子どもたちの「できた!」を将来の自立につなげる発達支援
地域の保護者の安心を支えたい
発達障害や心身に障害を抱える子どもたちは、日々の生活に特別な手助けや見守りが欠かせません。そうした子どもたちと保護者は、専門家に相談したり、日常生活での基本的な動作の指導を受けたり、家庭の外で受けられる療育や支援を必要としています。
「多機能型障害児通所支援事業所」とは、地域にある身近な施設として子どもたちのサポートを行なう場所。子どもたちの発達を促し、将来を見据えながら、地域での暮らしに適応できるよう支援することを目的としています。児童発達支援と放課後等デイサービスなど、複数の機能を併せ持ち、途中で就学しても同じ施設で支援を受け続けられることも大きな特徴です。
北海道小樽市にある「発達支援事業所きっずてらす」も多機能型障害児通所支援事業所のひとつ。存在を知ってもらいやすく、地域に住む親子が気軽に訪れられる事業所を目指し、2021年に大型商業施設「ウイングベイ小樽」にある市民のための健康福祉ゾーン「済生会ビレッジ」に開設されました。
きっずてらすが展開している障害児通所支援サービスは、未就学児対象の「児童発達支援」、小~高校生の就学児が対象の「放課後等デイサービス」、近隣の保育園や幼稚園などの施設を訪問して専門的な指導を行なう「保育所等訪問支援」、外出が困難な障害児の居宅を訪問して訓練を行なう「居宅訪問型児童発達支援」の4つです。
発達障害の診断を受ける子どもたちは年々増加傾向にあり、きっずてらすの利用者も開設から半年経たず200名を超えてほぼ満員に。そのような地域でのニーズを受け、翌年にはきっずてらすの隣に2つ目の事業所「きっずてらすDuO(デュオ)」を開設しました。
DuOができたことで、きっずてらすではみどりの里と連携し、人工呼吸器や胃ろう、たんの吸引など、日常的に医療処理が必要となる医療的ケア児の通所サービスを提供を開始。医療的ケア児の通所の際には、みどりの里から看護師が派遣されます。2023年現在では、両施設合わせて1日あたり約20人の子どもの通所を受け入れています。
“ソーシャルスキルトレーニング”で社会性も育む
きっずてらすに通う子どもたちが行なっているのは、挨拶、体操、運動、制作など複数のテーマに沿った個別のプログラム。 各々が持つ特性に合わせた活動の立案や準備、進行を保育士が担当し、作業療法士や言語聴覚士が専門的な支援を担当します。
“小さな集団の中で力を発揮できる”ようになるため、それぞれの能力に合わせて難易度を変えながら全員が同じ課題を実践する方法も取り入れています。一緒に取り組むことで、同時に社会生活に必要なソーシャルスキル(コミュニケーション能力や感情をコントロールする力)を育みます。
「例えば、友達に手を出してしまったお子さんがいた場合、なぜそのような行動をしたのかを支援員と一緒に考えます。嫌なことをされたのか、近くに来てびっくりしてしまったのか、さまざまな理由があります。一方で、それを伝える手段として「叩く」という方法は不適切だと伝え、まずは“手を出してしまったこと”に対して謝ることを教えます。そのうえで、感情をどう伝えれば良かったのかを一緒にロールプレイングで学んでいきます」そう話すのは、きっずてらすの運営を担う認定作業療法士の小玉武志さん。
「特にASD(自閉スペクトラム症)のお子さんは、このソーシャルスキルが課題となるケースが多くみられます。そのようなお子さんには、実際に職員のロールプレイを見せて、子どもたちに良い点や悪い点、解決策の意見を出し合う方法を実践しています。その後に子どもたち自身に同じ場面の“模範例”のロールプレイをやってもらい、体験しながら学ぶ機会をつくっています」(小玉さん)
“褒める”ことで生まれる良い連鎖
きっずてらすの職員が子どもたちとの関わりの中で特に大切にしているのは“褒める”こと。問題行動をしてしまう子どもに対して、つい「ダメ」という言葉を使ってしまいがちですが、それでは行動を否定しているだけになってしまうため、明確に「どうしてほしいのか」を伝えるようにしていると保育士の朽木郁代さん、村上彩さんは言います 。問題の多い子どもに対して「注意」が多くなることは、誤学習を引き起こす原因にもなるのだそう。
「少人数の集団の中で『できた』という経験を積み重ねて自信につなげるには、その子自身が今できること、できるようになったことに着目して具体的に褒めることが大切です。子どもの状況や『やってみたい』という気持ちを見逃さず、活動での課題設定にも反映させ、本人の『できた!』につなげるよう心がけています」(朽木さん)
「褒めることで、その子の適切な行動が増えるだけでなく、その様子を見ていた周りの子も『こうすれば褒めてもらえる』と理解し、適切な行動が増えるという“良い連鎖”が生まれています。わたしたち保育士も、褒めることが確実に成長へつながっていることを日々実感しています」(村上さん)
生きる力を支援するお仕事体験プログラム
きっずてらすでは、一人ひとりの子どもたちが社会に出たとき、“自分で生活できる力”を身に付けるという目標を掲げ、「自分の力でできる」経験を増やす支援に力を入れています。2023年8月には、3施設目となる就労を含む自立支援特化型「きっずてらすDive(ダイブ)」がオープン。小学校高学年から中・高生を対象に、“お仕事体験プログラム”などを行なっています。
「きっずてらすDiveは、ウイングベイという大型商業施設の中にあるという立地を活かし、専門店と協力したお仕事体験を提供しています。eスポーツやプログラミング、MOS資格など、子どもの興味関心に合わせた体験のほか、デジタルリテラシーやマネーリテラシーといった自立生活に必要なスキルの獲得を支援しています」(小玉さん)
現在はウイングベイの店舗スタッフの仕事の一部を子どもたちがお手伝いさせてもらう業務を計画中。店舗の品出し後の梱包物を廃棄する具体的な作業のほか、「付箋とペンを一緒にしまえるペン立てがほしい」という依頼から、使いやすさやデザインを自分たちで考え、制作するといった“ものづくり”の活動も行なっています。すべてのお仕事体験は、疑似通貨を得るまでがセット。疑似通貨を使って事業所内での買い物もできるのだそう。消費まで体験をもとに、お金の使い方や貯め方なども身に付けることができると小玉さんは話します。
発達支援を提供する新しい「保育園留学」
開設からわずか3年で、障害を抱える子どもたちの療育から自立までをフォローする3施設を展開してきたきっずてらす。2023年7月からは、新たなと取り組みとして日常から少し離れた地域と保育園で、のびのびと子育てができる暮らし体験プログラム「保育園留学」をスタートさせています。小樽市内の一棟貸しヴィラに泊まりながら、1〜2週間きっずてらすを利用することができるしくみで、保育園留学で発達支援を提供する初めての試みとなりました。体験を入口として同地域へ魅力を感じる子育て世帯の移住を促し、地域全体の活性化にも期待が高まります。
障害をもつ子どもたちの大人になるまで、さまざまな切り口からサポートを展開してきたきっずてらす。これからもまち全体を挙げて、子どもたちと地域の将来につながる支援を続けていきます。