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2022.6.1

「家族の立場に立って」サポートする。
“医療的ケア児”ゆうきくんの療育日記

Let’s SINC

医療的ケアを必要とする子ども達に新たな経験の場を、家族には相談の場を用意する

専門職と地域で連携しながら医療的ケア児をサポート
たんの吸引や経管での栄養補給など、日常生活に医療的ケアを必要とする「医療的ケア児」は、病院での治療以外にも、日常生活能力の向上などのため療育活動を行ないます。三重県の済生会明和病院内の重症心身障害児施設「なでしこ」では、短期・長期入所、通所などさまざまな受け入れ形式で、重い障害のある子どもだけでなく、医療的ケア児の療育活動を行なっています。「なでしこ」に併設された障害児相談支援事業所「明和ねむの木」では、医療的ケア児とその家族に寄り添う相談支援で、支援内容のコーディネートや家族の精神的なサポートをしています。
今回は、医療的ケア児の主人公・ゆうきくんとお母さんが「なでしこ」を知り、療育活動を通して成長していく様子を、医師、保育士、相談支援専門員などの職員のコメントとあわせて見ていきましょう。

「通所支援を受けてみませんか?」きっかけは市の相談窓口の紹介

4月×日(水)

 長男のゆうきが4歳になった。2130gの「低出生体重児」として生まれてすぐNICU(新生児集中治療室)へ入り、人工呼吸器を使用。気管切開手術をした頃は不安で眠れない毎日を過ごした。6カ月で退院してからは在宅での酸素療法を経て、知的障害と下半身の麻痺が残ったけど、かわいい笑顔が見られるほど体調は安定してきた。
 胃ろうからの経管栄養の注入や、痰の吸引、気管カニューレの手入れなど、日中の医療的なケアは私が一人で見ている。にこにこと笑いかけてくれるゆうきがかわいくてしょうがないけど、家庭での教育は十分なのか、保育園に入れるのか少し不安。妹のひかりもまだ2歳。もっと遊んであげたいけど、なかなか時間が取れないまま一日が終わる。わたしの職場復帰も、もう難しいのかな……。
 ひかりの栄養相談で訪れた「子育て支援センター」で、明和病院内の「なでしこ」という施設を紹介してもらった。相談窓口があるようなので行ってみよう。

施設長
山川 紀子医師
通所ではNICUを退院後に長期・短期入所の利用から児童発達支援の利用に移行するケースや、自宅で介護を続けている家庭が医療機関や行政機関(母子保健担当者など)の紹介で「なでしこ」へ訪れるケースが多いです。その他にも、保護者の急病などの緊急時や、家族のレスパイト(一時的な休息)のためのなでしこの短期入所やリハビリを経て、通所利用へ切り替える人もいます。

相談窓口「明和ねむの木」で気づいた支援者の存在

5月×日(木)

 なでしこに併設された障害児相談支援事業所「明和ねむの木」を電話予約して、訪問。ゆうきのお世話や、今後の子育てについて話をきいてもらった。「おひとりでのお世話、頑張りましたね。お母さんやお父さんの負担を減らしながら、ゆうきくんがもっと楽しく成長できる環境を一緒に考えていきましょう」と声をかけてくれて、ほっとしたら少し泣いてしまった。相談できる人がいなくて心細かったんだなぁ……。来月から、毎週月・水・金曜日の3日、ゆうきはなでしこへ通所することになった。

明和ねむの木
相談支援専門員
村山 明之さん
利用者さんからは、いざというときに頼れる事業所の紹介や、進学など生活の変化にあわせた支援内容のコーディネート、保育所の利用に関する相談が多いです。一人ひとり抱えている不安はさまざまなので、できる限りご家族の思いに寄り添うよう心がけています。

明和ねむの木
相談支援専門員
村山 明之さん
主にNICUを退院する患者さんに対しては、医師や看護師と連携しながら、居宅介護サービス、短期入所、通所の必要性やタイミングについて相談に応じています。ご家族は退院の喜びがある一方、在宅生活のイメージがつかず不安を抱えているので、一緒に気持ちの整理をしていきます。

通所で学んだ! よりよい生活を送るための療育活動

8月×日(月)

