これからの災害救護を
担う人材を育てたい!
2024.08.09

被災者の心身をサポートする“未来の看護師”を育てる

全国 全国の済生会看護看護学校(宇都宮・川口・静岡・滋賀・中津・野江・岡山)
Let’s SINC
看護学校の災害合同訓練を通して、災害時に地域の医療と福祉を支える未来の看護師を育成する

災害は他人事じゃない! いざという時に備える災害救護

日本には、災害が発生しやすい自然的条件がいくつも揃っています。台風や大雨のほか、傾斜の多い地形で洪水や土砂災害が起こりやすく、さらに地震の原因となるプレート上にあるため地震がとても多い国でもあります。世界中で起きたマグニチュード6以上の地震の約20%は日本で起こっているというデータもあり、災害は誰がいつ見舞われてもおかしくない身近なリスクといえます。

災害救護の現場では医療だけでなく、生活の支援や心のケアも含め、子ども、高齢者、障害者、外国人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人に対して素早く適切な対応が求められます。また、災害の影響でライフラインが寸断したり、医療機関の設備などが使えなくなったりする場合もあります。平常時とは異なるさまざまな状況で適切な医療を提供するために、日頃から災害救護の仕組みを整え、心構えをしておくことが大切です。

チームを作って担架搬送訓練を行なう学生たち

災害救護を担う看護師を育てる

災害救護において、看護師の存在は非常に重要です。例えば、災害派遣医療チーム(DMAT)は、通常1チーム医師1人、看護師2人、業務調整員1人で構成され、看護師は医師の補助だけでなく、トリアージや場合によっては災害対策本部での指揮・コントロールを担うこともあります。

また、都道府県看護協会などが養成を行なう「災害支援ナース」は、東日本大震災をきっかけに4,803人から7,000人に数が増加し、2024年元日の能登地震の際にも活躍。災害支援に精通し、被災地の医療機関での看護活動をはじめ、避難所での保健活動や環境整備・感染症対策、災害対応を行なう医療関係者の心のケアに至るまで、被災したすべての人々の心身のサポートを担っています。このように、災害現場において看護師は欠かせない存在であり、多くの看護学校で災害看護に関わる科目がカリキュラムに含まれています。

済生会では、「看護専門学校」を全国に7校開いています。「生活困窮者支援」「最新医療による地域貢献」「医療・保健・福祉の切れ目ない提供を行なう」、済生会の理念にのっとり、さまざまなシーンで活躍できる次世代の看護師の育成を行なっています。
特に力を注いでいる活動のひとつが、2年次に行なわれる災害救護訓練。新型コロナウイルス感染症が蔓延する以前は、7校を東西に2つ分け、各ブロックで1泊2日の宿泊による訓練を実施していました。テント生活や野外での炊き出しを通して、被災者の生活を体験し、避難所での精神的配慮や生活への支援について考える機会としていました。

7つの行動原則「CSCATTT」について学ぶ。CSCATTTとは、Command and Control (指揮と連携)、Safety (安全確保)、Communication (情報収集伝達)、Assessment (評価)、Triage (トリアージ)、Transport (搬送)、Treatment (治療)の頭文字をとったもの。

「合同災害救護訓練」を体験した学生たちの声

2024年現在は、東ブロックでは地域でのフィールドワークとオンラインミーティングによる合同訓練を、西ブロックでは全体講義・災害救護に関わる訓練などを行なっています。2023年のレポートをご紹介します。

東ブロック済生会宇都宮病院看護専門学校済生会川口看護専門学校静岡済生会看護専門学校の3校)

「周辺地域を知り、災害を自分ごととして捉える」ことをテーマに106名の学生たちが参加しました。1日目のフィールドワークとグループワークでは、3〜5人のグループに分かれて学校周辺を歩き、災害時にどのような事態が起こり得るか、どのような危険性があるかを調査。2日目のオンライン講義では、1日目の調査結果を3校で共有し、それぞれの地域の特性にあった災害対策について理解を深めました。また、「日本トイレ研究所」の加藤篤さんを講師に招き、災害時に発生するトイレにまつわる問題や備えの必要性を聞きました。

学生の声
「他校の人と情報共有や意見交換をして、地域によって災害対策に違いがあることを知ることができました」
「海のある静岡では津波に備えた避難訓練を行なっていたり、川口は外国人が多いことから掲示板に外国語表記を取り入れていたりと、対策にもさまざまな方法があると気づきました」

フィールドワーク中、「地域を浸水被害から守る」駐車場を発見。掲示板の内容を確認する

西ブロック滋賀県済生会看護専門学校大阪済生会中津看護専門学校大阪済生会野江看護専門学校岡山済生会看護専門学校の4校)

西ブロックの訓練には、178名の学生、18名の教員が参加。稲葉基高医師(岡山済生会総合病院救急科特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン)が講義を行ない、紛争地域や東日本大震災での災害医療や、災害発生後にとるべき7つの行動原則「CSCATTT」が災害対応にとっていかに大切であるかを解説しました。その後、勤務中に大規模災害が発生した場合にどのような行動を取るべきかなどを話し合うグループ討論も実施。三角巾を使った包帯法、担架搬送訓練なども行ないました。

学生の声
「いつもとは違うメンバーとの話し合いを通して、様々な価値観や考え方に触れることができた」
「担架を持つ腕が痛かったですが、人の命がかかっていることを実感しました」

非常食の携帯おにぎり(アルファ米)を備蓄水で作り、試食する様子

また、西ブロックで行なったのは、避難所運営をシミュレーションする図上訓練「HUG(Hinanjyo Unei Gameの略)」。HUGは2007年に静岡県危機管理局が企画・開発した防災カードゲームで、250人の避難者をカードに見立て、刻々と変わる状況に対応した避難所を運営するものです。カードには、年齢や性別、国籍、住まいの被災度合いといったさまざまな情報が書き込まれています。

学生たちは、被災者を高齢者、障害者、外国人などに想定して、通路の幅や移動の導線などをどのように設定すべきか意見を出し合います。ソーシャルインクルージョンの観点で、どのような人であっても、どのような事態が起こっても対応できる避難所運営を模擬体験することができる訓練方法です。

「HUG」を実施する学生たち。「最初は進め方が難しかったがチームで協力して取り組めた」と話していた

これからの災害救護の要は、「初対面でいかに強いチームがつくれるか」

災害時には、全国から集まった初対面の医療関係者同士で協力し、救護活動を行なう必要があります。2024年1月に発生した能登半島地震でも、石川県にある済生会金沢病院には各地から多くの医師や看護師等が集まり、横のつながりがたくさんの被災者を支えました。災害救護訓練を通して、学生たちがそれぞれの学校の枠を超え、チーム意識を育てながら日頃から学び合っていくことは、これからの医療を考えていく中で重要です。

済生会看護学校代表者会の会長で、災害救護訓練を統括する宇都宮病院看護専門学校、今野芳子副学校長は「各校の学生が集い、学び合い、交流することで済生会の看護学生としての連帯感も芽生えてきます。今後の学生たちの成長がとても楽しみです」と今回の災害救護訓練を振り返っています。

前のめりで、実習に取り組む済生会看護専門学校の学生たち