障害をもつ人に働くことの楽しさを伝えたい
2021.02.26

「国家資格取得」の目標設定で障害者に働きがいを

埼玉 障害福祉サービス事業就労継続支援ワークステーションみのり
Let’s SINC
単純労働が多くなりがちな障害者就労の現場で、働く人が意欲を持てるよう工夫し、成長をサポートする

日本国内における障害者雇用の現状

日本では長年、障害者の雇用に関する法律が制定されていませんでした。しかし終戦から16年後の1960年、国際社会に復帰した日本が世界の諸制度を学び、自国における障害者に対する取り組みの欠如を自覚したことで、「身体障害者雇用促進法」が制定されました。その後、1976年には身体障害者の雇用が義務化され、1987年に名称が障害者雇用促進法となって知的障害者も法の適用対象に加わり、1997年には知的障害者の雇用も義務化されるなど、時代とともに検証を重ねながら法整備が進んでいます。

最新のトピックスとしては、障害者法定雇用率の改正が決まりました。2021年3月1日より民間企業の障害者法定雇用率は2.2%から2.3%に引き上がります。これまで障害者を1人以上雇用する義務があるのは、民間企業の場合、従業員を45.5人以上雇用している事業主が対象でしたが、施行後は対象範囲が43.5人以上に広がります。新型コロナウイルス感染症が企業経営に多大な影響を与えている状況をふまえ、2カ月後ろ倒しの施行となりましたが、障害者の就労状況の改善にまた一歩前進しました。

働くための能力取得を目指す「就労継続支援」とは

一方で、一般の企業で働くことが難しい障害者を対象にした福祉サービスに「就労継続支援」があります。その対象や目的によって「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2つに分類されています(下表参照)。

これらの就労支援は障害者に働くための能力向上の機会を提供していますが、仕事内容が単純作業になりがちで、なかなかキャリアアップにつながらない場合が多いという問題も抱えています。
そんな中、利用者の成長につながる工夫をしている支援サービスの現場があります。埼玉県川口市にある障害者就労継続支援施設「ワークステーションみのり」で生活支援員を務める加藤史也さん(トップの写真)にお話を伺いました。

同じ業務を長年続けマンネリ化した利用者に、資格取得を提案

同施設はA型施設の「みらい」とB型施設の「みのり」、二つの事業所で構成されています。「いずれの事業所も、労働に対する利用者さんの興味・関心を引き出し、意欲を高めるかかわりは簡単ではありません」と、加藤さん。
一つのケースとして加藤さんが語ってくれたのは、知的障害を持つAさん(30代女性)と二人三脚で目指した、「国家資格取得」という挑戦でした。

「Aさんは精神発達遅滞でIQ72、療育手帳Cと軽度の障害で、理解力は高い人です。『みらい』の洗濯工場に勤務し、アイロンがけや洗濯物の畳み、乾燥機作業等を担当していました。

洗濯工場での普段の仕事風景

勤続7年目を迎えたころには、一通りの作業をこなせるようになっていました。半面、仕事がマンネリ化して労働意欲も作業量も低下している様子が見られました。相談支援専門員がモニタリングの際に、仕事上の目標があるか尋ねると、少し戸惑った様子で『特に考えたことがないです』と答えていました」

そこで加藤さんは「将来、クリーニング師の国家資格を取得して、新しく入ってくる利用者さんに作業を教えられるようにしたらどうですか」と提案してみたそうです。Aさんは多少迷いながらも、後日「チャレンジしてみます」と、やる気を伝えてくれました。以前に加藤さん自身が同じ資格を取得するために練習していた姿をAさんは見ていたので、少し興味を持っていたのだといいます。

目標設定で仕事への姿勢が前向きに

2019年11月のクリーニング師試験の受験を目標に、期間を2年間と定めて2017年11月から支援を開始。学科試験(衛生法規・公衆衛生・洗濯物処理の知識)と実技試験のうち、まずは実技が試されるワイシャツのアイロン仕上げから取り組みを始めました。

実技試験の練習の様子

練習開始時から、日々の成果とともに「どこが・どううまくできなかったのか」を具体的にメモに残し、改善点を明確にすることを意識しました、と加藤さんは当時を振り返ります。ワイシャツ1枚を仕上げるのに設定した目標タイムは8分30秒。当初は11分以上かかっていましたが、反復練習を継続し、徐々に上達していきました。「加藤さん、今日は8分20秒で仕上げられました!」と、うれしそうに報告に来るAさんの姿を思い出し、加藤さんも笑みを浮かべます。
はじめは週1回を目安にしていた練習が、自然と毎日欠かさず行われるようになりました。目標タイムを目指して意欲的に練習するようになってからのAさんは、普段の仕事に対する姿勢も少しずつ前向きに変わっていったそうです。

学科試験対策は、実技をある程度こなせるようになってからと加藤さんは考えていましたが、ある日、Aさんが毎日30分、自主的に試験勉強に取り組んでいることを知りました。支援がAさんの意欲向上につながったこと、支援の意図を理解したAさんが自ら学習を始めていたことを、加藤さんはとてもうれしく感じました。

試験結果は、残念ながら不合格となってしまいましたが、Aさんは実技試験に手ごたえを感じていたといいます。実技試験は、濡れた状態のワイシャツを、9分という短い制限時間でアイロンの熱で乾かしながら美しく仕上げるという、健常者でも十分な訓練が必要なものでした。加藤さんも「よく頑張ったね」とAさんの頑張りを称賛しています。

Aさんは次の試験にも挑戦する意気込みを示し、集中して仕事や勉強に取り組んでいます。「国家試験合格」という目標ができたことで、Aさんの仕事へのモチベーションはぐんと上昇したのです。目標をつくり、それに向けての努力をサポートする。シンプルな工夫ですが、障害者の就労支援に大きな役割を果たしています。

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