住まいと医療がつながることの重要性を探る
2024.04.19

東京都済生会×JKK東京
「誰一人取り残さない暮らしをめざして」
住まいと医療をつなぎ孤立を予防

東京都済生会×JKK東京
Let’s SINC
 
2023年5月、東京都済生会とJKK東京は包括連携協定を締結。JKK東京が管理運営する賃貸住宅(以下「JKK住宅」)やその周辺地域に暮らす住民の健康、安心・安全な生活の実現を目指すものです。活用するのは、公社住宅などにあるコミュニティサロン(集会所)。健康講座や相談会の実施など、誰一人取り残さない暮らしの実現を理念としたソーシャルインクルージョン活動を東京都済生会が行なっています。

“孤立”が引き起こす健康問題
気軽に医療とつながれるしくみづくりを

東京都済生会とJKK東京が共にかねてから感じているのは、住まいと医療が密接につながることの重要性。住まいのすぐそばに、気軽にアクセスできる医療との接点をつくることが必要だといいます。例えば、近年増加している外国人の入居では、慣れない土地で病院を探すことにまず大きなハードルがあります。病気になる前から医師と交流ができる場や、同じ地域に暮らす住民と医療に関する情報交換ができる場があれば、いざという時安心です。また、高齢者にとってもそうした場に行くことが、健康への関心を高めることや孤立の予防にもつながります。

済生会中央病院、向島病院が
JKK住宅でイベント開催

協定に基づいて、さっそく2023年から具体的な取り組みがスタート。東京都済生会の中央病院向島病院から医師や看護師がJKK住宅のコミュニティサロンを訪ね、小児科医による子どもの悩みに関する講演会や、認知症・フレイル予防に関する講座などを開いています。

イベントのテーマは、JKK東京が住民のニーズを拾い上げ、その声を踏まえて決定。開催後にはアンケートを行ない、結果と参加状況などを見て両者で何ができるかを協議しながら進めています。参加した住民の満足度は高く、また、主催側(済生会病院、JKK東京)も、新たに地域包括支援センターとのつながりが生まれるなど、イベントを通してまちづくりに広がりが生まれています。

高齢者だけでない潜在的なニーズを
アウトリーチで見つけていく

一方で、現在のところは、参加者の平均年齢が高く、若者や働いている世帯の参加が少ないという課題もあります。子どもに関する相談は現段階では少ない傾向にありますが、潜在的なニーズを拾っていけるしくみをつくっていかなくてはなりません。例えば、居住率の高い高齢者への支援をベースとして行ないながら、虐待やヤングケアラーといった若い世代に関連するテーマの講演を行なうことも検討しています。

向島病院 事務部長
阿部正さん

健康な生活を維持するためは、患者さんが病院を訪ねてくるだけでなく、私たち医療機関の方から地域に出向いていく「アウトリーチ支援」が大切です。都内各地で住宅を管理運営されているJKK東京さんと連携し、暮らしの場で働きかけを行なうことで、医療をより身近に感じたり、健康に関心を持ってもらうきっかけになると感じています。

トミンハイム台場五番街で開催した健康講座「お子さんのお腹の悩み解決します」
理学療法士等による「認知症・フレイル予防」の講演会・体操

JKK東京が思い描く
住宅の中にある「医療」とは?

JKK東京では、かつては「住宅の管理」自体に重きを置いてきました。時代が移り変わり、高齢化や住民同士の交流の減少などさまざまな課題がある今、一人ひとりの住民に目を向け、ニーズに対して何ができるか考えることに力を注いでいます。

JKK東京
公社住宅事業部

戸松健さん

JKK東京だけの力では限界があり、JKK住宅が所在する地元の行政機関や福祉関連の専門機関、地域包括支援センターなど地域のプレーヤーとどう連携を築いていくかが大切だと思っています。医療・福祉を事業主体とされる済生会さんと連携することで、安心して暮らすことのできる団地づくりにつながると考えています。

団地に暮らす人の生活は、医療機関を含め、団地の外にあるものをあわせてはじめて成り立つもの。地域の資源をどのように活かしていくかが問われています。例えば、体調に小さな異変があったとき、すぐに相談できる医師がいれば、より安心して暮らし続けられる環境の実現に近づきます。コミュニティ形成を目指したほかのイベントには参加していなかった住民が済生会の講演には訪れるなど、医療との接点、さらに住民同士の接点という面でも早速ポジティブな反応が見られています。

中央病院
事務次長代理

町田洋治さん

中央病院では、視覚障害者の移動を支援するシステム「ナビレンス」の導入や、近隣の企業・大学と地域版SDGsに取り組む活動も行なっています。住宅の中のコミュニティでも、そういったことを情報発信することで、さまざまな活動のその背景にある思いが届き、誰一人取り残さない社会の実現につながるのではと感じています。

東京都済生会 支部長
杉村栄一さん

済生会では、地域包括ケアシステムの構築推進を「第3期中期事業計画」の重要な目標として位置づけています。これからは、医師や看護師、事務職員まで、一人ひとりが地域包括ケアの考え方を念頭に置いて、退院後の患者さんがどうすれば地域の住まいでいきいきと暮らしていけるかを考えて医療を提供していく必要があります。そのうえで、地域内での連携は不可欠。JKK東京さんと連携して開催する健康講座などの試みを通して地域住民の方々と直接交流を持つことで、病院の中の診療ではわからないさまざまな住民ニーズを知ることができ、そのことが地域包括ケア実現の一つの力となっていくのではと考えています。

東京都済生会では、協定をきっかけにはじめた健康に関するイベント以外にも、住宅ごとにある固有の課題と向き合い、できるサポートの検討を進めています。
「住宅確保要配慮者の方々に対しては、かねてより行なってきた無料低額診療や中央病院のホームレス専用病棟など、済生会のノウハウを生かした支援ができます。加えて訪問看護ステーションなど、東京都済生会の持つさまざまな事業所を活かして支援できることもあるのではと考えています」と支部長の杉村さん。

東京都済生会とJKK東京の協定、コーシャハイム向原の例にあるようなコミュニティ形成のあり方から、地域と住まい、医療、福祉がつながることによって、地域の中で誰一人として孤立しない暮らしが生まれようとしています。

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