就労継続支援で自立への
ステップアップをサポート
2024.06.25

障害をもつ人が働きやすい環境を整え
未来へリードするりんくうワークス

大阪府 障害福祉サービス事業 りんくうワークス
Let’s SINC
就労継続支援A型・B型事業所の利用者さんの「自立したい」という思いを実現させ、一般就労につなげる

障害者の“働きたい”をサポートする「就労継続支援」って?

障害や難病を抱えている人も含め、どんな人にとっても働くことは自立に向けて必要な活動のひとつであり、大切な生きがいにもなりえるものです。
障害者総合支援法では、就労にまつわる障害福祉サービスとして就労継続支援A型、就労継続支援B型就労移行支援、就労定着支援の四種類を定めています。これらのサービスは障害をもつ人が働く場所や機会を得たうえで、それぞれの目標に合った就労のための訓練や、日常生活・社会生活についての相談、アドバイスなどを受けられるというものです。また、企業に就職が決まっても、大切なのはその後、無理なく働き続けられるかどうかということ。就職後も就労によって生じる悩みを解消するためのサポートを行なっています。
2023年12月時点でA型は全国に4,575の事業所があり、利用者は約8万9,000人。B型は17,059の事業所があり、約35万人が利用しています。厚生労働省の「障害者雇用実態調査」によると、こうした就労系障害福祉サービスの利用を経て一般企業へ就職する人は年々増加傾向にあり、2022年には2万4000人を超えています。就労支援を通して “自立”することや本人らしく働くことへの思いが高まっていることが数字に表れています。

多機能型事業所「りんくうワークス」

大阪府泉南市にある大阪府済生会りんくうワークスは、就労継続支援A型・B型のサービスを提供する多機能型事業所です。

A型は主に雇用契約に基づく就労が可能と考えられる人に対して、事業所が雇用契約などを結び、最低賃金や労働関係の法令が適用されることが特徴です。これに対してB型は、雇用契約に基づく就労が困難な人を対象にしたサービスです。雇用契約は結ばず、事業所のサービスとして、就労や社会参加の機会を提供しています。

りんくうワークスの利用者さんは現在、A型が37人、B型が8人。軽度~中度の知的障害の方が主で、精神障害発達障害の方も2割ほど利用しています。


「ただ、ひたすら、人のために」を理念に、仕事を通した利用者さんの成長を支援するりんくうワークス
(画像提供元:障害福祉サービス事業 りんくうワークス)

「気づき」から一声かけることで生まれる信頼関係

りんくうワークスはこれまで、仕事そのものが本人の能力を高め、成長につながるという考えのもと、サポート体制を整えてきました。りんくうワークスの利用者さんのほとんどは、会話でのコミュニケーションが可能な人。そうした環境の中で職員の皆さんが大切にしているのは、利用者さんに対する「気づき」だと言います。

「例えば、Aさんは人前での会話は苦手ですが、1対1なら自分の気持ちや意見を話してくれます。Bさんは、自分から声をかける前に職員が振り向くなど、本人の中のタイミングがずれてしまうとうまく言葉が出なくなってしまいますが、そこを工夫すれば会話に問題はありません。一人ひとり苦手な状況は違います」(施設長・岩本さん)

利用者さんの様子をよく見ることで個々の特性を見極め、適材適所の配置になるよう業務を割り当てること、また、対人関係の把握などを通して、物理的な環境だけでなく心理的環境の整備も少しずつ実現していると岩本さんは話します。

A型利用者の主な業務内容は、クリーニングを行なった病院のユニホーム類や布団類の畳み作業
A型利用者の主な業務内容は、クリーニングを行なった病院のユニホーム類や布団類の畳み作業
(画像提供元:障害福祉サービス事業 りんくうワークス)

利用者さん(右)と施設長の岩本さん(左)。「気づき」を活かしたコミュニケーションは円滑な業務報告だけでなく、働く環境についても利用者さんが意見を言いやすくなり、作業環境の向上にもつながっている(画像提供元:障害福祉サービス事業 りんくうワークス)

A型の利用者さんを一般採用

2021年4月から就労継続支援A型を利用している発達障害をもつ末鶴さんは、2022年4月にりんくうワークスの非常勤職員として採用されました。A型利用者からの職員採用は、りんくうワークスで初めてのことです。