 なでしこへの通所が始まって3カ月。初日は少し緊張して表情がかたかったゆうきも、朝の会で保育士さんに「しんくら ゆうきくん!」と名前を呼ばれるとうれしそうに脚をパタパタさせるようになった。わたしと夫、病院の先生以外とお話する機会はなかなかなかったから、ゆうきの世界が広がっていくようでうれしい。保育士さんを中心に、お医者さん、看護師さん、理学療法士さん(PT)、作業療法士さん(OT)、相談支援専門員さん、児童指導員さん……スタッフのみなさんがあたたかく見守ってくれる。
 トランポリン、楽器遊びなどの集団での活動や、歩行のリハビリ、昼食介助、排泄介助など、15時までお世話してもらえる。お迎えまでに家事を片付けて、ひかりとゆっくり散歩する時間も作れるようになった。
 通所メンバーは、ゆうきと年齢の近いお友達のほかにも、特別支援学校を卒業したお兄さん・お姉さんも多く、みんなで9人。お迎えの際には、保護者のみなさんと悩みを相談しあったり、装具のおさがりをいただいたりと、ママ友・パパ友との情報交換も楽しみになっている。

保育士
鈴木 由紀子さん
子どもの成長発達には個人差があります。特に重症児者の発達はゆっくりではありますが、遊びや人との関わりから楽しい経験を重ねることで、人への信頼感やモノへの興味関心が広がり、自ら働きかける自発性が育っていきます。そこからいろいろな経験を積むことで自信や意欲につながり、身体だけでなく、心の成長も期待できます。その他、遊具や楽器で身体を動かす「ムーブメント活動」など、感覚機能や社会性の発達を促す活動もしています。

理学療法士
高橋 悠也さん
理学療法、作業療法を通して、幼児・児童は身体機能やADL能力(日常生活の動作に必要な力)の向上、成人は身体機能や健康状態の維持を目標としたリハビリを行なっています。安楽に過ごせる姿勢の保ち方(自力で座位を保つことが難しい利用者が多い)や、適した食事の内容や形態、生活のさまざまな場面での動作の介助方法なども、保育士や看護師、介護士など多職種で常に検討し、ご家族にも共有し、よりよい生活が送れるよう心がけています。

保育士
鈴木 由紀子さん
多職種から専門分野の指導(下表)を受けながら、保育士が療育活動を主導しています。看護師やセラピスト(PT、OT)も療育活動に参加するなど、専門分野以外についても情報を共有しあいながら、利用者をまるごと理解できるように努めています。

「なでしこの」保育士さんの担当業務はこんなに幅広い!

専門職から指導を受けて行なう支援内容(一例)
医師・看護師からは…… 疾患についての情報や対応の注意事項、口内や気管カニューレ(気管切開後の空気の通路)内の痰の除去、心肺蘇生の手技、医療機器の使用方法
理学療法士からは…… 安全なポジショニング(要介護者が楽な姿勢を取れるよう補助する)、移乗動作(ベッドから車椅子などへ移る動作)の介助、装具の着用方法(体幹や足のコルセットのような役目を果たす)
作業療法士からは…… 食事の介助方法、コミュニケーションのコツ、発達を促す遊び方

「みえる輪ネット」の事例検討会で「一人じゃない」と思えた

9月×日(日)

 なでしこの児童指導員さんの紹介で、三重県南部地域の支援者や医療的ケア児と保護者がともに参加するネットワーク「みえる輪ネット」の事例検討会に参加した。事例ビデオを見たり、グループワークを通じて、隣町の支援について話が聞けたりと、とても勉強になった。
 コロナ禍に突入してからは、自宅からオンラインで参加するように。家族みんなでゆったり参加できるから、オンラインも便利だね。SNSでもコミュニケーションを取りながら、また直接みなさんに会えるのを楽しみに待とう。

児童指導員・
みえる輪ネット担当
青木 哲也さん
なでしこが事務局を務める「みえる輪ネット」は”毎日の安心”と”万が一の安心”をテーマに、平成28年10月から三重県南部で医療的ケア児とその家族を支援しています。行政機関や医療・福祉機関と連携しながら、地域の課題や求められる支援について意見交換を行なう「事例検討会」「津波避難タワーへの避難訓練」などを通して、顔の見える関係構築と支援力の向上を目指しています。
新型コロナ感染症の流行以後も、オンライン開催へ変更して事例検討会を継続。遠方に住む人や、移動が困難な医療的ケア児者も自宅から気軽に参加できるようになり、参加地域もますます拡大しています。

「もしも」に備える避難訓練で知った避難経路の重要性

10月×日(土)

 みえる輪ネットの「津波避難タワーへの避難訓練」に参加した。参加前は「車いすや大荷物を持って避難所までたどりつけるかな」「ライフラインを考えると家の方が安全なのでは……」考えていたけど、家からの避難経路を実際に確認してイメージができたし、不安のひとつだった非常用の電源の購入補助も、三重県南部で少しずつ増えていることがわかり安心した。
 大人4人でゆうきの車いすを抱えて、津波避難タワーの階段を上る。車いすには、被災時に酸素療養が必要になった場合に備えて、酸素ボンベや普段使っているケア用品を積んだので、とても重かった。被災経験者の方のお話も聞いて、非常持ち出し袋も見直さなければ……と勉強になった。

