生活が便利になる買い物バスで地域の輪をつくりたい
2023.11.08

病院送迎車を有効活用!買い物バスを人がつながる場所に

神奈川 済生会神奈川県病院
Let’s SINC
病院にある送迎用車両の空き時間を、地域の高齢者や妊産婦の困りごと解決に活用する

“買い物難民”を救うネットワークをつくろう!

神奈川県横浜市内でも山坂の多い場所に位置する済生会神奈川県病院。同院を利用する患者さんが住む地域は坂道が多く、高齢者が外出しづらいとことが課題となっていました。

そんな実情を踏まえ、2021年10月からスタートしているのが、地域住民の買い物支援を目的とした無料シャトルバスの運行。町内会や社会福祉協議会と連携して取り組んでいます。医療福祉相談室に所属する医療ソーシャルワーカーの鎌村誠司さんは、シャトルバスの運行は、病院に寄せられた“とある相談”がきっかけだったと話します。

「スタートのちょうど1年前の2020年10月頃、地域包括支援センターの方から、『買い物に不便を感じる高齢者を何とか支援したい』というお話が病院にありました。偶然、当院でも『透析患者用の送迎車両を送迎時間外に有効活用できないだろうか』と考えていたところで、送迎車両を買い物バスとして使うというアイデアが生まれたんです」(鎌村さん)

済生会神奈川県病院医療福祉相談室の鎌村誠司さん(医療ソーシャルワーカー)

当時、同地域では、住民にとって貴重な移動手段だったバス路線の廃止などもあり、いわゆる“買い物難民”とよばれる世帯が増加。日常生活に困難が生じている住民への支援を目的に、まずは坂道の上にある斎藤分町での取り組みがスタートしました。

2021年3月には、斎藤分町南部町内会、社会福祉協議会、地域包括支援センターが協働し、町内会長を代表者とした「買い物支援ネットワーク」を発足。メンバーとして同院も参加し、民生委員、近隣にある神奈川大学の学生ボランティア、社会福祉協議会職員などと一緒に、バスの運行に取り組むことになりました。

買い物支援ネットワークのメンバーで、運行スケジュールについて打ち合わせ

住民のアイデアで楽しい「買い物バス」に

運行ルートは「買い物支援ネットワーク」メンバーが実際に町内を歩いて検討。大学の学生寮や美容室、スーパーマーケットなど、5カ所にバス停留所を設置しました。スケジュールは、神奈川県病院の隣にある大型スーパーまでを1日2往復。 乗車予約の受付は地域の民生委員が、バスの添乗員は大学生ボランティアが担当します。

山坂の多い地域を走る買い物バス

バスの定員はドライバーと添乗員を除く8人。バスの運行について、回覧板や掲示板で地域住民に知らせると、試験運行期間中から、毎回ほぼ満席の状況が続きました。そのため、当初は年度内に4回のみの運行計画でしたが、2022年度からは頻度を増やし、月に1回の運行に増便しています。最近の様子について鎌村さんはこう話します。

「利用者さんから『もう少し遠くのスーパーへ行きたい』といった声をいただき、皆さんにどんな希望があるのかアンケート調査を実施しました。アンケートを踏まえてみなとみらい地区にある大型スーパーへ行先を変更したところ、大変喜んでいただきました」(鎌村さん)

「お花がきれいねー」と話す利用者の皆さん。買い物中もお互いに会話が弾む

“地域の足”としてだけでなく“交流の場”

「なかなか買い物に出かけられない高齢者のために」という思いでスタートした買い物支援。実際に買い物バスの運行をはじめてみると、いつの間にか、高齢者だけでなく、妊婦さんや小さいお子さんを抱えた地域住民の利用も増えていたといいます。実際にバスに乗り合わせた住民同士で後日一緒に買い物にでかけるなど、地域のつながりづくりにも一役買っています。

「さまざまな住民が利用する買い物バスは、“地域の足”としてだけではなく、利用者同士の自然な語らいが生まれ、世代間の交流の場としても機能していることに大きな価値があると感じています」(鎌村さん)

車内はいつも楽しそうに会話する利用者さんたちの笑顔であふれていると鎌村さん。バスに同乗する民生委員の方からも「まとめ買いをなさる方、足が悪くてなかなか買い物に行くのがつらい方、坂を荷物を持ってあがれない方、自転車で行けるけど重いものを買いたいので利用された方、みんなで一緒に買い物に行くのが楽しみな方、それぞれが楽しく買い物をしています」と声が届いています。

最近は小さな子どもを連れて利用する方も増えてきた
重い荷物を持って手助けをするなど、乗降のサポートも行なう

現在では、近隣の済生会東神奈川リハビリテーション病院も車両の提供に協力し、地域での広がりを見せているこの取り組み。コロナ禍によって外出や人との接触の機会が減ってしまった現在だからこそ、地域で連携しながら取り組む買い物支援が、地域住民の交流と笑顔を取り戻す役割を果たしています。

買い物支援ネットワークのメンバーは、2カ月に1回、行き先についての話し合いや利用者さんの声を共有する打ち合わせを実施

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