認知症入院患者への専門性の高いケアで機能維持を
2023.12.18

高齢入院患者を支える認知症サポートチームの
「院内デイケア」

広島 済生会呉病院
Let’s SINC
認知症サポートチームによる院内デイケアを導入し、高齢入院患者さんの機能維持につなげる

高齢入院患者の6割以上が“認知症”

高齢化率が35%以上と全国平均より5ポイント以上高い広島県呉市。さらに、介護保険の要介護認定などを持つ高齢者のうち「認知症」と診断された人が令和4年度で6,450人と高齢者全体の約9%を占めています。高齢化に伴い、その数はさらに増えていくと予想されており、「認知症と共に生きるまち」として、予防から早期発見・対応、生活支援、事故等の補償に至るまで、介護が必要になっても安心して生活できるまちづくりに取り組んでいます。また、認知症の人を見守る支援者を育成する「認知症サポーター講座」を病院や学校、福祉施設などの全97カ所で実施。16,644人(現在2023年9月時点)が認知症サポーターとして見守りなどの活動を地域全体で行なっています。

入院生活には認知症ケアも必要

同市にある済生会呉病院では高齢の入院患者が多く、そのうちの6割以上が認知症や認知機能の低下が見られます。治療面だけでなく、入院生活の中で一人ひとりに寄り添う「認知症ケア」の重要性が年々増していると言います。 そういった状況を受けて、同院では認知症看護に関する専門性を持った認知症看護認定看護師が中心となり、2019年5月に「認知症サポートチーム(DST)」を発足。認知症や認知機能の低下があっても安心して入院生活が送れるよう院内の体制づくりや認知症ケアのための病棟ラウンド、カンファレンスなどを行なってきました。

認知症サポートチーム(DST)のメンバー。左から社会福祉士、認知症看護認定看護師、医師、薬剤師、理学療法士
カンファレンスでは、DSTメンバーと病棟スタッフがせん妄予防に関する対応などについて活発に意見交換を行なう
DSTメンバーと病棟看護師による病棟ラウンド。体調確認のための声かけや、写真を見せながらの会話、身だしなみのチェックなどを行なう

活動の一環として、2022年10月から始めたのが「院内デイケア」。 認知症看護認定看護師、認知症ケアリンクナース、病棟看護師、看護補助者、リハビリスタッフなどが、病棟デイルームを使用して部署(病棟)ごとに週1回、14時から1時間程度実施しています。始めの20分間はリハビリスタッフによる、認知機能を刺激する頭を使った体操。そのほか、週替わりでカレンダー制作や塗り絵、ゲームなどのレクリエーションに取り組みます。 対象者は、認知症ケアの対象となる認知症高齢者自立度判定Ⅲ以上の患者さんを中心に、入院生活に混乱をきたしている患者や、活動性が低下している人にも参加を促しています。

参加者が自身で色を選んだり手先を使ったりできるように、スタッフは個々人の機能を見ながらサポート。パーテーションで仕切られた空間をつくることで、参加者が集中して取り組めるように工夫したり、日付や曜日・時間について必ず説明し、基本的な状況把握である“見当識”が保たれているかを確認しています。また、季節や昔の話を交えた進行によって、参加者同士の会話につなげられるよう取り組んでいます。

院内デイケアの前半は、認知機能を刺激する体操などを取り入れた集団リハビリの時間
院内にあるホワイトボードで院内デイケアの取り組みを紹介し、参加者の作品を展示している

デイケアを始める前は、通常の業務と認知症高齢者のケアでスタッフが疲弊していることも多かったと話すのは、認知症看護認定看護師の佐崎美衣子さん。入院中は一日の大半をベッドの上で過ごすため、身体機能の低下が見られる高齢患者さんが多いのですが、デイケアでベッドから離れて患者同士や職員で交流することで気分転換ができ、機能維持にもつながったそう。
参加者から聞こえてくるのは、「昔こんなことしたね」「慣れないので疲れるけど楽しい」といった声。個人の意思を尊重して無理強いはせず、参加時間も各自の状況に応じて都度調整を行なっています。

認知症看護認定看護師の佐崎美衣子さん

患者も病棟スタッフも穏やかに過ごせるように

院内デイケアに参加した患者たちは、リハビリ室への出棟ができるようになったり、日中ベッドに横になっている時間が減少したり、活動性の向上ができています。「患者自身の生活リズムが整い、穏やかに過ごせる時間が増えることで、病棟スタッフも穏やかに対応できるようになりました」と佐崎さん。

今後は、各部署(病棟)からアイデアを持ち寄りながら、部署独自のプログラムを実現できるよう取り組んでいきたいと話します。さらに、夕方以降も患者さんが落ち着いて過ごし、穏やかに眠りにつくことを促す「ナイトケア」の実施を検討中。ナイトケアでは、夕方から入眠までの時間で「落ち着きがない」「不安等で頻回なコールをしてしまう」「帰宅要求」などの症状が出現しがちな患者さんに対して、落ち着いた環境の提供や、ハンドマッサージの介入を行なうなど、穏やかな入眠導入につながるサポートを考えています。
院内でのサポートを通して、認知症や認知機能の低下した患者が安心して過ごせる環境を日々進化させています。

認知症看護認定看護師と有志で敬老の日のカードを作成。病棟看護師のメッセージを添えて入院患者にプレゼント

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