病院と救急隊の協働で住民の命を守りたい!
2023.06.19

三次救急の新形態!
住民80万人の命を守る「常駐型救急ワークステーション」

埼玉 済生会加須病院
Let’s SINC
救急隊員が病院に常駐し、救命センターと密に連携することで救命率向上と地域完結型の救急医療体制を目指す

病院に救急隊員が常駐する地域初の救命救急センター

地域を守る救急病院には、症状の重さや緊急度に合わせて役割があります。中でも特別な症例、心肺停止などの重篤疾患、救急隊員が特に重症と判断したケースに対応する病院は「三次救急医療機関」に分類されます。

埼玉県・済生会加須病院は、加須市とその周辺地域(利根保健医療圏)で唯一の三次救急医療機関。 2022年6月に、同医療圏初の救急救命センターとして新設移転しました。同院の前身は、隣接する久喜市で33年間運営していた済生会栗橋病院。 今回の移転を見据え、三次救急医療機関ではなかった前病院時代から2年間にわたって救急医療の機能強化に取り組んできました。

センター長の速水宏樹医師は準備期間を振り返り「救急車が患者さんを乗せても搬送先の病院がなかなか決まらないなど、困難事例も多い状況だと聞いていました。新センターでは“地域完結”の救急医療体制を築くことを目指しました」と話します。

「加須病院の救急救命センターの最も大きな特徴は、埼玉県内初となる『常駐型救急ワークステーション』です。通常は消防署で待機している救急車と救急隊員が病院に常駐しているため、患者さんをよりスピーディーに搬送することができます。医師などから救急隊員に直接処置の指導ができることも大きな利点です。救急隊員がより高度な知識や技術を獲得することで、救命率の向上にもつながります」(速水センター長)

救命救急センター速水宏樹センター長
埼玉県から三次救急指定を取得し、広域から患者さんが搬送される救命救急センター
救急隊員が24時間365日常駐するワークステーション内の様子

「顔の見える関係」でスキルも向上

埼玉東部消防組合消防局の坪井忠美課長 は、この体制について「24時間365日の常駐体制なので、季節や時間帯特有の症例なども幅広く学ぶことができる」と、救急隊員のスキルアップの場としても大きな期待を寄せています。

「お互いの顔が見えるので、救急隊員とのコミュニケーションを深めるという意味でも利点がある」と速水センター長。
「傷病の緊急度や重症度に応じて治療優先度を決めることをトリアージと言いますが、医師や看護師がどの症例にどう対応しているのか、救急隊員が間近で見て理解すれば、判断や処置は確実にレベルアップします。救急隊員が患者さんの状態を過小評価するアンダートリアージも、救急医療機関に負担をかけるオーバートリアージも減る」と救急隊員の指導教育にも熱心です。

搬送患者さんの初療には、救急隊員3人と研修隊員1~2人が参加しています。坪井課長は「多数の隊員が初療の場で研修できる環境は、地域全体のプレホスピタルケア(病院に搬送される前に行なう救護)の充実や強化につながる」と近い将来さらなるメリットが得られることを感じています。

「救急救命士には、医師の指導があって初めて実施できる処置があります。例えば気道確保などの特定行為も指導下であれば対応できる。常にマンパワー不足の救急現場は助かっています」と速水センター長。そのため初療室では、積極的に救急救命士に声をかけて指導を行なっているそうです。

「救急医療について学ぶことは、住民の命を守るチーム医療の一員として当然」と話すのは、救急救命士の指導を担う指導救命士の木村理敏さん。医師とともに救急隊員も積極的な姿勢で取り組んでいることがわかります。
さらなるスキルアップの一環として、救急隊員は速水センター長が毎月行なう「救急隊員向け勉強会」で各科の医師・専門職の講義を受けるほか、院内勉強会にも参加しています 。

本部からの指令や救急車の車両状況、位置を把握する署所端末など、消防署と同じ指令システムを設置
埼玉東部消防組合消防局 坪井忠美課長

指導救命士 木村理敏さん
病院・消防・救急隊の連携を深めるディスカッション

地域全体の救急医療を強化したい

先進的な取り組みが功を奏し、加須病院の救急車搬入数は二次救急だった栗橋病院時代を大幅に上回るペースで増加。2022年度は三次救急の受け入れ数620件を含めると5060件で前年度比120%でした。

「当センターでは心筋梗塞や脳梗塞などの高齢者救急の受け入れが多く、救命に加え、終末期医療との関わりが今後の課題です。ACPの推進など、終末期における意思決定について患者さんや家族、 また、医療従事者側にも理解してもらうための取り組みを進めることが必要です」(速水センター長)

救急隊員との連携はもちろん、救命後の患者さんの地域生活を支えるためには、病院同士のつながりも大切と語る速水センター長。自損行為での救急搬送など、精神的なダメージがバックグラウンドにある患者さんへの対応として、週に一度済生会鴻巣病院の精神科医師を招く取り組みも行なっています。

センターは2023年6月で開設一年を迎えました。地域住民の安心安全を守るために、センターが掲げるこれからの目標は「地域全体における救急医療の強化」。地域住民80万人の命を守るため、今後も新たな三次救急医療機関のありかたを模索していきます。

常駐する救急車に医師が同乗する「ドクターカー的」な運用も視野に入れている

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