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JKK東京
(東京都住宅供給公社)

2024.4.19

都民の住まいを支える JKK 東京

誰一人取り残さない「暮らし」をめざして

東京都では、人口のピークが間近に迫ると同時に、少子高齢化、単身世帯の増加といったライフスタイルの多様化が進んでいます。コロナ禍や自然災害を受けて、住居に求められる機能や設備も変化し、時代に沿った暮らしができる環境を整えるため、住まいのあり方が見直されてきています。

東京都が、2040年代に向けて目指す住宅政策の指針をまとめた「東京都住宅マスタープラン」では、年齢、障害、性的指向等を理由とした入居制限を受けず、誰もが自ら住まいを選択し、いきいきと自分らしく暮らし続けられる「まちづくり」を掲げています。都が100%出資して設立した特別法人「JKK東京(東京都住宅供給公社)」を訪ね、JKK東京の住宅セーフティネット機能とはどんなものか、高齢者、子育て世帯といったさまざまなライフステージの人々が共助しながら暮らしていくための「団地再生事業」についてお聞きしました。

JKK東京(東京都住宅供給公社)とは

地方住宅供給公社法に基づき、東京都が全額出資して設立した特別法人。単身者から家族向けまで、多彩な物件が揃うJKK住宅(公社住宅)のほか、所得が低い人や障害者、高齢者など、住宅確保が難しい人のための公営住宅も東京都等から受託して管理している。東京都内の管理物件は約34万戸で、全物件、礼金や仲介手数料、更新料がかからない。

JKK東京の取り組み
都内7万戸以上の住宅をセーフティネットに

JKK東京では自社物件のJKK住宅(公社住宅)と東京都から委託を受けて管理する都営住宅等公営住宅を併せて34万戸以上の賃貸住宅を管理しています。都営住宅は収入がゼロでも入居でき、またJKK住宅でも礼金や仲介手数料といった初期費用や更新料がかからず、国や都が進める政策に連動し、生活に困窮する人等への住宅セーフティネット機能を果たしてきました。

また、JKK東京の中で役割が大きく見直されているのがJKK住宅です。高度経済成長期、住宅不足を解消するという使命のもとにつくられたJKK住宅は、従来の中堅所得者やファミリー向けというあり方に加え、高齢者や子育て世代などの住宅確保要配慮者も重視するあり方にシフト。建て替えや修繕によって建物の長寿命化を図りながら、住宅ストックを有効活用できるよう整備が進められています。

戸松さん

JKK住宅では、設立当初から入居を希望する方の世帯や属性で入居を拒みません。現在では、そのうえで高齢の方が優先申込できる期間を設けたり、ひとり親世帯への収入審査の緩和や家賃割引など、さまざまな制度を整えています。いくつかのJKK住宅では、自治体と連携し住宅確保要配慮者とされる方から優先的に入居できる取り組みも行なっています。

JKK東京 公社住宅事業部 管理改善・コミュニティ担当部長 戸松 健さん

災害時にも“共助”し合えるつながりをつくる

JKK住宅のあり方を見直す中で、大きなテーマとなっているのが「コミュニティ」。全国各地で地域の中での“孤立”が大きな社会問題となっているなか、「地域コミュニティ」をどのようにつくっていくか、またコミュニティを形成する地域の人たちで継続できるものにしていくかが課題となっています。

JKK住宅では、高度経済成長期に⼊居した人が一斉に⾼齢になったこと、老朽化による建て替えと住民の入れ替わりで、従来のコミュニティ機能が低下したことなどによって、住⺠同⼠や地域とのつながりが薄れてきている現状があるといいます。

孤立や孤独死を防ぐだけでなく、例えば、自然災害のような有事に住民たちが共助し合えるしくみをつくるため、JKK東京がソフト面からどのようなサポートができるか――そこで取り組みがスタートしたのが、2つの手法で行なう居場所や交流の場づくりを促す「JKKコミュニティ活性化戦略」です。

「住まいるアシスタント」が
持続可能なコミュニティ形成をお手伝い

1つ目の手法は、「アプローチ型コミュニティ形成」。キーパーソンは、「住まいるアシスタント」と呼ばれるJKK東京の専門スタッフです。住民の困りごとや要望をそれぞれの住宅に直接赴いて、入居者にヒアリングし、交流のきっかけとなるイベントを企画・開催します。「防災コミュニティ活動支援」として、自主防災組織の立ち上げをサポートする取り組みもあります。

