さんの発案で始まりました。

「きっかけはひとり親世帯の知人でした。仕事で忙しい知人の子どもが休日も一人で食事をとっていると知り、孤食になりがちな子どもたちに賑やかで、温かく、かつ食事マナーを含めた礼節も伝えていく場所があったらなと思ったのが始まりです」と友森さんは話します。

初年度は境港市の学習支援事業と共催で運営。市の職員が地域の小学生を対象に宿題のお手伝いや授業のおさらいなどの学習支援を行ない、その後に、はまかぜの職員が子どもたちの食事を用意する、というスタイルで開催しました。翌年度からは、はまかぜの単独事業へ移行。学習支援を行なっていた時間に卓球やカラオケといった子どもたちが楽しめるレクリエーションを実施していました。

提供する献立は、はまかぜの管理栄養士が監修し、コミュニケーションしながら信頼関係を築くため、児童と職員が調理や盛り付け、配膳、後片付けまでを一緒に行ないます。クリスマス会や流しそうめんなどの季節に応じたイベントも子どもたちに大人気で、地域の大切な交流の場にもなっていました。

職員と一緒にお菓子作りにもチャレンジ
そうめんを流す竹細工作りから子どもたちが参加した流しそうめん

コロナ禍でも子どもたちに楽しみを!

しかし、新型コロナの影響で、毎月第2土曜日に行なっていた子ども食堂は2020年3月から開催中止に。そこで代替事業として子ども食堂を利用する家庭へ食品の配布を始めました。

子どもたちとのつながりが途切れないよう、レトルトカレーやお菓子などの食品に職員の手紙を添えて第2土曜日に職員が配達。手紙には「元気にしてますか? 顔が見れなくてさびしいですよ!」と、子どもたちへの職員の思いを書き、クリスマスや進級の季節には文房具などもプレゼントしています。

食品と一緒に職員が子どもたち一人ひとりに宛てた手紙を配布

代替事業の食品配布を発案し、配達を担当しているのは職員の松本大さん。

「子ども食堂の休止により会えなくなった子どもたちと、配達時に少しでも会話をすることで精神的な部分でつながっていたいという思いから発案しました。配達時にはプレゼントを受け取った児童から『いつもかわいい文房具をありがとう。大切に使います』とのうれしい声や、親子で職員宛に書いてくれた感謝の手紙などをいただきました」(松本さん)

子ども食堂を利用する家庭へ向かい、子どもたちに食品を手渡す松本 大さん

2022年3月には、コロナ禍以前に子ども食堂を利用していた小学校の卒業を迎える児童2人のために、最後の顔合わせの機会として卒業式を開催しました。

卒業式では施設長の粟木悦子さんが「中学生になっても元気で過ごして、『はまかぜ子ども食堂』のことを忘れないで」という言葉とともに卒業証書を授与。記念品として職員手作りの思い出のアルバムや文房具、カレーやお菓子なども手渡すと、子どもたちから「中学校に入ったら部活を頑張りたい」「家の手伝いをします」とあいさつがありました。

「今は子どもたちに食品やお菓子を配達することでしか交流できていませんが、子どもたちが成長する姿をこうして目の当たりにできたのが何よりうれしかった」と松本さんは話します。

小学校を卒業する2人に卒業証書を授与する老健はまかぜ施設長の粟木悦子さん

口コミで地域に広がった「認知症カフェ」

子ども食堂と同じく、職員の発案で始まったのが2017年に開設した「認知症カフェ」です。
認知症に関する相談のほか、認知症の正しい知識を学ぶ講座や予防のための音楽療法体験、地域の調剤薬局による服薬指導などを実施。認知症の当事者とその家族、医療・介護などの専門職、さらに地域住民が、認知症介護者の負担軽減や認知症についての正しい知識を共有することで、当事者や家族を支え、地域内のつながりを深める場にもなっています。

境港市報での広報や住民同士の口コミによって徐々に参加人数が増加し、初回は10人程度でしたが、2019年には約30人が訪れる人気イベントとなりました。イベントが実施できないコロナ禍の現在は、施設内に常設の「認知症カフェ相談コーナー」を臨時で設置し、職員がその都度当事者や家族の悩みに寄り添っています。

認知症カフェでの講座の様子

コロナ禍の今、認知症カフェも子ども食堂も思うように活動ができない状態が続いています。
松本さんは「コロナが終息したら、子どもたちの好奇心を育むレクリエーションとしてBBQや魚釣りしたり、施設の利用者さんや高齢のボランティアの方に昔の遊びを教えてもらったりできればと考えています。子どもはもちろん、高齢者の方にとっても生きがいにつながるのではないでしょうか」とコロナ終息後の未来予想図を笑顔で話してくれました。

職員の積極的なアイデアで子どもや高齢者が集う、「地域の拠点」になっている老健はまかぜ。これからも世代を超えて交流できる拠点を目指して、コロナ禍でも悩みを抱える地域住民を見守り、支えるために地域とつながる取り組みを続けていきます。

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