悩みをもつ人が「ここにいてもいいんだ」と思える場をつくる
― YouthLINKは、ライフリンクのバックアップを受けて活動しているのでしょうか?
玉木はい。活動には3つの柱があります。1つ目が、「集いの場」である「Voice Sharing(ボイス・シェアリング)」です。月1回、第3土曜日に千代田区で開催しています。2012年3月の第1回から、2017年8月で合計69回を迎えました。参加者数はのべ280人です。
2つ目はメディアの取材や、学校への広報など、学生のリアルな現状を発信したり、悩んでいる学生へ私たちの活動をアプローチする「伝える場」で、3つ目は「議論の場」です。さまざまな立場による意見交換会を開催しています。
― さまざまな活動をしているんですね。
松村活動の軸は「Voice Sharing」です。参加者同士が輪になって座り、悩みや生きづらさを感じている人たちが語り合う場です。大学生、大学院生、短大生、専門学校生を対象にしており、年齢制限はなく、学生であればだれでも参加できます。できるだけ、開催場所と時間は固定するようにしています。同じ時間、同じ場所に変わらない居場所がある、ということが大事です。平均して4~5名の参加者にYouthLINKの2人が加わります。
― 車座になって、順番に話していくのでしょうか?
松村2つのルールがあります。1つは、ここでの話はその場限りであること、もう1つは言いっぱなし・聞きっぱなしということ。ここで話されたことは口外しないという約束事があることで、参加者は安心して自分の思いを話せます。また、聞く側にもいろいろな受けとめ方がありますし、その意見を評価することが適当ではない場合もあります。そのため人の話に耳を傾け、傾聴することが重要です。
― 参加者が、安心して悩みを話せる場なんですね。
松村緊張して話せない、という方もいますから「沈黙の時間も大切にしましょう、リラックスしてくださって大丈夫ですよ」と話しています。“トーキングスティック”という工夫をしており、私たちはぬいぐるみを使っています。これを持った人だけが自分の悩みを話し、他の人は聞くことだけに専念します。これによって言いっぱなし・聞きっぱなしの状況が徹底できます。終わった後に「楽に話せた」と振り返る方もいます。
― 人前で話すことが苦手、という参加者もいるでしょうね。
松村そうした場が日常で欠如しているという背景があると私たちは考えています。周囲の無理解もありますし、学生同士が遠慮してしまって、なかなかオープンに話しづらい。また「生きづらさ」を説明するのも難しい。自分が何に悩んでいるのかがあいまいで、悩みの言語化にも苦戦する方が多い。そうしたことから負のスパイラルに陥っていくんです。「Voice Sharing」は当事者同士が知り合いでないからこそ、普段抱え込んでしまう悩みをピア(仲間)と共有できます。また、言いっぱなしと聞きっぱなしのルールにより、うまく表現できなくてもお互いの悩みを言葉にできて、共有することができます。そうした中で「気づき」や「安堵」が生まれます。「ここにいてもいいんだ」と思うことで次の一歩につなげてほしいと考えています。
― 始まる前と終わった後、参加者に変化はありますか?
松村午後1時45分から受付を開始し、2時に始まり、4時に終わります。途中10分の休憩を入れてリラックスしてもらいます。会場自体は4時30分まで使用可能なので、終わった後の30分で何気ない話をして、余韻を分かち合う時間も重要です。
玉木始める前にものすごく緊張していた方が、終わった後の時間にリラックスしていたときは、その人にとっていい回だったんだと感じてうれしいです。
― 今、実際に活動しているのは何人ほどですか?
松村実質的には私たち2人です。あと会場の準備などでOB・OGの方々にお手伝いをいただいてます。また、普段のミーティングや練習にも協力していただいています。
― 練習はどのように行っているのでしょうか?
松村実際に「Voice Sharing」をしている形でのロールプレイングをやっています。
― お2人は大学4年生で、現在は就職活動中だということですが。
松村今、後継者を探しています。継続するためにはメンバーを増やしていくことが課題です。
玉木現役の学生から加入の問い合わせもいただいていますが、まだ決まってはいません。かなり厳しいなと感じています。
― 人数が増えていかない原因はあるのでしょうか?
松村こういう活動をしていることを、広く伝えきれてないことだと思います。ただ、今は毎月の活動を継続して行うことで、精いっぱいの部分もあります。
玉木以前、出張「Voice Sharing」みたいな形で活動の枠を広げようとしたときもあったようですが、広げたいという気持ちが先行して、足元の活動がおぼつかなくなってしまったみたいです。そこで、今は「Voice Sharing」を地道に続けていく路線を取っています。
― YouthLINKと近い活動をしている大学のサークルがあれば、学内の文化部連合などと連携できそうな気もしますね。
松村はい。今、ちょうど大学のボランティアセンターに働きかけをしていく準備をしているところです。
― 「Voice Sharing」ではどのような話が出ていますか?
