就寝中の治療でその人らしい暮らしを支えるオーバーナイト透析 就寝中の治療でその人らしい暮らしを支えるオーバーナイト透析 就寝中の血液透析で治療と生活の両立を支えたい
2022.4.28

就寝中の治療でその人らしい暮らしを支えるオーバーナイト透析

Let’s SINC

オーバーナイト透析で、患者さんのワークライフバランスや生活の質の向上につなげる

日常生活に影響する人工透析

人工透析(透析療法)は、腎臓が十分な役割を果たさない腎不全の患者さんに欠かせない治療です。
透析療法の一つである血液透析は、血液を体の外に一度出し、機械を通して浄化した後に再び体へ戻す治療法。一般的に1回4~6時間かかるこの治療を週3回ペースで行ないます。
心身両面の負担が大きいうえ、時間に縛られる血液透析に「治療予定が決まっているため残業ができず、職場に引け目を感じる」「家族と一緒に夕食がとれない」といった生活面で悩みを抱える患者さんは少なくありません。

患者さんの就寝中に行なう「オーバーナイト血液透析療法」は、そういった悩みを軽減し、その人らしい生活を送ることを支援する治療方法です。

※人工透析(透析療法)…血液中の余分な水分や塩分、老廃物を取り除き、血液をきれいにする腎臓の働きを人工的に行なう治療法。

オーバーナイト透析中の透析室。患者さんは安全に透析を行ないながらゆっくり睡眠がとれる
オーバーナイト透析中の透析室。患者さんは安全に透析を行ないながらゆっくり睡眠がとれる

就寝中の透析で心身への負担を軽減

長崎市にある済生会長崎病院は、県内初の取り組みとして2020年4月にオーバーナイト透析を開始しました。受け入れる患者さんは一度に12人までで、毎週月・水・金曜日の22時から翌6時の夜間に行ないます。通常6時間程度のところを、8時間と長い時間をかけて透析することで、より多くの老廃物を除去できるだけでなく、体への負担も軽減することができます。「寝ている間に終わるため、時間を短く感じた」という患者さんの声も寄せられています。

開始当初、治療を切り替えた患者さんは2人のみ。透析に悩みを抱える患者さんへの周知のために、同院ホームページでオーバーナイト透析の解説や、開業医への訪問など広報活動に取り組みました。その結果、治療を切り替える患者さんは徐々に増加し、開設から2年経過した現在(2022年4月)は10人が利用しています。

オーバーナイト透析を希望する患者さんは、日勤の働き盛りの人、残業が多い人、仕事と家事を両立している人、就職活動中の人など、透析によって日常生活に影響が出ていた人たち。
オーバーナイト透析に切り替えると、「治療で疲れ果てて帰宅することがなくなり、子どもから『お父さん顔色がよくなったね』と言ってもらえました」「フルタイムで働けるようになった」「自由な時間が増えた」といったうれしい反応が届きました。

看護師のワークライフバランスも大切に

オーバーナイト透析を安全に継続していくためには、病院の環境整備が不可欠です。治療を受ける患者さんの生活を支えるためには、夜間の治療を支える職員のワークライフバランスを整えることが重要なカギになります。2017年から透析センターに所属する看護師の泉久美子さんは、開始当初をこう振り返ります。

「当時、腎臓内科の森篤史医師から『将来的にオーバーナイト透析を始めたい』と言われ、自分には幼い子どもがいるため夜勤は難しいと思っていました」(泉さん)

透析治療に欠かせない機器の点検をする看護師の泉久美子さん
透析治療に欠かせない機器の点検をする看護師の泉久美子さん

透析センターは、子育て中の看護師が半数を占める人員体制だったため、夜勤担当の人材確保が一番の課題でした。そこで、17時から翌8時30分の夜勤形態に21時から翌10時までの新たな勤務時間帯を設定。家族の理解もあり、家事や子どもの世話を終えた後に安心して夜勤ができるようになりました。

「家事と育児を両立でき、働く職員のワークライフバランスの実現にもつながっています」と泉さんは話します。

患者さんが快適に治療を受けられる環境をつくる

治療面では、患者さんの入室から退室までの流れをシミュレーションし、安全に透析を行ないながらゆっくり睡眠をとってもらうためには何が必要かをスタッフ同士で協議。
照明や物音への配慮、プライバシーを守りながらも十分に観察できるベッドの配置、ロールカーテンでの仕切りの位置などを見直しました。
オーバーナイト透析では睡眠確保も重要な要件の一つ。患者さんへの声かけや状態観察、透析針の位置確認なども、暗い室内では容易ではありません。

「不測の事態が起こった際に、内線をかける余裕も無い時があります。ボタン一つですぐに応援の看護師を呼び出せるシステムを導入しました」と泉さんは話します。

しかし、透析針から血液が漏れ出した時にアラームが鳴る『漏血センサー』が作動した際、ロールカーテンによって、奥にあるベッドのアラーム音が聞き取りにくいという問題点も。
「現在、患者さん自身は写さずに機械やセンサーを画像・音で観察できる監視カメラの導入を検討しています。夜間ならではの課題が見えてきており、日中とは違ったさまざまな対策が必要だと感じています」(泉さん)

また、コロナ禍でも安心して治療を受けられるよう、現在は、新型コロナウイルス感染予防対策として、ビニールカーテンを設置。発熱者や濃厚接触者など感染症の疑いがある患者さんには、ウイルス等で汚染された可能性のある空気を室外に逃がさないようにする陰圧ブースを設けて対応しています。

朝方の透析室の様子。透析患者さんを看護師が夜通し見守る
朝方の透析室の様子。透析患者さんを看護師が夜通し見守る

ライフスタイルに合わせた治療を受けられるように

コロナ禍では家族との時間をより大切に考える人が増えています。
泉さんは「この治療法をさらに周知することで、1人でも多くの透析患者さんのワークライフバランスや生活の質の向上をお手伝いしていきたいです」と今後の意気込みを話してくれました。

治療法でその人らしい生活を支援する「オーバーナイト透析」。長崎病院の透析センターは、これからも患者さんの治療と生活の両立を支えるために、安心安全な治療環境を整え、1人でも多くの透析患者さんに治療の選択肢を広げられるよう活動を続けていきます。