質の高い障害者雇用を守り続けていきたい
2018.12.20

福祉ではなくサービスで勝負。障害者の可能性を狭めない

東京 株式会社LORANS.(ローランズ)
Let’s SINC
障害者が働く上での障害を工夫してなくし、多様な人材が活躍できる環境をつくる
一般的に、障害者が得られる仕事は単調な作業が大半で、賃金も低いことがほとんど。ちまたには多種多様な仕事があるにも関わらず、障害者には選択肢が少ないのが現実です。そんな中、従来の福祉事業所が持つイメージを変えようとしている会社があります。花や緑の販売を通じて、障害や難病などと向き合う人々が活躍できる場を創出する株式会社LORANS.(ローランズ)です。今回は障害を持つスタッフが中心となって働くフラワーショップ&カフェ「ローランズ原宿店」を訪ねました。

福祉を売りにせず、サービスや商品で勝負する

原宿駅から徒歩5分。竹下通りから少し離れた静かなエリアに「ローランズ原宿店」があります。店内は緑にあふれ、色とりどりの花が美しく咲いています。カフェでは、フルーツや野菜をふんだんに使ったスムージーや、体にやさしい食材を使った軽食を提供しています。イートインスペースは20席ほどで、土日のキッチンは戦場のような忙しさになるという人気店です。取材当日は平日でしたが、カフェ、ショップともに活気があり、手を休ませているスタッフは一人もいませんでした。


店舗の内外はたくさんの観葉植物で彩られている

現在、ローランズは原宿店と天王洲アイル店の2店舗と製作業務などを行なうギフトスタジオを1カ所運営しており、この原宿店は一般就労により近い就労支援A型事業所です。日本財団の「はたらくNIPPON!計画」との共同プロジェクトで、2017年5月にオープンしました。同プロジェクトは地域に根差した新事業を全国に作り出すモデル構築プロジェクトで、ローランズ原宿店は都市型福祉事業所のモデルにもなっています。

原宿店で働くスタッフは25人。そのうち20人が障害を持っています。精神疾患が多く、中には難聴、高次機能障害、発達障害、身体障害などを抱えるスタッフもいます。ただ、働く姿からは健常者と障害者の区別はなかなかつきません。カフェでスムージーとオープンサンドを注文するとき、言われてみれば接客のスピードが多少ゆっくりと感じられましたが、丁寧な対応と笑顔が印象的でした。メニューが豊富なので選びあぐねていると、「このスムージーはいかがですか? インスタ映えしますよ」と笑顔で話しかけてくれ、思わずこちらも顔がほころびました。「障害者が働いていることを、あまり表に出していないんです。福祉を売りにせず、サービスや商品の良さで勝負していきたい」と代表の福寿満希さんは言います。グループ総勢60人のスタッフを29歳の若さで率いる福寿さんは、終始笑みを絶やさない柔らかな印象ながら、行政のプロジェクトでは有識者として意見を発信するつわものです。


株式会社LORANS.(ローランズ)代表・福寿 満希さん

働くことの醍醐味を味わってもらいたい

福寿さんが障害者雇用に関心を持ったきっかけは、大学時代に遡ります。特別支援学校の教育実習で、障害のある生徒の就職先がないことを知ったのです。大学卒業後はプロスポーツ選手のマネジメント会社に就職し、プロ野球選手の社会貢献活動をサポートする仕事に携わります。東日本大震災で被災した子どもたちを元気づける活動などさまざまな支援活動に大きなやりがいを感じていましたが、人事異動に。それを機に起業を決意しました。

大学時代に心理学の講座で学んだ花や緑の効用に興味を持ち、フラワーアレンジメントの技術を習得していた福寿さん。23歳での起業に「若気の至りです」と本人は笑いますが、花屋を始めたことで今の活動に結びつく大きな出会いがありました。「福祉作業所でお花のレッスンをしていたのですが、みなさんとても優秀でした。でも、お話を聞くと、もっと働きたいのに偏見によって働く機会が奪われているのだと感じました」。このとき、障害者の働く場を生み出すことと花の仕事とが結びつきました。「障害があっても、環境さえあればもっと活躍できるはず。一緒に仕事をして、働く醍醐味をぜひ味わってほしいと思ったのです」

手は離すけれど、目は離さない

しかし、複雑そうなカフェの仕事には困難が多いのではないでしょうか。
「たしかに、障害を持つスタッフの多くは変化に弱いという特徴があります。お客様商売は柔軟に対応していく能力が必要になるので、日々改善ですね。改善は企業にとって当たり前のことですが、その改善という変化をいかにスムーズに現場に落とし込んでいくか、いまだに奮闘中です」と語ります。また、伝えたことがすぐにリセットされてしまうこともしばしばだといいます。この課題に対しては、「とにかく紙に書いておくこと、写真に残していくこと」を徹底しているそう。「それによってお互いに言い訳ができなくなるんです。でも、正しく厳しく指摘、指導を受けたスタッフはその悔しさをバネにして、一つ一つしっかり確認するようになりました」。ローランズの雇用形態はパートタイムですが、都内の最低賃金である時給985円を達成しています。これは就労支援A型事業所の平均時間額795円(2016年度)をはるかに上回る金額です。「この報酬に対して『私はできません』という言葉は通用しないと伝えているんです。厳しいようですが、みんなの働く場を存続させるために、運営サイドは必死にならざるを得ません。働く上での障害は工夫次第でなくしていけると考えていますので、職場に一歩入ったらプロとしてやってほしいとも日々伝えています」


