“気になる”妊婦の情報を共有し、母子を孤立させない
2024.01.16

院内外のネットワークで多方面から出産育児をサポート
「気になる妊婦連絡会」

Let’s SINC
院内の多職種と行政が密に情報を共有し、出産や育児に不安を抱える妊婦へ継続したサポートを行なう

「特定妊婦」ってどんな人?

近年、外国人やシングルマザー、心の問題を抱えた人、経済的困窮者など、育児に不安のある妊婦が増加傾向にあります。こどもの養育について、出産前からの支援が“特に必要”と判断される妊婦を「特定妊婦」と呼びますが、厚生労働省の調査によると、その登録数はこの10年で約8倍にもなっています。さらに、児童相談所での小児虐待相談の対応件数も2000年から約20倍に増加。育児への不安や孤独な子育て環境、知識不足から虐待へとつながってしまうケースを防ぐためにも、妊娠期からのサポートが重要であるとされています。

小児虐待相談対応件数の推移(厚生労働省資料より)

そういった問題を受け、横浜市南部病院では、5年前から出産や育児に不安を抱える妊婦の情報を共有する「気になる妊婦連絡会」を立ち上げました。多職種・多機関で連携し、早期からの養育サポートを行なっています。

“気になる”妊婦の情報を多職種で共有

“気になる”妊婦とは、妊娠時から「妊娠したけれども誰にも打ち明けられない」「パートナーが働いていないのでお金がない」「何とかなると思っていたので分娩後の準備をしていない」「育児指導は必要ない」—―といった発言が聞かれた妊婦などが該当。子育てへの知識や経験がなく、退院後に家族からサポートが得られない場合や未受診で「飛び込み分娩」になった妊婦なども含まれています。

院内で上がった事例は、2カ月に1回、産科医師・小児科医師・精神科医師・看護師・助産師・医療ソーシャルワーカー(MSW)・公認心理師などが集まって情報を共有。多職種の視点で妊娠中からどのようにサポートするかを検討しています。

横浜市南部病院での「気になる妊婦」報告件数

地域のネットワークで「子育ての孤立」を防ぐ

「経済的に困窮している人や虐待の恐れがある場合など、院内だけでは対応が不十分だと思われる事例も多い」と話すのは、会の立ち上げを行なった産婦人科主任部長の遠藤方哉医師。

「そういった事例においては、区役所の担当課が参加する年に2回の合同カンファレンス『地域連絡会』で、地域と病院双方の体制や支援内容などを共有し、対応を行なっています。 行政と連携することで、対象事例を地域のサービス利用につなげたり、妊娠期・産褥期の保健指導に生かすこともできています」(遠藤医師)

2023年7月に開催された合同カンファレンス「地域連絡会」は、同院の多職種メンバーをはじめ、港南区こども家庭支援課や地域のソーシャルワーカーなど21人が参加

また、より細やかな支援が必要と思われる事例の場合は、さらに港南区のこども家庭支援課やソーシャルワーカー、妊産褥婦(分娩後、正常な体調に回復するまでの女性)のお世話をする母子保健コーディネーターといった地域の担当者と共に個別でのカンファレンスを実施しています。

ここでは対象者の家庭訪問を行なった地域の担当者が、訪問時の妊婦と家族の様子、養育環境についての情報を共有。病院側から地域の担当者へは、対象事例の受診時の様子、実際の産後の育児手技、こどもに対する心情など、病院がサポートした際の状況を伝えています。さまざまな視点からの情報を集め、連携して継続的にフォローできる体制を整えています。

横浜市南部病院副院長・産婦人科主任部長の遠藤方哉医師
中心となって連絡会の進行等を行なう内田絵梨産婦人科医長
久保田恵助産師(写真左)、伊藤和美助産師。
連絡会では助産師やMSWから配布される「気になる妊婦」の資料をもとに進められる

近年の核家族化の進行によって「子育てする人の孤立化」が問題視されています。特にコロナ禍においては外に出られないことで育児環境が見えづらく、家庭内の問題が顕在化しにくいと言った状況がありました。

「これからも『気になる妊婦連絡会』や『地域連絡会』を定期的に開催し、密に地域連携を行なうことによって、特定妊婦や“気になる”妊婦だけではなく、支援が必要な方々に支援が行き届く体制づくりに携わっていきたい」と遠藤医師。
今後も同地区に住むすべての親子が健やかに生活できる環境を、地域と二人三脚でつくり続けていきます。

レポート

シンク!な人に会いに行く