生活に欠かせない“足”をお年寄りに提供したい
2021.02.19

過疎地に住む高齢者たちの命綱はたった2台の「生活バス」

岡山 特養憩いの丘
Let’s SINC
過疎化と高齢化が進み、交通手段の確保が困難となった地域にバスを走らせ、住民たちの生活を守る

高齢化が進む過疎地域では、交通手段の確保が課題

日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は28.7%。4人に1人以上が高齢者です。高齢化は今後も進み続け、2040年には高齢化率が35.3%になると言われています。※1
特に高齢化が進んでいるのは、人口の少ない過疎地域です。全国の市町村のうち47.5%を占める過疎地域ですが、高齢化率は36.7%と、全体に比べて格段に高くなっています。※2
高齢化が進む過疎地域で問題になるのは、交通手段の確保です。
過疎地域では、十分に公共交通機関がありません。電車の路線が少ないうえ、バスも、利用人数の減少やドライバーの高齢化が原因で廃止されてしまうことが多いためです。そこで多くの人が移動に用いているのは自家用車ですが、近年は交通安全の問題から、高齢ドライバーの免許自主返納が呼びかけられています。
公共交通機関がない過疎地域で、高齢者たちが安全かつ不自由なく生活するためには、どうすればよいのでしょうか。

※1…総務省「人口統計」2020年9月15日のデータ
※2…総務省「過疎対策の現況」2018年度

過疎地域を走る民間の「生活バス」

そんな中、高齢化・過疎化が進む岡山県岡山市の足守地区では、2台の民間バスが住民たちの生活を支えています。
人口約6300人の足守地区の高齢化率はなんと約41%(2019年8月末)。市の中心部までは約10キロの距離があるため、高齢者たちには何らかの交通手段が必要不可欠です。ところが、足守地区と中心部をつなぐバス路線の運行が2004年に廃止され、高齢者たちの移動手段の確保や小中学生の通学が困難となっていました。
そこで、岡山市からの依頼を受け、足守地区にある特別養護老人ホーム「憩いの丘」が同年11月から「公共交通空白地有償運送事業(当時の名称:過疎地有償運送事業)」を開始しました(愛称:足守地区生活バス)。
公共交通空白地有償運送事業とは、公共交通がないか、あっても本数が少ない地域において、交通事業者ではない公益法人などが、道路運送法に基づいて輸送事業に当たるものです。

山上線は8人乗り、千升線は10人乗りのワゴン車が運行。写真は千升線の車両

生活バスは、足守地区の山上(やまのうえ)地域から済生会吉備病院へ通じる片道約32㎞の「山上線」と、千升(ちます)地域から吉備病院への約40㎞を結ぶ「千升線」の2路線を、それぞれ平日のみ1日3往復しています。
利用の対象は足守地区の住民と、地区内の公共施設等の利用者。事前に登録すれば、1回500円で利用することができます。障害者手帳や運転免許証を返納した高齢者のための「おかやま愛カード」保持者は200円になります。
バス停からの乗車が基本ですが、前日17時までに予約すれば、バス停以外の場所からも利用することが可能です。

地域にとって欠かせない存在に

バスは日々、病院に行く人や、スーパーや薬局に買い物に出かける人々に利用されています。ある日の車中では、利用者たちが「家にいてもイノシシにしか合わんときもあるし」「そうじゃ、イノシシじゃ話し相手にならんもんな」と談笑していました。生活バスは、孤立しがちな高齢者たちの交流の場にもなっているのです。
生活バスの利用者数は増加する一方で、サービス活動収支差額は約200万円の赤字と、事業の継続には課題もあります。それでも、「憩いの丘」の川上健一事務長は「地域住民のためこれからもがんばりたいと思います」と話します。
運行は平日のみ、たった2台のバスですが、住民にとって欠かせない存在になっています。今後ますます過疎化と高齢化が進んでいくであろう社会にとって、公共交通機関と自家用車の中間のような「生活バス」の必要性は増していくかもしれません。

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