“お茶のみコミュニケーション”で職員も利用者もいきいき
2023.12.06

介護現場の「心のゆとり」が職員と利用者さんの笑顔をつくる

Let’s SINC
働き方を改善し、職員のモチベーションを上げてよりよい介護サービスを提供する

介護現場が抱える深刻な「人手不足」

介護の現場では、高齢化によって年々利用者が増え、介護需要が高まっている一方で、深刻な人手不足が起きています。公益財団法人介護労働安定センターが毎年実施している「事業所における介護労働実態調査」によると、人材が「大いに不足」「不足」「やや不足」していると回答した事業者は、2021年時点で63%。6割以上が「不足感」を抱いている状況です。この課題を解決するためには、新たな人材を育成するだけではなく、今ある介護の現場において、働きやすさや、継続して仕事が続けられる環境をつくることも大切です。

こうした課題を受けて、厚生労働省では、高いサービスを提供できる介護人材を確保していくためにさまざまな取り組みを実施しています。例えば、朝夕のみのように柔軟な勤務時間を選択できたり、兼業・副業ができたり、多様な働き方を取り入れる事業者の支援も行なっています。

介護職員からの声をもとに働き方改善に取り組んでいるのは、山形県山形市にある「介護老人保健施設フローラさいせい」。病気や怪我による入院治療を終えた人など、要介護1以上の認定を受けた高齢者が入居し、リハビリを通して、家庭復帰を目指す介護老人保健施設です。定員100名に対し、常駐する医師や看護師を含め80人の職員が働いています。働きやすさの向上のために職員たちが注目したのは、利用者さんとの“コミュニケーション”でした。

職員へのアンケートから生まれた2つの取り組み

介護の基本はコミュニケーション。利用者さんと職員が遠慮なく話し合えることが大切ですが、日々の業務に追われ、利用者さんとの会話を止めざるを得ないこともあると話すのは、支援相談員の岩城伸幸さん。2022年7月、同施設の介護職員を対象に行なったアンケートの結果をこう振り返ります。

「アンケートを通して、職員の多くが『人や高齢者が好き。もっと関わりたい』という一方で、心にゆとりがなく、利用者さんによりよいサービスが実現できていないと感じていることがわかりました。利用者さんの笑顔を引き出すためにはまずは介護をする職員の心のゆとりが必要ではないか――。そう考えて、『心のゆとり 10分間のごほうび』と『お茶のみすっべ』という2つの取り組みを、現場が主体となり企画しました」(岩城さん)

2つの企画に取り組む介護福祉士の皆さんとお話を伺った支援相談員の岩城伸幸さん (写真左上)

介護職員へ向けた業務についてのアンケート

「心のゆとり 10分間のごほうび」は、毎日1回10分間、介護職員が利用者さんとコミュニケーションを取るためのもの。職員が一人減っても周りでフォローできるように、まずは10分という時間を設定しました。利用者さんの希望を聞きながらお茶やおしゃべり、整容や美容、昔遊びを楽しむなど内容はさまざま。利用者さんと関わり、職員の気持ちにゆとりをつくることが目的です。

この時間は利用者さんとの関わりに集中するために、PHSやインカムはなるべく使用しないのがルール。職員名と実施予定時間を事前に共有し、担当する10分間に他の業務が回らないように周囲の職員が協力しています。実施後には誰とどのような遊びや関わり方をしたのかを記録し情報を共有します。

また、お茶を飲みながらのんびり会話をすることは、高齢者の楽しみとなり、日々の活力になるのではないかという考えから企画された、懐かしの昔遊びを職員と一緒に楽しむ「お茶のみすっべ」も好評です。利用者さんにアンケートした結果を参考に、職員がお手玉やかるた、おはじきなどの昔遊びのメニューを作成。その中から好きなものを一つ選んでもらい、毎日約30分実施しています。日誌では、実施中の利用者さんの「笑顔」「意欲」「会話」の3つの項目について5段階評価で記録しました。

「心のゆとり 10分間のごほうび」で髪も指先もきれいになり、「30歳若くなったみたい」

利用者さんと介護職員がどちらも笑顔に

2つの企画の結果を見ると、利用者さんはお茶を飲むことで会話のきっかけができ、生活に“メリハリ”や“やりがい”が生まれたことで、利用者同士の交流や離床時間が増えるなど意欲の向上が見られました。日中の余暇活動を充実させ、なんとなく寝て過ごしがちな利用者さんの参加を促すことで、ナースコール対応の軽減につながるという効果も。そのほか、見守りの機会が多い食堂にタブレット端末を配置することで利用者さんの状態を記録ができるようになったり、各種アプリを活用してレクリエーションの幅が広がったりと、試行錯誤しながら業務のやり方をアップデートしました。

介護職員たちにとっても、コミュニケーションを通して利用者さんの笑顔を引き出せたことが大きなモチベーションに。取り組みを実施するために、全体の業務体制を見直したことで、職員の負担軽減・効率化にもつながりました。利用者さんとのコミュニケーションを増やそうと取り組んだ結果、介護職員の業務のあり方や職場環境などのさまざまな改善が生まれたのです。

「お茶のみすっべ」の実施風景。あやとりやお手玉など、懐かしの昔遊びに夢中!

職員が心にゆとりを持てる環境づくり

介護職員たちは、「たった数十分の関わりでは利用者さんとの信頼関係が急激に進展したとはいえませんが、継続することで利用者さんと職員との溝が埋まっていくと感じている」と話しています。

「利用者さん同士が、塗ってもらったネイルを見せ合って、『ほら見て!』と会話を弾ませたり、表情を輝かせる様子を見て、職員もやりがいを感じたようです。活動の習慣化で居室に籠りがちな利用者さんの活動量が増えたのもよい影響の一つ。現状では思い描いている姿と現実のギャップを感じる場面もありますが、多くの職員が業務改善の結果を実感しています」(岩城さん)

介護職員たちの間に、「まずはやってみよう」という雰囲気があったことで実現した「心のゆとり 10分間のごほうび」と「お茶のみすっべ」。よい結果が実感できたことで、ちょっとした気づきを気軽にコミュニケーションできる環境になり、安心して意見を言える現場になってきたとのこと。現在も引き続き、利用者さんとの触れ合う時間をより増やすために、無理なく動けるシフトを作成し、急なナースコールやヘルプの連携を取り合いながら臨機応変な対応を心掛けています。
さらに今後は、終末期や経管栄養の方など、生活の大半を居室で過ごされている利用者さんとの関わりの機会も増やしたいという現場からの前向きな意見も。それぞれに合わせた手作業やレクリエーションなどのレパートリーを増やし、飽きがこないように続けていきたいと話します。

そのためにもフローラさいせいでは、引き続き職員がやりたいことに挑戦できる環境づくりや、周囲からの応援を受けられる「面白そうな」「やりがいのある」職場の実現に取り組み続けます。

「お茶のみすっべ」での利用者さんと介護福祉士の萩原大輔さんのツーショット。懐かしのお手玉遊びに「何十年ぶりだけど楽しいね」とうれしそう
初めてスライムを触り、「しゃっこくて(冷たくて)気持ちいい」と笑顔を浮かべる利用者さんと介護福祉士の鈴木愛花さん

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