松村口外をしない約束なので具体的なことは言えませんが、活動を通して調べていくと、友人や親、家族との人間関係や、進路、コミュニケーションの悩みが多いように感じます。
― 一人暮らしをしている人も多いと思うのですが、家族間でもまだ問題を抱えている人が多いのでしょうか?
玉木今というよりは、幼い頃から続いてきて、吐き出せずに押し込んでいたものが出てくるということもあると思います。
― 友人間の問題というのは?
玉木大学生になるといじめというのはあまりないですが、サークルで活動する際になじめず、学校に行くモチベーションがなくなるということがあります。
松村相手のことを気にしてしまって、嫌われるのが怖いとかで気を使い過ぎて人間関係がうまく築けない。場所によってつながりが薄くて、密な関係が築けない。逆に狭い環境で、関係が密になりすぎてつらい、ということも。
― そういう方には「Voice Sharing」が効果を上げそうですね。
松村参加した後にアンケートを取るのですが「こうした場が必要とされている」と感想を書いていただくとうれしいです。自分が必要とされている実感も得られます。
― リピーターの方は多いですか?
玉木毎月というよりは、3カ月に一度くらいのペースでいらっしゃる方が最近は多いですね。
松村特に予約などは取らず、来たいときに来るというスタイルを取っているので、気軽に来られるのかな、と思います。
― 松村さんがこちらに来たきっかけは?
松村私自身が当事者で、生きづらさを感じて、休学しようかと悩んでいました。そんな中、ネットで調べたりしていたらライフリンクに行き当たり「Voice Sharing」という活動があるのを知りました。最初は参加するのにすごく勇気がいりましたが、参加してみんなの意見を聞いて「悩んでいるのは自分だけじゃないな」と心が軽くなりました。
― 松村さんは自分の希望校に入れたのでしょうか?
松村大学も学部も希望通りのところに入れましたが、周りのレベルも高く、授業についていくのも難しい。サークル活動が大人数ということもあって、なかなか居場所が作れなかった。1年生の6月、7月あたりで「この居場所を失ったら自分自身の大学生活が終わってしまうんじゃないか」という強迫観念にかられた。無理に友達と合わせて、気のいい、自分とは違う面を演じ続けているうちに、つらいと思うようになりました。
― 大学に入ってからは一人暮らしを?
松村はい。孤独感もありました。自分自身で大学生活をうまくやっていかなければいけない、という理想像みたいなものがあって、それに合わせようと無理をしていました。
― でも休学までには至らなかったんですね。
松村1年生の頃はつらくて無気力になってしまって、長期の休みで寝たきりになってしまった。でも1年でサークルをやめ、勉強に専念してクラスの友達と遊んだりするうちに、徐々に改善していきました。1年生の終わり頃に「Voice Sharing」へ行ってからは、今のままでもいいんじゃないかと思えるようになりました。
― 玉木さんはどんな形でYouthLINKを知りましたか?
玉木大学3年生の春にユースリンクの活動に関心をもっていただいていた先生の講義で「Voice Sharing」のチラシが配られたんです。そこに書いてあった「生きづらさ」という言葉に共鳴しました。私の場合、中学のときに人間関係の問題がありました。それを高校のときまで引きずっていて、生きづらさを感じていました。そんなときに、保健室の先生に話を聞いてもらって救われたことがあって。私のあいまいな気持ちを、ただ聞いてくださったのが、すごくよかった。そこで意見とかを言われたら反発していたと思います。
― その先生は傾聴のプロですね。
玉木そうした経験もあって、自分の悩みを話せる場が必要だと感じていました。
― 「Voice Sharing」が非常に意義のある活動だということはよく分かります。これを維持していくための課題はありますか?
松村こうした活動を知ってもらうことですね。ただ、知ってから一歩踏み出すというのもまた難しい。ここが安心できる場であることをまず知ってもらわないと。
― HPやSNSなどの効果は大きいように思います。
玉木私もHPを見ていて半年ぐらい参加する決心がつかなかったのですが、メンバーの声を読んで、ようやく行く気になった。そうしたものを発信していくのが大事だと思います。このインタビューページでも募集のことを告知していただきたいです。私自身、活動に関わることで気持ちが救われる部分があります。自助グループの意味合いもあるので、そういう気持ちで活動に加わっていただきたいです。
― 最後に、これまでの活動で印象に残っている場面はありますか?
玉木もうすぐ学生じゃなくなる方が「これでもう来られないんだな。また来たいけど」って言われたことがあります。そのとき、こういう場所は大事なんだ、と改めて思いました。
(聞き手=小川 朗 <ジャーナリスト>)
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