患者の気持ちに耳を傾け
目標を共に見つけるリハビリ
2026.04.01

病床から、再び「その人らしい日常」に――
「生きがい」を取り戻すリハビリテーションの役割とは

岡山 済生会吉備病院
Let’s SINC
リハビリテーションを通して、患者の地域生活への復帰を職員一丸となって支える
日常生活に必要な動作やコミュニケーションといった観点から日々患者の身体機能の回復をサポートする役割を持つリハビリテーション(以下、「リハビリ」)。病気や障害があっても、住み慣れた場所で自分らしく生きたい――その願いに寄り添うリハビリ科のスタッフたちは、患者と地域社会を再び結びつける大切な存在でもあります。今回は済生会吉備病院の理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)、作業療法士(OT)の3人にインタビュー。それぞれの専門性を生かした日々の活動と、その裏にある支援への思いをリポートします。

野上達矢さん(右) 作業療法士兼、技師長補佐。2007年から済生会吉備病院に勤務
坂口和馬さん(中央) 言語聴覚士。大学を卒業後、2012年から同院に勤務
藤井祐貴さん(左) 理学療法士。岡山済生会総合病院を経て、2022年から同院に勤務

理学療法士、言語聴覚士、作業療法士のお仕事

― 皆さんは、どんな人を対象にどういったリハビリを行なっていますか?吉備病院での各職種の役割を教えてください。

藤井私は、済生会吉備病院の地域包括ケア病棟*¹に入院されている方を対象に、理学療法士(以下、「PT」)*²として、まずは「立つ」「歩く」などの日常生活動作(ADL)をサポートを通して、最終的には、患者さんが退院し、再び自宅で生活ができるようになることを目指します。また、退院後も外来や通所、訪問などで支援を続けます。

*¹ 地域包括ケア病棟:主に急性期の治療を終えた患者のうち、直ぐに在宅や施設へ移行するには不安のあるケースに対して、在宅復帰に向けて支援・準備する病棟

*² 理学療法士(PT):ケガや病気、高齢などで身体機能が低下した方に対し、立つ・座る・歩くといった「基本動作能力」の回復・維持・向上を目指すリハビリの国家資格専門職

健康な地域生活復帰への伴走者として患者の心身を支えるPTの藤井さん

坂口私は、言語聴覚士(以下、「ST」)*³として、失語症、構音障害、吃音、音声障害といったコミュニケーションに困難のある患者さん、脳卒中などに起因する認知機能障害、注意障害、記憶障害、空間認知障害といった高次脳機能障害のある患者さん、食べることが困難となった摂食嚥下機能障害のある患者さんに対して、それぞれの生活に復帰するための評価や治療、自宅での生活を見据えた支援を行なっています。

*³ 言語聴覚士(ST):話す、聞く、食べる(嚥下)に障害がある方に対し、専門的な評価、訓練、支援を行うリハビリの国家資格専門職。脳卒中後の失語症、小児の発達障害、高齢者の嚥下障害など、幅広い対象者に寄り添い、自分らしい生活やコミュニケーションの向上を支援する

食べることを支える嚥下機能訓練を行なう坂口さん

野上私は作業療法士(以下、「OT」)*⁴として、普段は回復期リハビリテーション病棟*⁵に入院されている、主に脳卒中や大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折の患者さんを対象に、ADLの練習や上肢機能訓練などを行なっています。

*⁴ 作業療法士(OT):身体や精神に障害を持つ人が、食事・着替え・入浴などの日常的な「作業(生活行為)」を通じて、自立した生活を送れるようサポートするリハビリの専門職
*⁵ 回復期リハビリテーション病棟:比較的重度な特定の急性期治療を終えた患者に対して、日常生活の動作の回復を目的として、集中的なリハビリを実施する病棟

患者が自分らしく暮らせる明日を職員一丸で支える

― PTの藤井さんは、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)としても活躍されています。資格保持者は吉備病院では初めてとか。どうしてCDEJになろうと思ったのですか?

藤井身内や周囲の方々に糖尿病を患っている人が多く、元々学生時代からこの病気に強い関心を持っていました。PTとして働きながら比較的早く受験資格を得られるので、就職してから目標にしてきました。まずは自分の知識を深め、患者さんに還元したいと考えたことが取得のきっかけです。

― 資格を取得したことで、患者さんとの関わり方に変化はありましたか?

藤井私はPTとして主に患者さんの運動指導を担当していますが、患者さんの「1日の過ごし方」をより深く聞き取るようになりました。特に80歳を超えると外出機会が極端に減るという報告もあり、身体機能の低下(サルコペニア)が進みやすくなります。そこで、家事を含め患者さんが1日に「どのくらい動いているか」「外出の機会があるか」などを重点的に確認し、身体機能を高めるアプローチと車椅子などの環境調整の両面から支援しています。

― 糖尿病と診断されるだけで、世間から「乱れた生活習慣をしていたからだろう」と見られる“偏見”が根強くあると聞きます。

藤井日本糖尿病協会では「スティグマ(負のレッテル)」という言葉が使われますが、実際、患者さん自身が負い目を感じていることも多いんです。私はそうした糖尿病患者さんの権利を守りたいと考えています。

― リハビリで患者さんへ声掛けを行なう際はどういうことを意識していますか?

藤井まずは患者さんを「承認」することを大切にしています。「これまで本当によく頑張ってきましたね」と伝え、認めてあげることで、患者さんのリハビリへの意欲や受け入れが変わってきます。

― 坂口さんはSTとして「自分で食べることへの支援」に力を入れて取り組んでいるそうですね。

坂口自分で食べることは、単なる栄養補給ではなく「生きる喜び」に直結します。嚥下機能が低下して介助が必要になると、患者さんは申し訳なさそうな顔をすることがありますが、リハビリをして再び自分の力で食べられるようになったとき、皆さん本当にいい笑顔を見せてくださいます。

― 患者さんにとって、自分で食べることがいかに大事かが分かりますね。嚥下訓練ではどのようなことをするんですか?

