いつもと違う環境でその子らしさを伸ばす! 全国初「発達支援」が受けられる保育園留学に密着
発達支援が受けられる北海道・小樽への保育園留学
2023年7月、全国初の取り組みとして発達支援に特化した保育園留学®プログラムが小樽市で立ち上がりました。療育プログラムを提供するのは、北海道・小樽市と「地域共生社会の実現に関する包括連携協定」を結ぶ、北海道済生会の発達支援事業所「きっずてらす」。この2月に、利用1組目の家族が小樽での1週間の“留学”を体験しました。小樽を訪ね、活動の様子や家族の思いなどを取材しました。
利用1組目となった永見さん一家
「保育園留学」は、株式会社キッチハイクが2021年から展開する暮らし体験プログラム。日常から少し離れた地域に家族で1~2週間滞在し、子どもが伸び伸びとできる環境で現地の保育園に通うことができます。親は宿泊先でリモートワーク等を行ない、家族でワーケーションを満喫できます。
保育園留学の大きな特長は、その地域ならではの「暮らし」を体験できること。旅行で訪れるのとはちょっと違う「暮らす」視点で、気になる地域に短期間〝お試し〟移住できるこのプログラムは、同地域に魅力を感じる子育て世帯の移住・定住を実際に促し、地域全体を活性化させることにもつながります。
2024年3月現在では、全国40地域以上の留学先で地域性を活かしたさまざまなプログラムが実施されていますが、発達が気になる子どもを対象とした実施は今回が初めてのこと。ソーシャルインクルージョンの実現を目指し、ウエルネスタウン構想を共に推進する小樽市と済生会だからこそ提供できる、特色ある発達支援プログラムとなっています。
利用1組目となった永見さん一家は東京都在住。システムエンジニア・和之さん、フリーランスライター・薫さん夫婦と、保育園年長クラスに通うSくんの3人家族です。和之さんとSくんは今回が初めての小樽です。
Sくんは発達が少しゆっくり。言葉に対する理解が弱かったり、粗大運動(身体全体を使った基本動作)がうまくできなかったりといった特性があり、普段から保育園のほかに、対人関係のスキルを身につけるソーシャルスキルトレーニング中心の療育教室、言語聴覚士が指導する言語プログラム、病院での作業療法に通っています。「人懐っこく穏やかなタイプで日常生活ではそこまで困ることはないものの、集団に入ったときには言葉の理解が追い付かず、うまく行動ができないこともある」と母親の永見(薫)さんは話します。
療育プログラムを取り入れた保育園留学への期待
「今回、保育園留学を体験してみようと思ったのは、発達支援に特化したプログラムという点が大きいです。粗大運動用の器具が備わっていて感覚統合のトレーニングができること、療育スペースの広さなど施設環境が充実していることも決め手でした」と薫さん。
4月から小学校に上がったら、新しい環境ではどんなかんじになるだろう?――Sくんの就学を控え、永見さんの心配や不安は積み上がっていましたが、全く知らない環境に身を置く保育園留学を体験することで、見えてくることもあるかもしれない――そんな期待もあったと言います。
場所が変わったからこそ見えてくることも
小樽での保育園留学の1日は朝9時半から。9時に宿泊先にお迎えが来て、11時半までは「きっずてらす」での療育プログラムを行ないます。
「事前面談でご両親には大まかな療育計画を説明しますが、1週間分の計画を事前にすべて立てることはせず、実際に本人の様子を見ながら活動内容を決めていきます。課題設定も、その日の活動を通してSくんの状況を観察・評価しながら都度行ない、その場その場で適した内容のプログラムを組み立てています」と話すのは、子どもたちの療育を担当する認定作業療法士の小玉武志さん。
11時半以降は小樽病院の院内保育所「なでしこキッズクラブ」へ移動して給食、午後の活動の時間です。年少から年長まで20~30人ほどの子どもが通っているので、とてもにぎやかです。ずっと一緒にいたかのように、皆に溶け込むSくんの姿も。お迎えが来る午後5時までこちらで過ごします。こういった日中の様子や職員からのフィードバックは、システムを介して、保護者(永見さん)に発信されます。内容はスマートフォンで確認でき、写真付きで詳細に書かれているため、施設での様子を具体的に知ることができます。
今回の保育園留学を体験して、薫さんは「小樽の土地柄もあるのか、思った以上に子どもが緊張感やストレスなく、周囲に馴染んで伸び伸びと活動できていてとてもよかった」と振り返ります。また、普段の療育でできるようになっていたことが「環境が変わってもできる」とわかったことも大きな収穫になったようです。
「新しい一歩」を踏み出すきっかけになれば
1組目の家族を迎え、本格的に始まった小樽市の療育プログラム付き保育園留学。北海道済生会・ソーシャルインクルージョン推進室長の清水雅成さんは、「今後、療育を受けるのが初めてという家族も含めて、さまざまな特性のある子どもを受け入れる体制を整備・強化し、特色をPRしていきたい。多くの人に発達支援も可能な保育園留学という取り組みを知ってもらい、安心して子育てできる環境を作っていきたいと考えています」と話しました。
今回の体験を通して「この保育園留学の療育プログラムを利用した家族が、新しい一歩を踏み出すきっかけになればと考えています」と薫さん。小樽市でのプログラムは、2024年度も継続して申し込みを受け付けており(株式会社キッチハイクのお問い合わせフォーム)、希望に合わせて日程調整も可能です。家族でその地域ならではの「暮らし」を楽しみながら、子どもがのびのびと成長できる環境や学びについて考えるきっかけにもなる保育園留学。ぜひ一度、体験してみてはいかがでしょうか。
※「保育園留学」は株式会社キッチハイクの商標です(特許申請済)