乗馬を通じて障害をもつ子どもたちを笑顔にしたい
2017.10.30

馬との触れ合いで障害をもつ子どもたちの心と身体を健康に

岩手 NPO法人 乗馬とアニマルセラピーを考える会 馬っこパーク・いわて
Let’s SINC
乗馬を通じて障害をもつ子どもたちの心を癒すとともに、身体機能の回復をサポートする

岩手県盛岡市に隣接し、北西部に秀峰岩手山をいただく滝沢市は、2014年の市制施工まで「人口日本一の村」だった滝沢村でした。色鮮やかな馬具で飾った約100頭の馬が行進する「チャグチャグ馬コ」の祭りが有名で、行進のスタート地点は滝沢市の鬼越蒼前神社。盛岡市にある盛岡八幡宮まで約13キロの道のりを行く壮麗な馬たちの姿は圧巻です。



岩手県盛岡市に隣接し、北西部に秀峰岩手山をいただく滝沢市は、2014年の市制施工まで「人口日本一の村」だった滝沢村でした。色鮮やかな馬具で飾った約100頭の馬が行進する「チャグチャグ馬コ」の祭りが有名で、行進のスタート地点は滝沢市の鬼越蒼前神社。盛岡市にある盛岡八幡宮まで約13キロの道のりを行く壮麗な馬たちの姿は圧巻です。「チャグチャグ馬コ」は農耕馬の勤労を感謝する祭りとして200年以上の歴史を持つ伝統行事であり、この地域の人々と馬とのつながりの深さを感じさせます。



滝沢市内にある「馬っこパーク・いわて」は馬場・屋内馬場・厩舎など本格的な乗馬のための施設だけでなく、「引き馬コーナー」や遊具のある「チビッコのりもの広場」、「あそびの丘」、「ハーブ園」を備え、気軽に家族連れで立ち寄って動物とのふれあいや自然散策を楽しめるスポットになっています。気持ちのいい風が豊かな緑を揺らす開放的な敷地内で、時間を気にせずのんびり過ごしたくなる、癒しの場所という印象を受けました。



旧ポニースクールの施設をそのまま借り受けた「馬っこパーク・いわて」には、約30頭の馬がいます。同パークではNPO法人「乗馬とアニマルセラピーを考える会」がホースセラピーを運営しており、アンディ・千代・クッキーの3頭がセラピーホースとして活躍中です。

馬との触れ合いが発達障害児にもたらす“変化”を何年も見守ってきた同法人の藤元真紀子副理事長が、ホースセラピーを受けて懸命に成長する2人のお子さんを紹介してくれました。
盛岡となん支援学校1年生の岩本康平くんと日詰小学校1年生の北條百桜(ももな)ちゃんは2010年10月に超未熟児として生まれ、岩手医大の新生児集中治療室でお隣さんだったそうです。誕生時の体重は康平くんが407g、百桜ちゃんが755gでした。
康平くんのおばあちゃんの勧めで「馬っこパーク・いわて」のホースセラピーを受け始めたのが2013年。2人は寝たきりに近い状態だったといいます。



「馬の体温は38度くらいで、人よりも高いんです。体温が低くなりがちな発達障害児の体を温めながら、馬の歩行する筋肉の動きが子どもたちに伝わることで、自分で動かせなくとも子どもたちの筋肉に緊張と緩和をもたらして、運動をしたのと同じような効果が得られるんです。座ってまたがることができなくても、馬の背に乗せてサポートしながら歩かせても効果があります。次第に体幹が良くなって、少しずつ体の機能が向上していく様子が見られますし、何より表情がイキイキとしてきますね」と、藤元さん。


NPO法人「乗馬とアニマルセラピーを考える会」副理事長の藤元真紀子さん。岩手県盛岡市の社会福祉法人「いきいき牧場」に20年勤めた後、「乗馬とアニマルセラピーを考える会」理事長の山手寛嗣さんから活動への協力を頼まれて現職に。子どもたちの笑顔が家族の笑顔へとつながっていくことが喜びだと語ってくれた

新生児のころ、担当医に「座ることができるようになればいいですね」と言われた康平くんが、今では補助があれば自分の足で歩けるまでに成長し、百桜ちゃんも短い距離ながら自力で歩いてみせてくれました。2人の歩行姿にご家族もスタッフも笑みがこぼれます。2人の成長の過程はそのまま可能性の広がりの証しとなって、支える人々に勇気と喜びを与えてくれるのです。

今年の6月、康平くんと百桜ちゃんは栃木県の乗馬大会にも初出場しました。栃木県宇都宮市にある「障害者のための馬事普及協会」が主催する大会で、指定された経路を走行しタイムを競う「ジムカーナ」という部門にサポート有りでエントリーしたのです。競技大会に参加するという大きな挑戦に、お母さんたちは「ずっと支えてきてくれた皆さんに感謝の気持ちでいっぱい」と語ってくれました。



藤元さんが初めて「ホースセラピー」を目の当たりにしたのは、高校時代の後輩が半身不随となり車椅子生活になってしまい、治療として馬に乗るというのを聞き見学に行ったときなのだそう。
「馬に乗ったとき、彼の表情が、目の力が変わったのを見ました。車椅子に乗って人よりも低い視点から見上げる世界で自分の体の無力さに打ちひしがれていた彼が、人よりも高い位置から世界を見下ろして、自分が馬を御しているという感覚に自信を取り戻したような目の輝きでした」と、藤元さんは振り返ります。

パークでホースセラピーに取り組むようになり、たくさんの子どもたちに出会ってきた藤元さんは「馬に乗ると子どもたちが笑顔になります。子どもが笑顔になると、まずお母さんが笑顔になります。お母さんの笑顔が一家族の笑顔になります。そういう家族単位の笑顔を一つでも多く増やせるように、ホースセラピーの活動が広まっていくことを願っています」と素敵な笑顔で話してくれました。



取材時にはお会いできませんでしたが、「乗馬とアニマルセラピーを考える会」理事長の山手寛嗣さんは獣医さんだそうです。大学時代には馬術部に所属し、東京の大井競馬場診療所勤務を経て、盛岡競馬場内で競走馬診療所を開業。そして、約30年前に小動物の治療を行う「松園動物病院」を盛岡市内で開業されました。山手さんはチャグチャグ馬コ同好会滝沢支部会員として、岩手県の馬事文化の普及にも熱心に取り組まれていて、毎年、パークの馬たちも数頭が華やかな馬具を纏って行進に参加しています。


また、「乗馬とアニマルセラピーを考える会」はパーク内でのセラピー乗馬だけでなく、近隣で開催されるイベントや学校などに出張訪問して、馬との触れ合いの機会を地域の人々に届けてくれる活動を続けています。動物との触れ合いは癒しだけでなく、コミュニケーション力や社会性、他者へのいたわりの心を育てる効果があるのだといいます。

私たちの心のケアに一役買ってくれている優しい馬たちに会いに「馬っこパーク・いわて」へ、ぜひ行ってみてください。馬との交流に心が温まります。

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