2つ目の手法は、「拠点型コミュニティ形成」。団地内の空き店舗や未利用となっているスペースなどを活用し、地域交流拠点の整備を行なっています。大学とJKK東京が連携して、賃料を減額して学生に部屋を貸し出し、入居した学生が自治会活動のサポートをすることで、地域住民と学生の交流を生み出している例もあります。

地域のコミュニティと福祉の拠点「コーシャハイム向原」

板橋区の「向原住宅」は、32棟840戸の団地型賃貸住宅として昭和32〜34年に建設されました。建物の老朽化や住民の高齢化を受け、2007年から建て替えがスタート。「コーシャハイム向原」として生まれ変わりました。

団地再生事業で掲げたコンセプトは、“誰もが生き生きと暮らし続けることのできる街「ツナガリノマチ向原」”。単身者、子育てファミリー、高齢者など、多様な居住ニーズに対応し、団地でありながら1K〜3LDKと間取りのバリエーションも豊富です。

建て替えにあたっては、地元自治体に地域の課題をヒアリング。福祉機能へのニーズが強いことを受けて、敷地中央にある7号棟に、介護・医療施設と子育て支援施設を併設したサービス付き高齢者向け住宅を設けました。建て替えで生まれた空きスペースには、高齢者・障害者施設、地域包括支援センターを誘致。コーシャハイム向原の住民だけでなく、周辺の住民も集まる地域の福祉拠点となっています。また、住宅一帯が広域避難場所になっていることを踏まえて、地域の防災拠点にもなるよう、敷地内にさまざまな設備を整備しています。

コーシャハイム向原を案内していただきました

北田修康さん

住宅総合企画部 住宅再生事業推進課 課長
北田修康さん

団地再生事業の担当として、コーシャハイム向原の立ち上げに取り組みました。福祉施設などを建て替えと並行して誘致したプロジェクトは全国でも先進的な例でした。

奥田裕さん

公社住宅事業部 公社管理課 管理改善担当課長
奥田裕さん

「住まいるアシスタント」は導入から毎年増員し、現在10名。社会福祉士や保育士の経験を積んできたメンバーもいます。住民の方に伴走しながら時間をかけて丁寧なサポートをしています。

鈴木照実さん

公社住宅事業部 高齢者住宅管理課 高齢者住宅管理係
鈴木照実さん

サービス付き高齢者向け住宅と認可保育所、カフェレストランを運営する事業者の皆さんとの連携が主な仕事です。同じ建物にあることでイベントなどを通して日頃から多世代の交流が生まれています。

社会福祉法人こうほうえん

公社が整備した建物を借り受け、サービス付き高齢者向け住宅、認可保育所を運営。

友重敦子さん

コーシャハイム 向原7号棟管理者 兼相談員
友重敦子さん

イベントなどで団地以外にお住まいの方との関わりも増え、地域に根ざした施設に育っていることを感じます。

米芳久さん

西東京エリア 総合施設長
米芳久さん

「地域との共生」「地域との連携」がわたしたちの理念。最後まで暮らせる環境づくりに力を注いでいます。

コーシャハイム向原のMAP コーシャハイム向原のMAP

JKK東京が描く展望
医療機関との連携で暮らしを支え、“循環する団地”へ

コーシャハイム向原は、管理運営がはじまってから約14年。ようやくコミュニティが根付き、まちづくりが広まりはじめてきたといいます。

JKK東京の戸松さんは、「団地ができた当時からお住まいの高齢者、学生など若い世代、子育て世帯、もうすぐ子育てが終わる人、外国人、障害のある人など、多様な世帯や世代の人が暮らし、うまく循環していく団地をつくっていければと考えています。かつて一世代に対して画一的な間取りで住まいを供給したわたしたちが、現状を見つめた教訓でもあります。実現のためには仕掛けも必要。住民同士や地域との交流の場、福祉や医療の拠点を設けるだけでなく、継続できる体制づくりも不可欠です」と話します。

JKK東京が目指す誰もが安心して暮らせる団地のあり方は、誰一人取り残さない暮らしの実現につながっています。

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