罪を犯した人が更生できる社会をつくりたい
2021.02.19

人間は変われると信じて――元受刑者が更生できる社会づくり

済生会山口地域ケアセンター/千房株式会社
Let’s SINC
元受刑者を雇用の面からサポートし、更生できる仕組みを整えるとともに、再犯防止にも貢献する

犯罪防止のためには元受刑者の雇用が課題

過去に罪を犯して服役し、刑務所などから出た人のうち、5年以内に再び刑務所に戻る割合は48.2%。そのうち71%が無職です。金銭的な問題を抱え、生活に行き詰まっていると、再び犯罪に手を染めやすくなるためです。元受刑者の再犯防止のためには、雇用の確保がとても重要です。
しかし、元受刑者を採用してくれる企業はなかなかいません。過去に罪を犯した人がしっかりと働いてくれるのかという不安があるほか、従業員や取引先、地域住民などから理解を得るのが困難なのです。
そんな中、積極的にこの問題に取り組む人々がいます。お好み焼きチェーンを運営する千房株式会社の中井政嗣(まさつぐ)会長(写真右)と、複数の病院や介護・福祉施設を運営する済生会山口地域ケアセンターの篠原栄二特別顧問(写真左)。ジャンルは違えど、ともに元受刑者の就労支援に取り組む2人の活動を紹介します。

元受刑者を採用し続けるお好み焼きチェーン

大阪・難波に本店があるお好み焼きチェーン「千房(ちぼう)」では、1973年の創業当時から元受刑者の採用を実施。現在までに42人を採用しました。

大阪・難波の千日前商店街にある「千房」本店

同社の中井会長によると、きっかけは創業時の人手不足だそう。
「創業した時は人手不足が大変で、応募してきた人は経歴も問わず、即採用しました。ある時、社員寮に行ってみると、店長がアルバムを見せてくれました。若いあんちゃんが鉢巻きしてオートバイにまたがり、棒を持って写っている。『これ誰?』『私です』。彼、暴走族のヘッドだったんです。その時『人間って変われるんやな』と思いました。初めは知りませんでしたが、彼らは立派に更生し、店長や幹部になっていく。その姿を間近で、この目で見ました」

中井会長の人生哲学は「人は誰でも無限の可能性を秘めている」

その後、継続して元受刑者の採用を行なうようになった中井会長。最初は採用した人が職場に定着せず、失敗続きでしたが、「ルールの大切さを伝える」「金銭出納帳をつけさせる」などさまざまな工夫をし、徐々に定着率は上がっていきました。
2013年には、千房を含む大阪府下の企業7社が集まり、日本財団の支援のもと、「職親(しょくしん)プロジェクト」を立ち上げました。職親プロジェクトは、企業が元受刑者を採用するだけでなく、一人ひとりに合った職業を一緒に探す取り組みです。就職したけれど仕事内容が合わなかった場合や、新しい職種・業種に挑戦したい、という場合に、参加企業の中で仕事を紹介し合うのです。現在職親プロジェクトは全国で174社にまで広がり、これまでに内定した元受刑者は延べ200人を超えています。

介護・福祉の現場と刑務所が連携

済生会は生活困窮者支援事業「なでしこプラン」の一環として、元受刑者への支援を行なっています。山口県内で病院や介護・福祉施設の運営を行なう「済生会山口地域ケアセンター」でも、2015年から山口刑務所と連携した「やまぐち再犯防止プロジェクト」に取り組んでいます。プロジェクトでは、出所後に介護・福祉の職場へ就労を希望する受刑者を集め、2017年度まで介護職員初任者研修を実施。初任者研修が修了してからは、より専門性の高い実務者研修を行なっています。研修では資格取得から就労に至るまで一貫してサポート。現在の修了者は両研修併せて100名以上となり、12名が採用されています。また、同センターへの就職を希望する人のため、刑務所に出向いて採用試験を実施。2020年までに2人が採用されました。
服役中の受刑者を社会と交流させる取り組みも行なっています。刑務所内の職業訓練で理容師の資格を取得した受刑者が、寝たきりなどで散髪に行けないセンター利用者の髪を切る、というものです。同センターの篠原特別顧問は、「月1回のペースで当センターを訪問してもらい、少しでも受刑者に社会のありがたみを分かってもらえるようにしています」と話します。

篠原特別顧問は「全国済生会刑余者等支援推進協議会」の会長も務める

刑務所と職場が連携し、服役中から社会に出る準備を進めることで、出所後に就労しやすくしているのです。

社会に受け皿を作ることの大切さ

元受刑者は、精神的な問題を抱えていたり、薬物やギャンブルの依存症があったりして、実際に就労に成功しても職場に定着できないケースが多くあります。それでも、こういった就労支援の取り組みは着実に広がり、成功事例も少しずつ増えています。
元受刑者に対する社会の偏見は依然としてありますが、まずは社会が受け皿を作ること。彼らの存在を認め、やりがいや生きがいを支えていくことが、元受刑者が更生し、再犯しない世の中への近道なのではないでしょうか。

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