児童指導員・
みえる輪ネット担当 
青木 哲也さん
三重県南部は、将来南海トラフ地震の発生が心配されている地域であり、海に面しているため津波が発生した際の避難対策も重要となります。災害時にライフラインが停止した場合、人工呼吸器は内部バッテリーと予備バッテリーで概ね14時間程度の使用が可能ですが、その後の電力を安定して供給する仕組みや、安全に医療的ケアを行なえる避難場所の確保が必要です。

児童指導員・
みえる輪ネット担当
青木 哲也さん
避難所の環境に不安を抱える家庭が多く、令和3年に医療的ケア児のいる家庭を対象に行なったアンケート調査では「避難所への避難を決めている家庭」はわずか4割でした。みえる輪ネットでの避難訓練で避難ルートの確認を行なったことで「避難をあきらめていたが、“生き残る”ために前向きに考えられた」との感想も。緊急時、ポータブルバッテリーや発電機の電源の補助支援も、各地域で徐々に広がっています。

なでしこ、地域の支援を受けながら保育園を卒園

3月×日(木)

 ゆうきは、なでしこの支援を受けながら無事保育園へ入園し、この春卒園した。夢のひとつが叶うなんて……不安でいっぱいだった頃の私たち家族に教えてあげたい。通所だけでなく短期入所も組み合わせることで、ゆうきの療育活動の充実、ひかりとの時間の確保、わたしの仕事復帰も叶い、なでしこのみなさんには感謝の気持ちでいっぱい。
 保育園入園の条件のひとつだった、園内で医療的ケアをしてもらえる看護師さんの確保には大苦戦したけど、明和ねむの木の相談支援専門員さんが二人三脚で自治体へのはたらきかけをサポートしてくれて、無事入園が叶った。
 なでしこへの通所を通じて、電車やダンス、タンバリンなど、ゆうきのたくさんのお気に入りを見つけられた。春からは、特別支援学校へ入学する。授業のあとはなでしこの「放課後等デイサービス」で、これからものびのびと成長できますように。

施設長
山川 紀子医師
重症児者にとって生活の自立は難しいですが、児童発達支援で小集団での生活や人との関わり、遊びなどの経験を重ねることで、家族以外の人や自宅以外の場所でも安心して過ごせるようになります。

施設長
山川 紀子医師
医療的ケア児が保育園や小学校に通うためには、受け入れ先に看護師の配置が必要ですが、人員確保が難しい現状です。「ねむの木」では、行政に対して看護師配置の依頼のお手伝いをしています。保育園卒園後も、特別支援学校入学に伴い「なでしこ」の放課後等デイサービスの利用や、成人後の長期入所を見据えた短期入所での練習など、成長と生活の変化に応じた支援をしています。

「明和ねむの木」で妹・ひかりちゃんの情緒面の変化にも気づけた

4月×日(金)

 ゆうきのお迎えの際、相談支援専門員さんが声をかけてくれた。ひかりの発達について「周りの子と比べて、少し落ち着きがない気がする」と、ぽろっとこぼしたのを覚えていてくれたみたい。「ひかりちゃんは少し、甘えたいのを我慢しているのかもしれません。情緒面に変化が現れるきょうだい児は少なくありません。発達について気になるようでしたら、当院の外来も受診できるのでお気軽にどうぞ」
 家族との関係性まであたたかく見守ってくれるなでしこのみなさん。病院との連携もばっちりで、安心して相談できる。これからもよろしくお願いします!

明和ねむの木
相談支援専門員
村山 明之さん
きょうだい児(障害のある子どもの兄弟姉妹)は、介護で忙しい家族を気遣って甘えられず、我慢が重なって情緒面が不安定になるケースが少なくありません。ヤングケアラーのように、日常的に家事や兄弟の補助を担っている子もいます。

明和ねむの木
相談支援専門員
村山 明之さん
通所の送り迎えの際など、何度か話して関係性ができてくると、第三者の目線だからこそ気づける部分も。きょうだい児の言語の遅れや情緒面についての不安などがある場合は、当院の外来への案内のほか、保健指導や健康管理をおこなう保健師へ繋ぐサポートも行なっています。

明和病院 なでしこでは、災害対策の啓発活動、「みえる輪ネット」の運営を行ないながら、医療的ケア児とその家族に寄り添い、療育活動を支えています。

三重県済生会明和病院 なでしこ

住所 :三重県多気郡明和町大字上野435
ホームページ:https://www.meiwa-saiseikai.jp/nadeshiko/index.php