採用に至った理由は二つ。一つめは、末鶴さんが障害福祉サービスで就労の機会を得て働く「福祉的就労」ではなく、企業と雇用契約を結んで働く「一般就労」を希望していたこと。もう一つは、受け持った作業に真面目に取り組み、自ら工夫・改善していた末鶴さんの姿勢が高く評価されたことです。非常勤職員になってからは、染み抜き作業にも挑戦中。以前福祉サービスの相談員に受けたアドバイスを参考にして、利用者さんへのアドバイスも少しずつできるようになっているといいます。

一人暮らしに向けてステップアップ

非常勤職員として勤めて半年以上が経った末鶴さん。心持ちの変化をこう振り返ります。

「A型利用者から非常勤職員になったことで業務上の大きな違いはありませんが、利用者さんへ指導やサポートをする立場になり、責任の重さを感じるようになりました」(末鶴さん)

さらに末鶴さんは一職員として、2023年12月に大阪府障がい者ピアサポート研修「基礎研修」「専門研修」を修了。同じような障害や経験をもつ利用者さんへ、身近な目線でアドバイスを行なうピアサポーターの役割も少しずつできるようになってきています。

りんくうワークスは、今後さらにA型からの職員採用を促進していく予定です。「自分の努力や頑張りが評価されて、自分の未来の選択肢が開ける」という利用者さんのモチベーション向上と「新入職員の見本となるように頑張らなければならない」というりんくうワークス職員の意識向上につながるためです。

期待を受ける末鶴さんは、今後の抱負を力強く語ってくれました。

「次のステップとして目標にしているのは、一人暮らしです。そのために必要なのは、自分の力で働いて収入を得ることができ、仕事とプライベートを両立することだと思います。ピアサポート研修で学んだことも生かして、もっと利用者さんと接することができるように努力したいです」(末鶴さん)

特別支援学校の生徒をさらに受け入れられる事業所へ

2023年4月、りんくうワークスは大阪府が同年に創設した「令和4年度就労継続支援優良取組表彰」を受賞しました。これは就労継続支援B型を対象とした表彰制度で、応募事業所の中から有識者による審査を経て、工賃月額が全国平均値を上回っていること、前年度に一般就労者を採用していることが評価されたものです。  

同施設が目指すのは、一人でも多くの人に働く場を提供し、末鶴さんのような希望をもっている人に一般就労への道筋をつくっていくこと。そのためには、仕事の効率化のほか、老朽化した機械の入れ替えなどを行なって請け負える作業を増やし、毎年上昇する最低賃金に対応していくことが課題となっています。

 令和7年度には新たな障害福祉サービスの一環として、障害をもつ方の就労意思に合った仕事の選択や、そのためのルートを整える「就労選択支援事業」が新設されます。これにより、就労系サービス利用希望者の就労ニーズの把握や能力・適性の調査、就労開始後の配慮事項の整理などを各事業所で行なった上で、就労支援A型とB型のどちらに適しているかを希望者自身が判断できるようになります。施設長の岩本さんは、同年度に事業の実施事業者に手を挙げる予定だと話します。

「りんくうワークスでは、これまでも特別支援学校の生徒を多数受け入れてきた実績があります。近隣にある3カ所の特別支援学校では、高等部3年生の年間行事として6月と10月の年2回、いずれも2週間の就労訓練実習を実施しています。また、就労継続支援A型においても中途採用者の実習を2週間、B型は2~3日間にわたり行なっており、これまでの実習生を合わせると100人を超えています。新卒と中途者の特徴や違い、そして実習でそれぞれがどんな仕事に向いているかを見出す着眼点などもわかってきました」(施設長・岩本さん)  

この事業を取り入れることで、これまでボランティアで行なっていた特別支援学校などでの実習がサービスの対象となり、訓練等給付費収入にもつながります。さらなる環境整備や職務提供、サービス向上に磨きがかかりそうです。このような新たな事業を活用しながら、就労に必要な知識や技術を身につけるための支援を提供し、地域の中で障害者就労の大きな受け皿となることを目指して、これからもりんくうワークスは取り組みを続けていきます。

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