坂口嚥下訓練には実際に食べ物を用いる直接嚥下訓練と食べ物を用いない間接嚥下訓練があります。飲み込みに必要な喉の筋肉を鍛えるリハビリなど、基本的には間接嚥下訓練を実施しています。

― こうした摂食嚥下に対する支援は、どんな体制で行なっているのでしょうか?

坂口当院では2022年7月に、摂食嚥下障害領域の院内認定看護師制度を立ち上げました。現在は約40人の看護師が研修会・試験を経て認定を受け、現在は多職種による摂食嚥下支援チーム「eatpro(イープロ)」として活動しています。患者さんの嚥下機能の維持・向上を図るために、院内で認定された看護師は食事介助や口腔ケアを通して摂食機能訓練を継続的に行ないます。

― まさに食べることのプロフェッショナルですね。

坂口チームの主な活動として週1回、カンファレンスで問題を共有しています。医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、STの多職種が連携して摂食機能療法を実践することで、病院全体の嚥下ケアの水準が大きく向上しました。

嚥下出前講座で近隣の町内会の皆さんに「嚥下の力」を鍛えるためのトレーニング方法を紹介。喉年齢が若いと判定された参加者もいて楽しいひと時を過ごした

患者の話にじっくり耳を傾け意欲を引き出す

― 患者さんに信頼されるためには、提供するリハビリの質もさることながら、何が一番重要だと思いますか?

野上患者さんに寄り添う「聴く姿勢」でしょうか。回復期のリハビリは時間をかけて行なうので、いきなり訓練の話をするのではなく、まずは昔の仕事や趣味の話などの雑談を通じて関係性を築きます。じっくり話を伺い、患者さんの「頑張ってきたこと」「今やりたいこと」が見えてくると、それがリハビリの目標につながっていきます。

― 印象に残っている患者さんはいますか?

野上19年前に担当した患者さんで、毎日残って自主トレを頑張ってやってもらっていたことがあって。当時新人だった自分に大したことができたはずもないのですが、今でも訪ねてきて「あのとき自主トレをさせてくれたから良くなった」と感謝を伝えてくれます。

― 19年前のことを覚えてくださっているなんて、うれしいですね。

野上はい。自分が一生懸命に患者さんと向き合ったことが、相手の心にずっと残るのものなのだなと。リハビリの原点は、目の前の患者さんの「生きてきた証」や「今の思い」を丸ごと受け止めることにある。だからこそ「聴く」ということをとても大切にしています。

― 施術中の皆さんの様子を見ると、職員も患者さんも楽しそうにリハビリに取り組まれている印象があります。改めて、吉備病院リハビリ科の好きなところはどこでしょうか?

坂口リハビリ科は風通しが良く、多職種とも連携を含め、スタッフ同士の仲が良く、お互いを尊重しあえる雰囲気がとても好きです。自分のペースで余裕をもって患者さんと向き合う時間を大切にする職場で、質の高いリハビリを提供でき、患者さんにもそういった雰囲気がいい意味で伝わっているのだと思います。

― そういったサポートのゴールとして、患者さんにはどんな生活を送ってほしいと考えていますか?

野上患者さんの歩んできた背景を尊重しつつ、一歩でも元の健やかな生活に戻れるようにチーム一丸となって取り組んでいます。最終的には、自宅で自分らしい生活を少しでも長く時間を送ってほしいですね。

「リハビリの先生が魔法の手で私を元気にしてくれるんよ」と語る患者。職員と楽しくおしゃべりしながらリハビリに取り組むことが“元気の源”になっているとのこと

― 最後に、皆さんのこれからの目標を教えてください。

藤井私は2026年度から「きびドリサポ(ドリームサポートチーム)」のリーダーを務めます。これは、地域の中学生対象の職場体験の企画を多職種で行なうために発足したチームです。この活動は、子どもたちに有意義な体験を提供することで、将来の医療人材を育てていくことに加えて、普段交わることが少ない、院内のさまざまな職種のスタッフ同士が横断的につながりあうチャンスでもあります。結果的に、いざという時に多職種が今まで以上に強く連携し、病院全体でより多くの地域の方々の生活を支えられるようになるのではないかと考えています。

近隣の中学校の生徒を迎え入れた職場体験には病院で働く全職種の代表スタッフが集まり「きびドリサポ(ドリームサポートチーム)」を結成。それぞれの仕事を紹介し、実際に体験してもらった

坂口摂食嚥下専門の外来、「ごっくん外来」を2023年の2月に立ち上げました。なかむら耳鼻咽喉科をはじめ地域の開業医との連携をさらに深めていきながら、入院・外来だけでなく、現在PT、OTで行なっている“訪問リハビリ”へのST配置なども視野に入れ、人生の最終段階まで「食べる喜び」を支え続けられるネットワークをつくっていきたいです。

吉備病院の職員は学会発表にも積極的。2025年バンコクで開催され、アジア11カ国が参加する嚥下障害の有識者が集まった「Asian Dysphagia Society(ADS)2025」には、STの坂口さん(右)が参加し、研究発表を行なった

野上全国的に地域包括ケアシステムが推進される中で、リハビリ専門職の役割はますます大きくなります。先ほどお話しした「聴く」力に加えて、スタッフが学びに積極的になれる環境を整えることで、さまざまな患者さんの気持ちに応えることのできるチームづくりをこれからも進めていきたいと思います。

 

(機関誌「済生」2026年2月号 「NEWSな済生人 Interview」より)

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