活き活きしたスタッフと華やかなメニュー

それは本人の成長のためでもあるといいます。「健常者の支援スタッフには、手を差し伸べ過ぎず、じっくり待つことができる肝っ玉母ちゃんのようなメンバーが多いんです(笑)。福祉とは一番下のレベルに合わせて提供していくもの、というのが一般的な考え方かもしれません。ですが、その集団の上のレベルに合わせ、上を見てがんばるからこそ、成長につながるのではないでしょうか。私たちは、がんばりたい、向上したいと思う人を応援したい。そういう意味で、手は離すけど、目は離さないというスタンスで障害を持つスタッフと接するようにしています」

強みを生かし、弱みは仲間で支え合う

ローランズ原宿店には、さまざまな職種があります。フラワー部門では花や緑の手入れ、フラワーアレンジメント、配達など。カフェ部門ではスムージーや軽食づくり、接客など。一つの部署に所属しながら他の部署の業務を経験する機会も多く、それによって自分の強みが見つかることも少なくありません。

花の配送を主に担当する葛西久さんは、みんなのアニキ的な存在として親しまれています。もとは健常者でしたがビル清掃の仕事をしていたときに高所から落下し、高次脳機能障害を負いました。「症状は主に記憶障害です。自分が言ったことを忘れてしまうので、周りの人たちに症状を理解してもらい、人の記憶を頼るようにしています。ローランズの求人を見たのはハローワークでした。花に興味はなかったんですが(笑)、業務内容がたくさんあって、どれも単純作業ではないので、ここなら自分を試せるかなと。実際、配達業務のほかに、花の植え替えやカフェも手伝っています。入社時に『何でもやりますよ』と言っちゃった手前、いろいろな仕事を頼まれますが、会社から頼りにされるのは嬉しいです。ここでの仕事はとてもよいリハビリにもなっていると思います」


さまざまな業務をこなす葛西さん

また、葛西さんはこんな話もしてくれました。「僕は他のスタッフに対して、どんな障害を持っているのかを聞くことにしています。お互いを知って、苦手なことをみんなで補い合えればいい」。実はこれがローランズ原宿店の特徴の一つでもあります。「このお店が他の企業と違うところは、障害者同士がお互いに悩みを聞き合い、アドバイスし合い、支え合っている環境があるところかもしれません」と福寿さんも語ります。

花や緑に関わる業界を、多様な人材が活躍できる場に

オープンから1年半、障害を持つスタッフの変化を福寿さんはどう見ているのでしょうか。
「いままで自分で考えるということをあまりしなかった人が多く、最初はとにかく質問が多かったんです。それでは支援スタッフの負担が大き過ぎるので、自分で考えるような働きかけを考えました。例えば『○○はどうしたらよいですか?』という質問に対し『どうしたらいいと思う?』と切り返したとき、だいたいみんな答えを持っていることがわかったんです。自分で考える癖をつけることで、質問の数が減っただけでなく、質問のレベルが上がり、会議での発言が増えました。たくましくなったなと感じます」。最近では「もっと早くお客様に商品を提供するには、こう変えたらどうだろう」といった業務改善の提案も多いといいます。

店頭の看板や店内に置かれているおしゃれなポップ、そして福寿さんの耳元で揺れている素敵なイヤリングも、実は障害を持つスタッフのアイデアや技術によるものだそう。入社時にはわからなかった特技も、どんどん見つかっていきます。

それぞれの強みを見つけ、活躍する。そして、現場で育ったスタッフがやがて会社の中核に入る。それは一般企業の手法と何ら変わりはありません。

「私たちは、これからも質の高い雇用を目指し、守り続けていきたい。そして、私たちのやり方を参考にしていただく企業様が増えることで、世の中に質の高い雇用が広がればいいなと思います。これから力を入れていきたいことの一つにエディブルフラワー(食べられる花)の栽培と商品展開がありますが、女性目線でさまざまな商品を世に出していくつもりです。そうした活動を通して、花や緑に関わる業界を多様な人材が活躍できる業界へと変えていきたいと思っています」。福寿さんの熱い想いは、これからも魅力ある仕事と雇用を生み出していくことでしょう。

活動を続ける上で勉強になった、感銘を受けた作品
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲

新着記事

ソーシャルインクルージョン、最前線